A-Forum e-mail magazine no.143 (11-04-2026)

「平和ボケ」の日本が懐かしい

金田勝徳

中国天安門近くの工場跡地に、「北京建外SOHO」という建築群が2004年4月に竣工した。約123,000㎡の敷地に16棟のタワーマンション、SOHO、店舗が建ち並び、延床面積の合計が約700,000㎡という巨大なプロジェクトであった。設計は山本理顕設計工場と現地の設計院とのJVで、私の事務所も基本設計の一部を担当して、若い事業主ご夫妻の積極的な事業意欲に感服し、中国の設計院の人々との意見交換を楽しんでした。
山本理顕さんは、この「建外SOHO」を他の北京のマンションと同じように、敷地内にそこの住民以外の立ち入りを防ぐための塀で囲み、ゲートには警備員が常駐するマンションにしてはならないという使命感を持って、その仕事に取り組んでいた。そのために、各棟の地上3階まではレストランや店舗が入る商業施設として、上層階を「働きながら住む、住みながら働く」というSOHO形式の住宅にする構想を提案し、実現したのがこの建築群であった。
こうして設計された建築群が、山本さんが言う誰でも自由に立ち入ることができる職住一体の「地域社会圏」となり、北京市内でも有数な観光地にもなっている。こうした表の顔の一方で、この建築群の地下2層に渡って設けられた広大な駐車場が、外国からの核攻撃に備えたシェルターにもなっていて、その部分の設計には私達日本人が携わることができなかった。言われてみれば、中国内ではこれに類似することが当たり前となっていると気が付き、このことが明るく賑やかに振舞う中国の人々に、陰鬱な影を落としているのではと勝手に想像していた。
ところが先日、日本の新聞の一面に「シェルター民間施設確保、有事に備えて駅や駐車場」*1)との見出しがあるのに驚かされた。「シェルター」と言っても何かのたとえで、まさか「防空壕」ではないだろうと思いながら記事を読み進むと、日本政府が「中国や北朝鮮を念頭に、有事のミサイル攻撃に対する備えを強めるために『シェルター』を確保するための基本方針を策定する」という記事であった。その基本方針では、主要駅や大規模建築の地下空間、地下街、地下駐車場などを地下シェルターとして最大限活用して、自然災害時にも使える避難空間になることを推進するとのことである。
そしてその4日後には、この記事に追い打ちをかけるようにして、同じ新聞の一面に「敵基地攻撃ミサイル配備、専守防衛の転換点に」とあり、その横には「次期戦闘機 カナダも参加」*2)という見出しが並んでいることにまた驚かされた。「敵基地攻撃ミサイル」の記事によれば、「中国が射程500キロ~5500キロの地上発射型ミサイルを2000発以上保有している」とのことである。それに対して、防衛省は「日本は米軍と併せても、この地域の戦力差は大きい」ことから、「そのギャップを埋めるために、長距離ミサイルの配置を進める」としている。もう一つの「次期戦闘機」の記事では、現在「日英伊で共同開発中の次期戦闘機の開発計画に関して、日本が戦闘機の販売先拡大を期待して、カナダを『オブザーバー国』として枠組に加える方向で調整している」とのことである。
これ等の記事を読みながら、世界に向けて戦争放棄を表明している日本にとって、「敵」とは何を指しているのか、「専守防衛を転換」しなければならない問題を解決する外交努力はしているのか、殺傷能力のある武器の輸出を禁止しているはずの日本が、いつそれを解禁したのか、それとも「戦闘機」に殺傷能力がないとでもいうのかといった疑問が次々に浮かぶ。案の定この記事を目にした翌日には、中国の広報官が「これら一連のことは『専守防衛』の範囲を超えている」と日本を非難するテレビニュースが流れていた。
私達が北京の「建外SOHO」の仕事に関与していたころ、日本には「平和ボケ」という言葉がよく聞こえていた。これには様々な捉え方があると思われるが、いずれにしても、海外ではあり得ないような無防備でも安全な日常が、日本社会では当たり前のような状況にあることを指しての言葉だった。その日本でも、こんな言葉はとっくに通用しない社会になっていることを改めて認識させられ、我が身の認識不足をも自覚させられる記事であった。

*1)朝日新聞 2026年3月27日朝刊 *2)朝日新聞 2026年3月31日朝刊

第61回AFフォーラム「地震工学と風工学の構造設計への貢献」

2026年4月22日(水)18:00-20:00
コーディネータ:神田順
パネリスト:石井透(清水建設技術研究所)、松井正宏(東京工芸大学教授)
お申込み:https://ws.formzu.net/dist/S72982294/
YouTube:https://youtu.be/XD_Pz7z6q5Y

構造設計はさまざまな知見を工学的に解釈して、建築物の構造安全性を達成する技である。高い専門性を有する。建築物の地震被害や強風被害を考えるときに、地震動や強風そのものも含め、さらには、地震や強風を受けたときの構造体としての挙動を評価するための研究が地震工学や風工学として蓄積されている。日本建築学会による建築物荷重指針にはそれらの成果が反映され、ほぼ10年ごとに改訂がなされている。その都度、改定の趣旨が書かれているが、あらためて、地震工学や風工学の成果がどのように設計荷重評価に反映してきたかについて、パネリストに話題提供いただき、それら研究成果が耐震性、耐風性の性能向上がどのように展開しているか、さらには、今後どのような研究が求められるか、議論したい。パネリストのお二人は、それぞれ、長年、地震工学分野、風工学分野で研究されているのみならず、その分野の全体像についても通じておられ、建築物荷重指針の改訂にあたっても中心的役割を果たして来られた。

建築基準法における耐震性や耐風性の位置づけとしては、大正関東地震(1923年)や室戸台風(1934年)が基礎になっているが、1998年改正で、性能規定化という位置づけのもと、施行令・告示が整備されている。一方で、構造安全性に対する社会的要求に対しては、十分に応えられているといえるのだろうか。建築物の高層化の影響や地盤特性の反映といった意味で詳細なモデル化が可能になって来たものの、それが構造安全性の質にどれだけ貢献できているか丁寧な議論がされていると言えるだろうか。構造設計者は、地震工学や風工学のどのような研究成果を自らの知見としてどのように取り込むことで、より質の高い構造設計が可能となると考えているだろうか。研究による知見の蓄積と実務における専門性との関係を、議論するフォーラムを企画しました。大勢のご参加をお待ちします。 (神田順)


第44回AB研 戦後住宅は「ポスト戦後住宅」へと再編可能か 門脇 耕三

日時:2026年05月16日(土)14:00~
お申込み(リンク先にて会場参加orZoom参加を選択してください。):https://ws.formzu.net/dist/S42040957/
YouTube:https://youtu.be/BqVNqE1d3w0


<趣旨>日本の戦後住宅は、資本主義的なものと社会主義的なものの奇妙な折衷として出発した。しかし高度成長期以降は、資本主義路線一辺倒へと舵を切る。この頃の住宅は「持ち家」資産として「戦後中流」の形成に寄与したが、その本質は、性別役割分業を前提とした家族賃金の再配分装置だったといえる。その後、経済のグローバル化と金融工学の発達に伴い、住宅は金融商品としての性格も身につけていくことになるが、2020年代を迎えた現在、世界経済は再ブロック化へと向かい、経済・社会システムばかりではなく社会規範も大きく変化する中で、戦後住宅の枠組みは機能不全に陥っている。災害、パンデミック、紛争などに起因する危機が立て続けに起こり、人びとの生存が脅かされるこの状況下で、住宅は生存の基盤としての役割を取り戻すことができるだろうか?回答はもちろん用意されていないが、住宅について根本から議論する機会としたい。(門脇)

門脇 耕三(かどわき こうぞう/建築構法・建築設計 明治大学 教授) 略歴
1977年神奈川県生まれ。2001年東京都立大学大学院修士課程修了。東京都立大学助手、首都大学東京助教などを経てを経て現職。博士(工学)。2012年に建築設計事務所アソシエイツを設立。現在、明治大学出版会編集委員長、東京藝術大学非常勤講師を兼務。建築構法を専門としながら、建築批評や建築設計などの活動も行う。

コメンテーター:渡邊 大志(わたなべ たいし/建築デザイン・都市史 早稲田大学 教授)
コーディネータ:布野修司+安藤正雄+斉藤公男

防災学術連携体第30回WEB研究会を開催しました

「岩手県大船渡市の大規模林野火災から一年 -見えてきた課題と今後の展望-」
企画:日本森林学会、司会:玉井幸治(森林総合研究所森林防災研究領域)
日時:2026年3月26日(木)
WEB研究会について:山本佳世子(防災学術連携体運営幹事)/ 開会挨拶:米田雅子(防災学術連携体代表幹事) 動画
1)はじめに「大船渡市での大規模林野火災の概要」玉井幸治(森林総合研究所) 動画
2)「森が燃える:大船渡と近年の世界と日本」串田圭司(日本大学生物資源科学部・教授) 動画
3)「森林分野における林野火災のリスクと影響評価に関する議論と課題」吉藤奈津子(森林総合研究所森林防災研究領域)
4)「2025大船渡市林野火災からの住民の避難行動」廣井悠(東京大学先端科学技術研究センター・教授) 動画
質疑応答・総合討論 動画
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