A-Forum e-mail magazine no.123 (12-07-2024)

関東大震災から100年、E-Isolationの完成と免震・制振の薦め

和田章

「戦前の耐震基準は強かった」
昨年は関東大震災から100年であった。1924年に市街地建築物法の規則に震度法が導入されたことは、建築構造に関わる設計者は誰でも知っている。この当時は材料安全率によってコンクリートや鉄筋、鉄骨で構築される構造物の安全性を確保しようとしており、荷重や外力の種類によって異なる許容応力度はなく、今の長期許容応力に相当するものしかなかった。震度0.1以上の地震荷重を決めたときにも、構造材料に設定した上記の安全率があることを前提に、若干低めの地震荷重を設定していた。
戦後の教育を受けた我々は、戦中に資材不足が理由で許容応力度を大きくした経緯があり、「戦後に戦前の約2倍の短期許容応力度を導入し、地震時にはここまでの応力度を許容するのだから、震度も2倍の0.2以上に変更した」と学んだ。多くの教科書にも、戦後に許容応力度と同時に震度を2倍したのだから、「耐震性は戦後も戦前と同じだ」と書かれている。
実はそうではない。当時の建築物の強度計算では、材料の最大強さの1/2が許容応力度であり、建築物の重量と積載荷重の和の鉛直方向の力によって生じる部材力と地震時の水平方向の力による部材力の和と差による応力度がこの許容値を超えないように、構造部材の大きさや配筋を決めていた。鉛直荷重による部材力は一定であり、震度を0.1から増やしていったとき、発生する応力度が許容値の2倍に達するのは、簡単な考察から震度が0.2の時ではないことがわかる。
真珠湾攻撃の1941年12月に「建築物耐震構造要項」がまとめられていて、1943年3月に岩波書店から出版された重要な書物が手元にある。震度を0.1以上と決めたときの心が書かれている部分を囲み記事に載せたが、想定する震度は0.5程度であったと書かれている。

「命だけでなく、建物と機能を守る時代」
来年は阪神・淡路大震災から30年である。この震災の直後の1996年に旧建設省は「官庁施設の総合耐震計画基準」を定めた。官庁施設をI類、II類、III類に分け、建築基準法に比べI類は1.5倍、II類は1.25倍の地震入力を考えることとされた。
住宅建築については、2000年に「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が施行された。ここでは、建築基準法を満たした建築を耐震等級1、この1.25倍の強さを持たせた建築を耐震等級2、1.50倍の強さを持たせた建築を耐震等級3として、住宅建築の耐震性向上を推奨している。
上記の官庁施設の基準も住宅の品確法ともに、1.25倍、1.5倍を推奨している。この数字は震度に換算すると0.25と0.30であり、今の耐震基準の二次設計のDsも考慮すると、戦前の基準のレベルに戻ったことになる。

「免震構造と制振構造の薦め」
能登半島地震では、免震建築の七尾の恵寿病院、金沢では石川県立図書館が初期の性能を発揮している。上記のように地震力を大きくするだけでなく、実施から40年の免震構造の活用と、30年に進んだ建物にエネルギー吸収部材を組込む制振構造を活用してほしい。免震構造は数階建て以上の建物の場合は必ずしも建設費は高くなく、安価に作ることもできる。制振構造も建設費は高価でない、両者とも地震時の構造物の過剰な変形を抑制し、地震後に機能を維持できる素晴らしい建築である。
この技術を発展させ、信頼性を高めることを目的に、昨年の3月に兵庫県の三木市に実大免震試験機(E-Isolation)が竣工した。1年3ヶ月、各種の試験を行ってきたが、世界初の高精度試験機でありこれからの活用が期待される。
本年6月22日、国土交通省からプレスリリース「国土交通省プレスリリース  令和6年能登半島地震でも効果を発揮した免震構造! 世界トップクラスの実大免震試験機による「免震動的性能認証制度」が 7 月よりスタート」が発せられ、24日に記者会見が行われた。読売新聞や建設通信新聞、日経アーキテクチャなどに、この趣旨が紹介されている。これに続き、日本経済新聞朝刊 2024.7.10(34頁全面)「世界初の試験機による免震認証制度が始動(PDF)、高解像度はこちら(PDF_20Mb)が載った。
Forumの仲間には説明の必要はないが、これからは、免震構造、制振構造を第一に考える設計と施工を進めてほしい。E-Isolation のホームページも徐々に充実していくので、ぜひ見てほしい。


第53回AFフォーラム「構造美について―合理性と倫理性の視点から―」

日時:2024年09月19日(木)18:00~
コーディネータ:神田順
パネリスト:八馬智(千葉工業大学)、名和研二(すわ製作所)、中畠敦広(yAt構造設計事務所)
お申込み(リンク先にて会場参加orZoom参加を選択してください。):https://ws.formzu.net/fgen/S72982294/

Youtube:https://youtu.be/6z05XfZWlAA

かつて、「建築構造パースペクティブ」(1994年)を日本建築学会から刊行したときに、「構造は美しくあるべきか」という拙文を載せた。そこでは、今はない日本IBM本社ビルの鉄骨構造が立ち上がったときに、美しく思ったことから構造設計を志したというような趣旨を記した。そもそも構造は美しいのでそれをCGで表現したら構造の魅力が伝われるのではないか、というような趣旨である。そうは言っても、中には、構造が、これは美しくないというように思われるものもある。その場合、構造というよりは、もともとの計画の問題だったりする。美しい構造もあれば、美しくない構造もある。
ここでは構造設計者あるいは構造エンジニアから、構造を美しくしようと思うか、あるいは、構造を美しいと思うのはどんなときか、という問いかけへの対応を聞いてみたい。ひたすら合理的で無駄のない形を美しいといえるか。美しくすることが倫理性に外れることはないか。合理的であるべきとするころに倫理性を感じるか。
柱梁で骨組みを構成するときに、階高とスパンの比や、柱断面、梁成の適切な寸法をどう決めるか。全体のバランスが大切だとして、そこに形態としての美しさを組み込むために、構造合理性から少し離れるときの決断をどのようにするかは、設計者個人の技のように思われる。出来上がった形の美しいものは、多くの人が美しいと納得するように思う。もちろん、中にはそうでない場合もあることは承知しているが。
新幹線の、両端に跳ね出し梁の連梁の橋脚の設計にあたり、跳ね出しを柱間隔の2分の1にすると、全体が均等間隔となる。しかし、梁端部の曲げモーメントを考えると柱スパンの3分の1より小さくする方が合理的であったりもするときの、設計判断の問題である。また、日本で一般的な柱の断面は、ヨーロッパ、アメリカなどに比べて大きい。これは耐震性を持たせるための理由と考えられるが、そこで一般的な柱断面より、意図的に細くすると、美しく感じられると判断する場合などもあろう。これらはほんの一例である。
パネリストとして3名の構造エンジニアに具体的な構造を対象にして話題提供をお願いし、その後で自由討論の場としたいと考えております。大勢のご参加をお待ちします。


第37回AB研究会 これからを担う若手建築家の活動と実践10「再生建築研究所 | SAISEI LABORATORY」神本豊秋

日時:2024年07月27日(土) 14時~17時
司会:香月真大(SIA一級建築士事務所)
お申込み→ https://ws.formzu.net/dist/S599343452/
Youtube:https://youtu.be/ZTo3plyA8bM

国土交通省が全国の空き家数を調査している住宅・土地統計調査2024年4月によると、全国の空き家総数は約900万戸(899.5万戸)となり、過去最多になっています。この数値は、1993年時点の空き家数の実に2倍にものぼります。
全国の不動産オーナーは、自ら所有するビルが築年数の経過と共にどう活用するか?売却可能なのか?建て替えた方がいいのか?に頭を悩ませています。
そこに建築の需要も生まれるのですが、その最先端を行く既存ストック活用のスペシャリストである再生建築研究所の神本豊秋さんをお招きしました。
再生建築研究所は、再生建築という手法を軸に、建物の寿命を100年にまで延ばすことを目指しています。新築、リノベーション、エリアでの開発など、さまざまな方法を組み合わせて、「サイセイ」(再生)を実現し、壊すことなく前進するための設計事務所です。彼らは「古くて新しい建築」に溢れた社会を目指しています。
再生建築研究所の強みは、違反物件の適法化、テナントが居ながらの再生計画、意匠性と事業性を担保した補強計画であり、既存不適格を生かした収益性の向上、新築以上の環境性能などにあります。

1部 「再生建築研究所の現在の活動」神本豊秋
2部 「既存ストック活用の現状とこれから」


第36回AB研究会 AI は建築の設計生産をいかに変えるか?

日時:2024年07月20日(土) 14時~17時
司会:布野修司
お申込み→https://ws.formzu.net/fgen/S42040957/
Youtube:https://youtu.be/jdhDiIuCozs

生成 AI は建設産業界にも急速に浸透?しつつあるように思われる。しかし、建設の現場で、また、建築設計施工の過程でどう利用できるのか、何が可能になるのか、定かではない(理解できていない)。例えば、既に一般的に用いられている Rhinoceros など CAD/CAM、BIM に大きな進化が起こるのか? 世界中で建設される無数の建築を学習するのだとしたら凡庸な建築しかできないのではないか? 等々、素朴な疑問がある。
今回は、生成 AI の最前線でご活躍のお二人をお迎えして、その建設業界における可能性をめぐって議論したい。というより、様々なアドヴァイスを頂きたいと思う。

話題提供1:「JAMSTEC の人工知能応用研究と大規模言語モデル(LLM)」杉山大祐(国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC))
杉山大祐:情報工学の出身。JAMSTEC で、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」の運用や会計システムの開発を行った後、データを解析して有用な情報や法則、関連性などを導き出すデータサイエンスの研究に転じ、現在は人工知能を使った台風や地震などの自然現象の解析や予測の研究に従事している。地球情報科学技術センター(CEIST)データサイエンス研究グループ所属。
要旨:深層学習に代表されるこれまでの人工知能技術の概略と、現在 JAMSTEC で取り組んでいる人工知能を用いた地球科学の研究事例を紹介した後、生成 AI 技術の一種である大規模言語モデル(LLM)について検討する。最近話題となる Chat GPT などに代表される LLM は次世代を開拓する技術として最も期待されているが、その基本的な学習方法や追加で知識を学習する方法については、まだあまり広く知られていない。具体的にどのような学習の方法があり、必要となるデータは何かなど、技術のコアを地球科学分野の視点で紹介し、LLMを活用していくためのデータ蓄積や新たな応用方法を考えるヒントを提供したい。

話題提供2:「NEC 独自開発の生成 AI cotomi(コトミ)の活用事例」池谷彰彦(NEC(日本電気株式会社)生成 AI センター長)
池谷彰彦:2013 年 NEC Laboratories Singapore 設立メンバーとして同国赴任。AI 技術を活用し、同国で深刻化する交通渋滞などの解決に取り組む。その後日本に戻り、道路や橋梁などの社会インフラの劣化診断・予防保全ソリューションの研究開発に従事。2018 年に NEC Laboratories India 所長就任。インドの社会問題(交通、物 流、医療など)にフォーカスし、それらを解決する AI ソリューションの開発に取り組む。同研究所のビジョン に賛同したスタートアップや大学と「NEC Hackathon」を定期開催、これまでに延べ 2 万人以上の応募者を集める。現在は NEC 生成 AI センターにて、生成AI の技術開発ならびにそれを応用したソリューション開発を統括している。
要旨:NEC が取り組んできた AI 技術の概要や、それらが実社会でどのように役立つかについて、建設業界だけではなく、様々な業界における活用事例や、今後想定されるユースケースについてご紹介する。また、近年話題になっている生成AI に関しても、NEC が独自に開発した生成 AI である「cotomi(コトミ)」の特長や活用事例、さらに今後の展開予定などをご説明する。ぜひ皆様の討論のインプットとし、未来に向けての一助とにしていただきたい。

質疑応答
コメンテーター: 塚越眞(インダストリスパコン推進センターISCPC 代表理事)、安藤正雄


防災学術連携体:令和6年能登半島地震7ヶ月報告会

日時:2024年7月30日(火)13:00〜17:20
Youtube:https://youtu.be/NYHk6ssNY5Y

ご案内PDF
防災学術連携体は、防災減災・災害復興に関する62学協会のネットワークで、日本学術会議と連携して活動しています。2024年1月1日に発生したM7.6の大地震に対して、多くの学協会は、救援活動や緊急調査・研究を精力的に続け、復旧にも協力しています。学術的に正しい情報を発信すると共に、各学協会の活動・調査・研究で得られた知見を共有するために、7ヶ月報告会を開催します。
(注)気象庁では、石川県能登地方で発生している一連の地震活動について、その名称を「令和6年能登半島地震」と定めています。
詳細はこちら

JCAABE建築まちづくりデザイン・コンクール

本コンクールは、すべての生活環境をより安心で優れたものとしていくために、まちづくりにおいて自然災害などの「非常時」に備えるだけではなく「日常」においても生活の豊かさに結びつくような建築・施設・物品といったハードウェア、あるいは活動やシステムなどのソフトウェアのアイデアを広く公募し、表彰を通して社会に発信していくことを目的とするものです。
これまでのまちづくりにおける「防災」が、非常時への最も効果的な備えのために日常に負荷をあたえるような施策になりがちであったことに対して、よりゆるく、楽しく、日常も豊かにしながら非常時にも役に立つようなアイデアをとりいれ、「防災」という概念自体をリ・デザインしていこうという試みですので、既存の概念や原則にとらわれず、自由なお考えで積極的にご応募いただければと存じます。
応募締切 :2024年09月17日(火) HPよりデータにて登録・提出
公開審査会:2024年10月27日(日) 会場:総合資格学院 新宿校
作品展示会:2024年11月21日(木)〜26日(火) 会場:art gallery &Legion(東京都千代田区)
詳細はこちら
神田順
まちの中の建築スケッチ 「旧筑波第一小学校体育館ー筑波山麓の木造建築」/住まいマガジンびお

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