第1回 アーキニアリング・デザイン・アワード 2020


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選考評(総評)


AND賞設立にあたって

AND賞実行委員長 斎藤公男

思いおこせば「Archi-Neering Design (AND)」の言葉が建築学会から発せられたのは2007年。新潟県中越地震(2004)や耐震強度偽装事件(2005)が続いたこの頃、建築界の失われた信頼を社会に取り戻し、建築の魅力や役割を自分達で確認し共有したい。「AND展」(2008~)の開催はその思いをカタチにすべく、タイトルは「模型で楽しむ世界の建築」となった。
AND展の主役は150点を超える模型・パネル。主に建築を学ぶ学生がプロの建築家・構造家と協働した作品の数々は圧巻の出来栄えであった。古今東西の傑作・話題(問題)作を含め、その選択基準の特徴は多様性。すなわち

▹ さまざまな用途とスケール ▹ 個性的だけでない普遍的創造 ▹ デザインプロセス(発想・協働) ▹ ホリスティックデザイン(設計~建設) ▹ 美しさと合理性の追求 ▹ 仮設・改修・環境のデザイン ▹ 都市のインフラから家具まで 、など。

結局、今回のAND賞設立にあたっては上記が応募対象や評価軸となったわけである。
AND展がスタートしたのは2008年。日本全国9支部や凱旋展、台湾から中国への海外巡回展、そして2016年からの建築会館でのミニAND展など大変な回数を重ねることができた。特に印象的だったのは中国での歓迎・熱狂ぶり。土木と建築、意匠と技術といった垣根をこえた理念が殊更、新しいものと受けとられた。そして数年前、「中国でAND賞をつくりたいので協力してほしい」との声が舞いこんだ。私たちにとっても以前からの懸案でもあった。「日本でのAND賞設立」の気運が高まり、具体化への動きが早まったのはこうした背景のおかげと思う。
建築学会をはじめ各協会や地方団体・企業によるさまざまな「建築賞」がある。受賞の多くは建物・建築あるいは設計者・施工者を対象としている。
AND賞では設計者や設計・建設された完成品を表彰するだけでなく、発想から完成に至るプロセス(物語)や普遍性のある工夫・発案(力点)を注視したい。「貢献した“人”ではなく“もの”を表彰する。優れて一般化されてはいるものの、その裏にかくされている知恵や実績に対して評価したい」とする「内田賞」(1988~2001)にも相通じる視座ではないだろうか、と考えている。
第1回となる今回のAND賞のフライヤーには、賞のシンボルとして川口衞先生の「ジャンボ鯉のぼり」(1988~)を掲げさせて頂いた。「次元解析」の閃きと共に科学と工学を駆使した渾身の技術が比類なき「構造芸術」を生んだ。まさにANDの世界。こうしたデザインプロセスや成果を表彰する「AND賞」の舞台をつくりたいと願っている。
AND賞設立の、2020年は東京オリ・パラの開催年でもあった。予想だにしなかった新型コロナウィルスの感染拡大により五輪開催は延期となり、4月4日に予定されていた「AND賞設立記念シンポジウム」は急遽、基調講演のみオンラインでの発信となった。
第1回AND賞の選考に当たっては堀越英嗣(建築家)、陶器浩一(構造家)、磯達雄(ジャーナリスト)の三氏にお願いした。10月10日(土)(前回の東京1964五輪の開会式日)の「AND賞設立記念フォーラム」での講演の中に、期せずして同じ山本学治の論考―「凧の糸」が引用されていた。AND賞のイメージが共有されていると強く感じられた。
一次選考(2020年12月19日)から最終選考(2021年2月6日)へ。AND賞のあり方を方向づける真摯な議論と活発な意見交換が公開選考会として大成功であった。三人の選考委員と共に運営・実行委員の方々の努力がAND賞設立の礎を築いてくれたものと感謝する次第です。
今回、多くの皆さんの応募も大きな力となった。AND賞の今後の発展を楽しみに期待したい。


選考経過と総評

AND賞選考委員長 堀越 英嗣

この度アーキニアリングデザインアワードとしてAND賞の第1回が開催され、数多くのご応募を頂きありがとうございました。
2021年の今、まさに未来の建築のあるべき姿を考える時であると考えます。地球温暖化が引き金と考えられている、多発する自然災害、コロナ禍等を乗り越える持続可能な建築のあり方を建築家からエンジニアリングまで様々な叡智をインテグレートして模索する試みを評価することがAND賞の意義と考え、本選考をおこないました。選考委員は建築設計、構造設計、建築評論という異なった分野の専門家3名で構成されています。
応募いただいた多様な分野、規模の55作品について3人の選考委員により一次選考として他の建築賞とは異なるAND賞の意義に相応しいいかについて慎重に議論し、既に著名な賞を受けている作品もAND賞の視点でフラットに議論いたしました。その結果、展示家具、から大規模木造空間等までの多彩な12作品が最終選考へ進みました。
最終選考はコロナ禍の緊急事態宣言の中でしたが、直接対面で意見交換をすることが大切と考え、十分な広さの日本建築学会ホールとオンラインのハイブリッドで最大限の対処のもと、公開選考として開催いたしました。
予め抽選によって順番が決められ、プレゼンテーションは一人4分の説明と6分の質疑の計10分で行われました。短い時間ではありましたが、図面だけではわかりにくい点など直接のプレゼンテーションと質疑応答により選考委員はもとより参加されている方々にそれぞれの内容がしっかり伝わったと思います。
最初に選考委員一人あたり5票を投票し、1票から3票までが入った8作品について選考委員の間で様々な視点から意見交換が行われました。多彩な作品のそれぞれの特徴についてAND賞の意義との整合性について委員が意見交換を行った上で2回目の投票として選考委員が最も最優秀賞に相応しいと考える作品一点を選定し、投票いたしました。その結果堀越委員が「LUCERNE FESTIVAL ARK NOVA 」陶器委員が「スケールの異なる複層空間とハイブリッドな屋根構造 <福井県年縞博物館>」磯委員が「TBM PROJECT - CLTを用いた折板構造V字梁」となり、意見が別れました。そのためこの3作品についてそれぞれ何故最優秀に相応しいかについて意見交換がされ、再度の投票の結果3委員が全員一致で、第1回AND賞最優秀賞に「LUCERNE FESTIVAL ARK NOVA 」が選ばれました。奇しくも10年前の東日本大震災からの復興を願い、アニッシュ・カプーアの空間彫刻的アイデアをもとに磯崎新、イソザキ・アオキアンドアソシエイツにより実現した移動式仮設空気膜構造であり、祈りと音楽の場としてこれ迄の空気膜構造とは異なる、新しい空間と建築の在り方が導き出されています。まさにAND賞最優秀賞にふさわしい作品と考えます。上記の2作品に加えて、1回目の投票で全員が票を入れた「昭和電工(大分県立)武道スポーツセンター」について意見交換がされ、優秀賞に相応しいことで意見が一致し、最終選考まで残ったものの惜しくも最優秀賞を逃した「福井県年縞博物館」「TBM PROJECT」を含めた3作品が優秀賞に選定されました。優秀賞に選定されなかった残りの最終選考8作品については入賞とすることで決定いたしました。
建築の次世代を担う新しい可能性を見出そうという難しい課題でもあるAND賞に相応しい多彩な作品を選定することができたことは、斎藤先生をはじめ、実現までご尽力いただいた方々のご尽力のお陰であり、心から感謝いたします。


選考を終えて

AND賞選考委員 陶器 浩一

第1回AND賞選考委員を仰せつかり大変光栄と思うと共に、相当なプレッシャーを感じました。
建築賞でもなく技術賞でもないこの賞の評価軸をどこに置くのか非常に悩みましたが、選考を始める前にANDの理念について私自身で改めて考えてみました。私が大切にしたいと思ったのは、
・出来上がった空間が(社会、ひと、素材、技術に対して)“正直”であること
・人に“感動”を与えるものであること
・実現のためのプロセスに“物語”があること
の3点でした。
私が偉そうに言う資格はありませんが、honestnessは我々の基本であり、我々が創造する空間は社会、クライアント、設計者、施工者、素材、技術に対して”正直”であるべきだと思います。また、人に感動を与えるものが芸術であるとしたら技術にはその力があり、建築へ込められた想いから閃きが生まれ、それを実現するためのプロセスこそが創造につながるのだと思います。
応募作品は大プロジェクトからインスタレーションまで多種多様であり横並びの評価が難しく選考は困難を極めましたが、入選した12作品はそれぞれ違う視点でANDの理念を具現化したものであり、まさにANDの多様性を感じました。
今回の選考を通じて改めて感じたことは、ANDという概念に明確な定義があるわけでなく、私たち建築に携わる者が「自分自身のAND」を持つことが大切だということです。
それぞれが常に考え、行動し、議論することを通じて、ANDという概念が定着してゆくことが大事であり、この賞はそのきっかけとなるものだと信じています。


AND賞選考委員 磯 達雄

建築界にはすでにいろいろな賞がある。今回、AND賞という新しい賞が制定され、その選考にあたることとなって、趣旨を自分なりに解釈した。この賞が与えられる対象は「建築」でもなければ、設計者をはじめとする「人」でもない。建築の原初的な部分を成している「テクトニック」、それ自体を評価することである。難しい面はあるだろう。しかし、その意義は十分にある。そして迷ったときには、AND賞の理念を示すアイコンとなっている「ジャンボ鯉のぼり」(設計:川口衞)を思い出して、目指すべき方向性を見失わないようにしよう、そんなことを考えながら、選考にあたった。初回であるにもかかわらず多くの応募があり、その内容はバリエーションに富んでいた。仮設建築や展示のインスタレーションも含まれている。建築としての完成度にとらわれることなく、一時的であることを最大限に活かしたこうした挑戦的なプロジェクトも、この賞ではぜひ採り上げたいと考え、積極的に選び出すようにした。最終選考では、多様な種類の提案に優劣を付けることの困難さを噛み締めることになったが、技術的な問題解決が建築のあり方と高度に結びついていることをわかりやすく表現しているものという観点を入れて、絞り込むことにした。応募作全体について振り返ると、多くは構造の技術をテーマにしたものだったが、なかにはそれにとどまらない技術的な挑戦を果たしたものも含まれていた。一次選考の段階でほとんどを落とさざるを得なかったが、今後も多様な技術的挑戦をカバーする賞であり続けることを望んでいる。



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