A-Forum e-mail magazine no.95 (10-03-2022)

内田先生からのメッセージ

斎藤公男

2022年2月24日(木)、寒さ厳しい晴天の午前、「内田祥哉先生に感謝し想いを語る会」が明治記念館で行われました。白菊を供える献花台の上には先生の凛としたお顔写真と天皇陛下のお名前。命日は96歳の誕生日の翌日、2021年5月3日。その7か月後、この「偲ぶ会」がコロナ禍の中でやっと出来たとのこと、実行委員の皆さんのご苦労が思われます。

献花の後、300名をこえる歓談の場が用意されていた。司会は松村秀一氏、開宴の挨拶(坂本功氏)と献杯に続く奥様(内田明子氏)のご挨拶は会場を静かな感動で包みこみました。亡くなられる3ヶ月ほど前に電話で元気に話された内田先生。その後の容体の急変と最後の立ち合いシーンには思わずこみあげるものがありました。

近年の内田先生の活動の紹介(深尾精一氏)の後、出席者を代表して4名にスピーチの指名があった。原広司、小川信子、寺田尚樹の各氏に先立って私が一番目とのこと。内田研卒業生でもなく、著名な先輩諸氏をおいてなぜ私が―との思いもありましたが、大変光栄なことと考え壇上に立ちました。私の「感謝を込めた想い出」のスピーチ、内容は以下の様です。

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ただいま紹介いただいた斎藤です。名前はキミオではなくマサオ。内田先生にはいつもハムさんと呼ばれていました。ご指名、大変光栄におもいます。
深尾さんからはSKIの話はしないように、佐藤芳夫、小川伸子さんがいるから―と。

私の卒研は東大・生研の坪井研究室。当時、西千葉にありました。構造とデザインの両方を勉強したいと思い研究室のドアを叩きましたが、ちょっと甘かったようです。当時の坪井研は丹下さんとの協働を中心に熱いるつぼのよう、「代々木」の基本構想が始まる直前の激動の時代でした。
「愛媛県民館」(1953)に続く「晴海ドーム」(1959)が完成した直後で、RCシェルからスペースフレームへの移行期。坪井先生の私へのミッションは「B.フラーの正体をさぐれ!」でした。夏休みにフラードームの模型をつくってお見せした。「やはり俺の“晴海”の方がキレイだな」。私への卒研指導は3分程で終わりでした。

その後、建築雑誌で内田先生の記事を度々みかけます。たとえば日本のジオデシックドーム第一号である「電気通信中央学園講堂」(1956)、B.フラーとの二度の出合い、高橋靗一氏と共に徹夜で制作したフラー・ドームのこと等。そのことを坪井先生に話すと破門されそうだったので出来ませんでしたが、以来、私にとって内田先生はフラーと共に憧れの師となった次第です。片思いですね。私は勝手に内田研の卒業生のひとりと決めていました。

内田先生に個人的にお会いしたのは1987年頃。先生が東大を退官されて直ぐ、明大の研究室にご相談に伺いました。私の故郷の群馬県前橋市が大きな国際イベントホールを建設したいとのこと。その計画・建設を市長さんから相談されていたわけです。内田先生には2つお願いしました。
ひとつは「コンペ方式」。当時「東京ドーム」(1988)や「あきたスカイドーム」(1990)が話題でしたが、各々、特命やゼネコンのみのコンペで問題視されていました。やはり公共建築ではまずいと。ということで、予算・工期を条件にデザインを競うような設計事務所とゼネコンを組合わせるコンペ方式を提案した処、内田先生も了解。「前橋方式」と名付けましたが、その後、建築家+ゼネコンの組合せなどヴァリエーションが広がった。今日は隈研吾さんも出席ですが、2段階目の「新国立競技場」もその延長でしょう。

いまひとつは「コンペ要項」。当時、市から建築学会に委託された「基本構想」において得られた結論は「機能空間、コストを満足させる最適解は“張弦梁”」。そのことを要項に書けないだろうかと内田先生にお願いした処、「もっとよいアイデアが生まれるかもしれない。今回は“張弦梁を考えている”ということにしよう」。それが内田先生のお答えでした。結果、応募案は全て張弦梁を採用しており、最優秀案(松田平田・清水)による大空間の実現は日本から世界へむけて誇らしく発信できたわけです。「新しい技術は、みんなの力で普及・発展される方が望ましい」。これも内田先生らしい言葉ですね。張弦梁による軽量な空間構造の世界はここから本格的にスタートしたように思います。

それから30年、東京2020オリンピックのためにつくられた「有明体操競技場」。複合式木質張弦梁と呼称されたこの構造方式には多くの人々の工夫と努力が集積されています。五輪施設で唯一、2021年のBCS賞を受賞できたのも、内田先生のお陰と感謝する次第です。有難うございました。

内田先生の沢山の業績のひとつに著作活動があります。数々のご著書の中で私が一番関心をもったのが「造ったり、考えたり」(1986、内田先生の本刊行委員会)。造ったけど考えていなかったり、考えていたけど造れなかったり。重く深い言葉ですね。今回の「内田祥哉追悼展」(建築学会会館、2022/3/14~22)のテーマにもなっています。特に“はじめに”に書かれている芸術・科学・技術についての短い論考は「アーキニアリング・デザイン」の理念の発想にも深くつながっていると感じます。“技術”についての言及はO.アラップのそれともよく似ている。曰く、「技術は解の唯一性を求める科学とはちがう。すぐれた技術は時として芸術となり得る」と。さらに「技術の価値の表現に一般性を持たせようとするならば、時代とともに変わる目的に技術がどう対応し得るか、あるいは対応してきたかを表現する以外に方法はないと考える」と述べています。この視点がおそらくは「内田賞」*の設立(1988)へと導いでいるものと考えられます。大変な賞です。そこには長い時間の中で普及・洗練されていたモノと無名の人々、歴史に対する強いリスペクトが感じられます。

私達が一昨年(2020)立ち上げた「AND賞」(Archi-Neering Design Award)はこの内田賞にもヒントを得ています。人物や作品だけでなく、デザインから施工に至るプロセス・物語、個別的だけでない普遍的な創造性、美しさと合理性と社会性、さまざまな協働の様相など従来にない評価軸を持ちたい。「内田賞」がその時代を築いた社会的成果を問うていたとすれば、「AND賞」は多様な分野の知力と情熱が交差する、生き生きとしたデザインやものづくりの有様に目をこらそうとする。“技術”は時代と共に変わるもの、とするのが「内田賞」であるとすれば、“Archi-Neering Design”という“術”はいつの時代でも存在するはずというのが「AND賞」。プロダクトデザインと構造デザインの違いなのかも知れない。両者の違いはそこにあるといえそうです。

最後になりますが、やはりちょっとSKIの話を―。私が建築学会会長の折(2007)、たまたま内田先生の学士院会員推薦を松村さんとお手伝いさせてもらいました。そして2010年頃から誘われた「内田スキー会」。白馬八方尾根から奥志賀高原へ。豪快な山スキー風の滑り、毎晩の千夜一夜風の内田談義も忘れられません。先生が滑りを止めた年齢まで私にはまだ少し間があります。今しばらく頑張ってから、また先生とお会いしたい。白い雲の上の広いゲレンデでご一緒にスキーを楽しみたいものと夢みています。いろいろと有難うございました。

*「内田賞」について
内田先生の退官祝賀会(1986)の余剰金を資源に設立(8件に限定)。顕彰対象は「誰の成果かはわからない多くの人たちの努力で、日本の社会の隅々まで普及したもの」―第1回(1988)「目透かし天井」~第8回(2001)「畳」。審査員は池田武邦、高橋靗一、林昌二、太田利彦、沢田光英の各氏。(内田賞顕彰業績集「日本の建築を変えた八つの構法」2002.9)


空間  構造  デザイン研究会 Part II :「“空間構造”の軌跡」
第5回 「奇跡のプロジェクト ー“代々木”と“シドニー”をめぐって」


日時:2022年3月19日14:00~
会場:オンライン(Zoom、Youtubeライブ配信(アーカイブあり)
参加申し込み:https://ws.formzu.net/fgen/S56224667/
★Youtubeでのご視聴はお申し込みの必要はありません。

第25回 AB(アーキテクト/ビルダー「建築の設計と生産」)研究会


これからを担う若手建築家の活動と実践③
VUILD 秋吉浩気 koki akiyoshi

日時:2022年4月2日(土)14:00〜16:30
会場:オンライン(Zoom)★先着90名
お申込み:https://ws.formzu.net/fgen/S42040957/

自覚のないまま、そのデジタル音痴ぶりが世に知られるところになった日本であるが、それは建築の世界でも同様である。さまざまなモデリング手法の開発利用、それらと情報化プラットフォームとの統合的運用、デジタル・ファブリケーションへの展開、スタートアップ企業の創成など、欧米の建築系大学およびその周辺に共通して認められる若々しい活力の息吹が日本ではきわめて薄い。
だが、そのような日本にも力強い集団が出現した。CNCルーターを用いたデジタル家づくりプラットフォーム事業を中核とする集団、秋吉浩気率いるVUILDがそれである。デジタル化は単なる技術ではない。それは生産流通の仕組みを変えるばかりか、関与する人々の役割も変える。そこで秋吉は自らを「メタ・アーキテクト」と名乗る。 秋吉たちの試みが示す可能性と課題は何か。また、日本の建築ものづくり社会が抱える課題とは何か。この2月、第2回AND賞最優秀賞に輝いた作品、「まれびとの家」を含むVUILDの実践の解説を踏まえながら、おおいに議論を交換したい。

コーディネーター:布野修司+安藤正雄+斉藤公男

1部 VUILD 秋吉浩気 「デジタルファブリケーションとメタアーキテクトの可能性」

2部 討論会(司会:香月真大)
コメンテーター:小笠原正豊(小笠原正豊建築設計事務所、東京電機大学)、伊礼智(伊礼智設計室)、木藤阿由子(建築知識ビルダーズ 編集長)


第40回AF-フォーラム
「施工から見た基礎杭の今日的課題」動画公開中です

2022年2月24日
コーディネーター:神田順、パネリスト:加倉井正昭、橋本友希


第41回AF-フォーラム+超高層研究会講演会
「超高層建築の耐震・耐風設計とトポロジー」一部動画公開中です 

2022年3月5日10:00~12:00
コーディネーター:和田章、パネリスト:Billie Spencer(イリノイ大学)、岡部和正(森ビル)
Professor Billie Spencer, The University of Illinois
“Topology Optimization of Wind and Earthquake Excited Buildings”
Professor Billie Spencerのレクチャーのみ公開しました。

★英語字幕、日本語字幕あります。Youtubeの設定より選択してご活用ください。


Archi-Neering Design AWARD 2021 (第2回AND賞)

選考委員
福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)
講評を公開しました
選考評(総評) 選考評(個別) 冊子PDF

日本学術会議公開シンポジウム・第13回防災学術連携シンポジウム

自然災害を取り巻く環境はどう変化してきたか

詳細はこちらよりご確認ください
日時:2022年5月9日(月)12:30~18:00
主催:日本学術会議防災減災学術連携委員会、共催:(一社)防災学術連携体
お申込み:https://ws.formzu.net/fgen/S79677929/
ご案内PDF
神田 順 まちの中の建築スケッチ 「国際子ども図書館—明治建築の再生—」/住まいマガジンびお

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