金田勝徳
中国天安門近くの工場跡地に、「北京建外SOHO」という建築群が2004年4月に竣工した。約123,000㎡の敷地に16棟のタワーマンション、SOHO、店舗が建ち並び、延床面積の合計が約700,000㎡という巨大なプロジェクトであった。設計は山本理顕設計工場と現地の設計院とのJVで、私の事務所も基本設計の一部を担当して、若い事業主ご夫妻の積極的な事業意欲に感服し、中国の設計院の人々との意見交換を楽しんでした。
山本理顕さんは、この「建外SOHO」を他の北京のマンションと同じように、敷地内にそこの住民以外の立ち入りを防ぐための塀で囲み、ゲートには警備員が常駐するマンションにしてはならないという使命感を持って、その仕事に取り組んでいた。そのために、各棟の地上3階まではレストランや店舗が入る商業施設として、上層階を「働きながら住む、住みながら働く」というSOHO形式の住宅にする構想を提案し、実現したのがこの建築群であった。
こうして設計された建築群が、山本さんが言う誰でも自由に立ち入ることができる職住一体の「地域社会圏」となり、北京市内でも有数な観光地にもなっている。こうした表の顔の一方で、この建築群の地下2層に渡って設けられた広大な駐車場が、外国からの核攻撃に備えたシェルターにもなっていて、その部分の設計には私達日本人が携わることができなかった。言われてみれば、中国内ではこれに類似することが当たり前となっていると気が付き、このことが明るく賑やかに振舞う中国の人々に、陰鬱な影を落としているのではと勝手に想像していた。
ところが先日、日本の新聞の一面に「シェルター民間施設確保、有事に備えて駅や駐車場」*1)との見出しがあるのに驚かされた。「シェルター」と言っても何かのたとえで、まさか「防空壕」ではないだろうと思いながら記事を読み進むと、日本政府が「中国や北朝鮮を念頭に、有事のミサイル攻撃に対する備えを強めるために『シェルター』を確保するための基本方針を策定する」という記事であった。その基本方針では、主要駅や大規模建築の地下空間、地下街、地下駐車場などを地下シェルターとして最大限活用して、自然災害時にも使える避難空間になることを推進するとのことである。
そしてその4日後には、この記事に追い打ちをかけるようにして、同じ新聞の一面に「敵基地攻撃ミサイル配備、専守防衛の転換点に」とあり、その横には「次期戦闘機 カナダも参加」*2)という見出しが並んでいることにまた驚かされた。「敵基地攻撃ミサイル」の記事によれば、「中国が射程500キロ~5500キロの地上発射型ミサイルを2000発以上保有している」とのことである。それに対して、防衛省は「日本は米軍と併せても、この地域の戦力差は大きい」ことから、「そのギャップを埋めるために、長距離ミサイルの配置を進める」としている。もう一つの「次期戦闘機」の記事では、現在「日英伊で共同開発中の次期戦闘機の開発計画に関して、日本が戦闘機の販売先拡大を期待して、カナダを『オブザーバー国』として枠組に加える方向で調整している」とのことである。
これ等の記事を読みながら、世界に向けて戦争放棄を表明している日本にとって、「敵」とは何を指しているのか、「専守防衛を転換」しなければならない問題を解決する外交努力はしているのか、殺傷能力のある武器の輸出を禁止しているはずの日本が、いつそれを解禁したのか、それとも「戦闘機」に殺傷能力がないとでもいうのかといった疑問が次々に浮かぶ。案の定この記事を目にした翌日には、中国の広報官が「これら一連のことは『専守防衛』の範囲を超えている」と日本を非難するテレビニュースが流れていた。
私達が北京の「建外SOHO」の仕事に関与していたころ、日本には「平和ボケ」という言葉がよく聞こえていた。これには様々な捉え方があると思われるが、いずれにしても、海外ではあり得ないような無防備でも安全な日常が、日本社会では当たり前のような状況にあることを指しての言葉だった。その日本でも、こんな言葉はとっくに通用しない社会になっていることを改めて認識させられ、我が身の認識不足をも自覚させられる記事であった。
構造設計はさまざまな知見を工学的に解釈して、建築物の構造安全性を達成する技である。高い専門性を有する。建築物の地震被害や強風被害を考えるときに、地震動や強風そのものも含め、さらには、地震や強風を受けたときの構造体としての挙動を評価するための研究が地震工学や風工学として蓄積されている。日本建築学会による建築物荷重指針にはそれらの成果が反映され、ほぼ10年ごとに改訂がなされている。その都度、改定の趣旨が書かれているが、あらためて、地震工学や風工学の成果がどのように設計荷重評価に反映してきたかについて、パネリストに話題提供いただき、それら研究成果が耐震性、耐風性の性能向上がどのように展開しているか、さらには、今後どのような研究が求められるか、議論したい。パネリストのお二人は、それぞれ、長年、地震工学分野、風工学分野で研究されているのみならず、その分野の全体像についても通じておられ、建築物荷重指針の改訂にあたっても中心的役割を果たして来られた。
建築基準法における耐震性や耐風性の位置づけとしては、大正関東地震(1923年)や室戸台風(1934年)が基礎になっているが、1998年改正で、性能規定化という位置づけのもと、施行令・告示が整備されている。一方で、構造安全性に対する社会的要求に対しては、十分に応えられているといえるのだろうか。建築物の高層化の影響や地盤特性の反映といった意味で詳細なモデル化が可能になって来たものの、それが構造安全性の質にどれだけ貢献できているか丁寧な議論がされていると言えるだろうか。構造設計者は、地震工学や風工学のどのような研究成果を自らの知見としてどのように取り込むことで、より質の高い構造設計が可能となると考えているだろうか。研究による知見の蓄積と実務における専門性との関係を、議論するフォーラムを企画しました。大勢のご参加をお待ちします。 (神田順)