【応募理由】「まれびとの家」は、既存の職能・領域を超えた議論と試行錯誤の上できあがった建築である。3D 木 材 加 工 機 「ShopBot 」 と 地 元 の 木 材を使い、製作を地域完結させることで、 こ れ ま で 避 け ら れ な か っ た 長距 離 輸 送 や 環 境 負 荷 、 時 間 、 コ ス ト を 削 減することができており、現地の素材生産者が木材をデジタル加工することで、既存のバリューチェーンを介さずに、直接エンドユーザーに製品を届けられる仕組みのためのプロトタイプといえる。また、「伝統xデジファブ」というテーマを掲げ、「合掌造り」と「ワクノウチ」を参照し、「Aフレームトラス」と「貫による半剛接構造」という2つのシステムをクリアランス0.25mmの嵌合で実現している。(金田泰裕)
【講評】過疎化が進む山村に、交流拠点となるシェア別荘を、地元の民間人が発注者となって建設したものである。設計者たちはこの建物の構造を考えるにあたって、伝統的な構法である合掌造りを参照した。そして、構成する木の部材をすべて小型のCNCルーターで切り出すことで製作する方法を選択した。木材は敷地に近い山から切り出したもので、加工も設計者から受け取ったデータを用いて地元の企業が行う。架構の形式と仕口の工夫によって、施工には重機が不要で、誰もが参加できるようになっている。身近な人的ネットワークで、建設が完結できているのである。完成した建物は、セルフビルド的な粗さが見られず、しっかりとした精度を実現している。外観も、深い山の中に凛として建っており頼もしい。出版界では、1980年代にパーソナル・コンピューターのMacintoshが登場して、以降、執筆、編集、印刷までを個人の手で行うデスクトップ・パブリッシングが本格化していった。あのような革命が、建築界にも起こるのかもしれない。そんなことも想像した。建築を生み出す新たなプロセスを開拓したプロジェクトであり、AND賞の趣旨にもふさわしい作品である。(磯)
【応募理由】建材の運搬もままならない場所において、1つのアーチを6枚の30mm厚のLVL材によるパーツで組み立てることで、容易に手で運び、組み立てることができる仕組みを備えた建築を考案。材料はレーザーでLVL板から切り出し、二枚を重ね、それぞれつなぐ位置が重ならないようにずらして連結することで小さなLVLユニットの組み合わせによるゆったりとしたアーチ構造を実現。こうしてできた木のアーチを、互いに背中合わせに持たせあい、十字形状をした柱型に組み合わせることで、伸びやかに反復する架構の仕組みへと展開させた。このような建築と技術を融合させる、固有の技術的テーマを持ったデザインプロセスを共有することがAND賞の理念にかなうと考えたため応募いたしました。(畑友洋、萬田隆)
【講評】この計画は一見すると、円形ヴォールトという既視感のある建築であり、建築家の造形の好みにのように見えるかもしれない。しかしこの計画のプロセスを読み解くと、様々な制約によって、再建が難しい密集地の建築の再建を可能にする繊細な技術に裏付けられた建築スキームが見える。敷地は斜面地の密集した街並みで、狭小な道のため重機の工事が難しい環境である。このような斜面の環境は日本中どこでも見いだされ、老朽化した住宅の再建は厳しい普遍的問題である。今回の提案はこの普遍的で困難な状況でも豊かな空間の新築を可能にする提案である。具体的には正方形グリッドに45度に渡しかけられたアーチ状の構造体に特徴がある。一階部分の柱から2階の高さまで一体的に切り出された半円形のアーチ構造が基本単位となっている。この基本単位は小型トラックや人が運べる重量とサイズのため重機や大きな足場も必要なく、2階分の階高の主構造が4本の組柱とアーチとして組み上がる。繊細なサイズの柱とアーチの組合わせが作り出すヴォールトが開放的な内部空間を作り出している。ルネッサンスのブルネレスキの捨子保育園の繊細な石のアーチを鉄のタイバーで実現した、建築と技術の美しき融合がもたらした建築の可能性と同様の清々しさを感じる計画である。(堀越)
【応募理由】湾曲した極薄の屋根を湾曲した地面間近に漂わせると、離れた位置が見えなくなって、緩やかに「分節」されたいくつもの居場所が現れる、そんな「風景」のような空間イメージを実現させる構造デザインとして「ツーウェイ」に垂れる鋼板懸垂構造が生まれました。ランドスケープのような緩やかな曲率では強烈な引張を生じ、それにも関わらず孔だらけで、ゆがんだ四辺形にツーウェイに垂れるときに少し圧縮を許す、そんな懸垂構造は簡素なようで意外なほど難問でした。形状と力学の関係をディスカッションし尽くし、基本計画から実施設計へと構造デザインを継承しながらそれらの課題を解き、職人技を発揮してもらいながらも少し肩の力を抜くことを職人たちと話職人たちと話しました。ツーウェイの懸垂構造を実現するときにどのように解けばよいか示せたと感じ、これこそArchi-Neeringと感じました。(佐藤 淳)
【講評】「建築が風景になりえるか」という建築家の想いでつくられた建築は、少し窪んだ地面の上に4000㎡の懸垂屋根がかかるだけのシンプルな空間である。ゆるやかに垂れ下がった屋根は厚さ12㎜の鋼鈑一枚で出来ている。薄い板が垂れ下がっただけの、一見単純な構造であるが、単純なものほど難しい。そこにはものすごいスタディとエンジニアリングが込められている。
四角の平面に2方向懸垂した曲面を当てはめると角の部分でひずみが生じる。完全な引張場とせず圧縮を許すことで滑らかな屋根形状が実現できている。水平反力を処理するための基礎やアースアンカー、夏冬の温度差により変化する屋根形状と応力状態に対する設計など、緻密な分析が行われる一方で、数センチの施工誤差を許容したり溶接ビードをそのまま残すなど、施工に対するおおらかさ、即ち、ち密さとおおらかさ、の両面を有することがこの建築を実現に結び付けたのだろう。
「建築の内部に新しい外部空間、新しいランドスケープをつくりたかった」と建築家がいうように、この空間は今までにない空間体験を人々に与えるに違いない。
「エンジニアリングそのものが芸術になると思っている。芸術というのは見た人の感動によるわけで、技術にはそれがある」という内田祥哉先生の言葉通り、技術そのものが芸術に昇華した作品である。(陶器)
【応募理由】2020年にAND賞が始まり、前職で設計を担当していたARK NOVAを提出し、最優秀賞を受賞しました。その審査の過程では、単なる構造設計の新規性のみならず、批評性や技術の発展性、完成に至るまでの意匠、構造をはじめとする各分野の協働のプロセスやストーリー性といったことが議論されており、独立後に設計した建築についても機会があれば同賞に応募したいと考えていました。応募作品は震災後に一変した環境の中にどのように新たに人の居場所を作ることができるか、ということから出発したプロジェクトですが、敷地がもつ場所性や問題、今後のあり方に応じる構造について、設計を通じて考えたことを問いかけてみたいと思いました。(小俣裕亮)
【講評】強い建築である。敷地は東日本大震災の被災地の海と川に挟まれた軟弱地盤にある。海側に防潮堤、川側の堤防に囲まれ、地上面からは何も見ることができないにもかかわらず、オフィスを建てることになった。失われた眺望を取り戻すため、橋梁のパイルベントという工法を用いて、杭を地中の支持地盤に打ち込みながら空中まで立ち上げている。現代の掘立柱のように、防潮堤の上に建築を持ち上げようとする野心的な建築だ。
土木分野の杭を建築分野の柱とするこのような工法では、異なる分野の境界点が重要となる。ここでは、引張ブレースを用いて柱と梁を剛接合とし、柱頭のプレートの孔開け位置で精度を調整している。この衝突ともいえる土木と建築の関係は、インテリアや家具のデザインにまで及んでいる。この衝突は、素材や寸法への気づかいによって、不思議な優雅さを獲得しているように見える。
建築家の設計も構造家の技術も、機能と合理に基づいてストレートである。しかし、その立ち姿はなぜか異形で、日本という過酷な自然環境に住み続ける困難を写す鏡のように、私たちの心に問いかけてくる。このような作品をAND賞に選んだことを、とてもうれしく思う。(福島)
【講評】車好きのオーナーが所有する自動車を見て触って楽しむことを目的に作られたギャラリーで、太平洋を一望する週末住宅の脇に建つ。車を引き立たせるため出来る限り透明な建築が求められた。
建物は1辺13.5m、高さ3.5mの矩形の“ガラスの箱”である。躯体が目立たなくなるように、外周各辺2列V字型柱および屋根にダイアゴナル状に配置した梁で建物を構成している。柱、梁とも平鋼で構成し、V字型柱は床に向かって断面を絞り、ダイアゴナル梁は端部に向かって断面を絞ることで軽やかなものとなっている。
エッジの利いたシャープな建築を際立させているのは、作者が言うように「屋根鋼板を梁上端より60㎜浮かせて連結している」ことである。小さな束により屋根を支持することで、屋根が浮いているような軽やかな印象を与えるだけではなく、屋根―梁の溶接ひずみによる歪み、および屋根の水勾配とあらわし梁の見えがかりの問題を一気に解決している。一見小さな工夫に見えるが、それは長年の経験と技術を有する設計者、施工者のコラボレーションにより導き出されたものである。(陶器)
【講評】愛媛県産木材の利用を促進するための、CLTの新しい使い方の可能性を目指した木造の事務所である。敷地周辺の山並みに呼応するような、大小に連続する円筒シェルの屋根が特徴である。こう書くと当たり前のようだが、実際にはチャレンジ精神のある建築家と経験豊富な構造家の協働によって多くの課題を解決しないと、このようなデザインは実現することができない。特に、円筒シェルという曲面をCLTという平面で作るためには、細長い平板の長手方向を接合する必要があり、そこには面内と面外という2つの力が生じる。面内力には既製のビスなどで適切に対応しながら、面外力には検討を重ねてラグスクリューと箱型金物を用いた新しい接合金物をこのプロジェクト用に開発している。工事が終わってしまうと、この接合金物はほとんど見えなくなる。このような困難にもかかわらず、この作品は「当たり前」のように建っている。(福島)
【講評】東京・西新宿に建つ、オフィスと集合住宅の複合用途をもった超高層ビルである。住宅フロアになっている高層部はセンターコア、オフィスフロアになっている低中層部は偏心コアを採用し、その間の19階を構造設備切り替えフロアとしている。異なる構造形式を上下に重ねることが可能になったのは、外殻チューブ構造の採用による。外観にも現れたプレキャストコンクリートを基調とした柱は、オフィス部から住宅部へ切り替わるところで枝分かれし、内部の空間構成に対応して細くなる。また地面のレベルでは柱が集約されて、外から人を招き入れやすいようにしている。不均等に斜めに伸びた構造は、前面のケヤキ並木とも呼応して、都市景観の形成にも寄与している。異なる機能を合理的に接続し、その表現が外観にも表現されたこのビルは、超高層建築の自由なデザインを切り拓いていくものとして評価できるものである。(磯)
【講評】沖縄県宮古島市に建設された、みやこ下地島空港のターミナルビルである。空港ターミナルに必要とされる大空間を実現するため、分厚いスラブによる屋根架構を採った。そしてこのスラブを、CLT(Cross Laminated Timber)の小版パネルを現場でつないでつくっている。そして、方向性のあるCLT材を直交させて重ね合わせることで、梁がなく柱だけで支えられたシンプルな木の水平天井を実現した。複数のスラブが隙間を開けて積層されることにより、水平方向の開放感が高まり、周囲の緑も目に飛び込んでくる。リゾートを楽しみにやってきた来訪者にもうれしい空間演出だろう。戦後の沖縄では鉄筋コンクリート造で多くの建築が建てられてきた。コンクリートの屋根が強い日差しを遮り、その下にできる日陰が快適な環境を生む、そんな沖縄らしい建築が、材料を木に置き換えて生み出されていく。沖縄の新しい建築のあり方を示唆した建築である。(磯)
【講評】陶磁器を企画製造する企業の、陶磁器やアート作品のショップ、カフェ、公衆トイレ等で構成された施設である。4000㎡ほどの敷地に配された木造平屋の建物は「ありきたりな材料とローテクで」特別な技能を持たなくても構築できるように工夫されている。柱は45×105ダブル、直行する梁はそれぞれ45×300ダブル、45×270シングルと、材幅は45㎜に統一され、必要長さにカットした部材同士をボルト留めしてゆくだけのシンプルな架構であり、素人でも施工が可能な単純なシステムとなっている。「派手さやアクロバティックさとは別のところにあり、かといってミニマルを目指すわけではない絶妙な解答を目指した」と作者が言う通り、即物的ではあるが洗練的な美しさのある空間が出来上がっている。伝統的な技能や特殊な技術を必要とするものでもなく、プレカットのような規格にとらわれることのない構築法はこれからの木造構法のありかたの一つを示している。肩に力をいれることなく“さりげなく”新しいことにチャレンジしようとする、作者の人柄を感じさせる作品である。(陶器)
【講評】現代のコンピューターによる構造はこれまで見たこともない形態を実現している。特にシステマチックな構造体においてより複雑な形態、構成が部材単位から全体まで力の流れを解析し実現不可能のものが無い様な時代となっている。これまでの様な単純なシステムがもたらす明快な構造の美学では飽き足らない、ゆらぎや変形も取り入れることが可能であることから、敢えて建築家が自然に似せた複雑系の形態を作り出す傾向が出てきているが、制約という糸を切って自由に羽ばたくが、あえなく墜落してしまう凧の様である。
この計画は、自然の木々がその成長過程で太陽と風を求めて必死で変形した枝の形態を敢えて利用することで、自然の木々や林と共鳴する複雑系の構成のシェルターを作り出している。変形した枝を単位としたレシプリカル構造で構成することで、あたかも縄文時代に身近な素材で自然と共鳴する合理的な竪穴式住居を作り出した知恵を現代で実現する優れたチャレンジである。(堀越)
写真左から