和田 章
コンピュータ利用は1940年頃、戦前の米軍が弾道計算のために開発したことで始まり、インターネットも同じ米軍から始まっています。人類は戦うとなると研究開発に力が入るのだと思います。このようにして開発された技術は諸刃の剣と言われ、軍事だけでなく平和にも大きな力を発揮します。
地震国に高層建築を設計できるようになったのは、コンピュータとソフトウエアで骨組解析、応答解析ができるようになったからといえます。弊害はあるとしてもコロナ感染症の広がりの中で多用されるようになったWEB会議もこれからの社会を変えると思いますし、元に戻ることはできないと思います。一貫構造計算プログラムも同様に大きな弊害はありますが、元の手計算には戻れません。
コンピュータには高速計算と大容量メモリーの特徴があり、人間と異なり単調な計算を嫌がらずに黙々と行う強さもあります。小生は学部の3年生の冬にこの魅力に取りつかれ、たくさんの構造解析プログラムを作りました。この頃に作った鋼構造平面骨組の弾塑性解析ソフトは今でも動きます。
建築分野だけでなく土木・機械の研究者・技術者が勉強した洋書に、英国の地盤工学の教授O. C. ZIENKIEWICZのTHE FINITE ELEMENT METHODの教科書があります。序文に、「科学の進め方の定石として、対象物を細かく分け、個々の性質を把握してから、再度理論的に組み立てれば、対象物の挙動を把握することができる」と書かれていました。
現在の科学の進め方は、これほど簡単ではないと思いますが、1960年代後半の一人のエンジニアにとって、飛びつきなるほど明快な考え方でした。
その頃の建築構造の教科書は、静定トラスの解き方、不静定トラスの解き方、静定・不静定ラーメンの解き方など、対象とする構造物に応じて解き方が別々だったのですから、上記の喜びは、今の人にはわからないと思います。今になってこれを振り返ると、解きたい対象によって、モデル化と解き方が異なる方が、人間的で頭をしっかり使うので優れているのではないかと感じることがあります。鶴亀算を、「鶴と亀のいる池のほとりを思い浮かべて、全部鶴だとしたら課題の足が余る、その分亀がいるはずだ」と考える方が、鶴をX、亀をYとして連立方程式を無味乾燥に解くより、はるかに知性的なことと同じです。
今の設計者はもっと良くない病気にかかっていると思います。先日(3/15)、ASDO・JSCA 東京共催 技術研修会で、50年前のプログラムをご参加の皆さんと一緒に使ってみることができました。軸力の作用している柱にヒンジができる時、塑性化は危険断面だけに生じるのでなく軸方向に分布し、点ではないことなどよくわかり、もちろん弾塑性座屈の計算もできます。興味のある方はダウンロードして試してみてください。
ファイルの中身
①50年前のプログラム(NONPLANE.EXE)
②NONPLANEのデータ記入法(NONPLANE_DATA_METHOD.PDF)
③データ記入例 2種(EXAMPLE1.TXT、EXAMPLE2.TXT)
ここからダウンロード
新型コロナウィルスは、人の移動を束縛し、人々が集うことを阻み、容赦なく人間関係を分断してきました。人間は、社会を脅かす災害に直面した時、それが地震などの自然災害ならば、災害を契機として絆を深め、寄り添いながら立ち向かうこともできます。ところが新型コロナ禍では、医療や社会的なインフラなどに関わる人々の献身的な行為に感謝をしながらも、自らはなすすべもなくひたすら感染拡大を恐れ、断絶を強いられるばかりでした。
一方、それまで政府によって唱えられていた「働き方改革」推進のための「働き方改革関連法」が、新型コロナウィルス感染の報に初めて接した2019年12月と同じ年の4月から、順次施行されました。厚労省は、この法制定の目的を「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現」としています*)。これらの法施行後間もなく、新型コロナウィルスのパンデミックが、在宅勤務、リモートワーク、テレワークなどの働き方を生み出しました。はからずも「働き方改革」が推進されたように見えます。
その新型コロナも、今年(2023年)5月の連休明けには感染の危険度が、5類に引き下げられるとのことです。大丈夫か?と疑いながらも、コロナ禍がやっと沈静化に向かうことが期待されます。これまで3年余りの間、私たちは感染者数の増減が繰り返される度にピークが高くなるグラフに驚き、医療機関や保健所機能崩壊の警鐘に脅え、馴染みのお店のシャッターに貼られた「閉店のお知らせ」に胸を痛めてきました。こうして何度もパニックの瀬戸際に追い込まれながら、社会情勢や生活環境も多くの変化を遂げてきました。
コロナ禍の中から生み出された多様な生活様式の中で何が残り、何が消えていくのだろうか。歴史家が指摘する通り、かつてないほど多くの難題を抱え、的外れの情報に溢れる今を正確に見通し、未来を予測することはほとんど不可能なのかもしれません。とはいえ、次世代を担う若者たちの思考の変化や、仕事環境の変化を読み取り、それらがどのような意味を持つのかを理解することが、今後を見通す上で大切な課題であることに変わりはないはずです。
今回のフォーラムではこうした課題に焦点を当てて、コロナ後に何を期待し、どのように備えるべきかを皆様と共に考えたいと思います。多くの皆様のご参加を心よりお待ちしています。
*:厚生労働省HP 「働き方改革」の実現に向けて
第29回AB研ではNSDプロジェクト「若槻養護学校施設整備基本計画」プロポーザルにて最適候補者に選定されたCOA 一級建築士事務所の岡野道子氏と長曽我部亮氏をパネリストに、コメンテーターとしてNSDプロジェクトの検討を行った「県立学校学習空間デザイン検討委員会」委員長赤松 佳珠子氏(法政大学デザイン工学部教授 (株)シーラカンスアンドアソシエイツ代表)をお招きする。
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シンポジウムでは、防災に関わる学協会の専門家が集い、気候変動がもたらす災害リスク、避難・救命救助・復旧活動などの防災対応、国土利用・まちづくりなど災害対策についての最新の研究・取組を共有し、今後の災害対策・防災研究のあり方を議論・展望する有意義な機会としたい。
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