昭和43年(1968)に起きた十勝沖地震では、戦後に建設された真新しい鉄筋コンクリート構造の学校や市庁舎が多く壊れました。このことは、建築の関係者は誰でも知っていることですが、このころの鉄筋コンクリート柱のフープ(せん断補強筋)は200mm間隔以上の配置で、せん断補強筋比は今に比べると非常に小さく驚くほどです。小職の恩師が学生時代に受けた戦時中の講義では「柱は鉛直荷重が作用しているからせん断力には強い」と言われていたとのことです。
重力加速度G=980cm/sec2に比べ地震加速度が0.1G程度として応答倍率の小さな剛な構造物を対象にすれば、この考えで良いのかもしれません。しかし、実際の地震動の加速度は0.3G以上0.5Gに至ることもあり、構造物の応答加速度はさらに大きくなりますから、積み上げただけの構造物が地震で壊れるのは当然です。コンクリートのせん断強さ、レンガ造の目地モルタルの強さ、土盛構造の土の粘着力、大きな石垣とその裏に詰められている栗石のせん断抵抗力などを考慮しても、この揺れには耐え切れません。
ローマのサンピエトロ寺院のドームはその広がりを抑えるために下部に鉄板が巻いてあり、ピサの斜塔は倒れるだけでなくバラバラにならないように柱列の周囲には鋼線が巻いてあります。スペインのアルハンブラ宮殿のアーチの回廊は母屋との間を鋼棒で繋いでいます。イタリアではラクイラ地震・アマトリーチェ地震などで美しい古い町が壊れましたが、予め組積造建築の左右前後の外壁間を鋼棒(Catena)で繋いでいた建物はほとんど壊れませんでした。
これほど簡単なことが、日本だけでなく世界のすみずみに伝わっていないことは残念です。昨年の夏に、NHK world Japanから誘いがあり、日本在住の2人の小学生に説明する方法で、世界の構造物をもっと耐震的にする方法について番組を作りました。
是非、ご覧ください。
(AW)
“Techniques to Protect Historical Structures”コーディネーター:斎藤公男
パネリスト:堀越英嗣(建築家、芝浦工業大学教授)、磯達雄(エディター/ライター、㈱フリックスタジオ)、小西泰孝(構造家、武蔵野美術大学教授)
日時:2019年6月11日(火)17:30~
場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第28回AF参加希望」とご明記ください。
新緑の候、いよいよ「令和」となりました。
平成の30年間を検証・総括する試みのいくつかが建築や構造の分野でもみられます。1)2) 今回のフォーラムの企画を考えるうえでも、最近私自身が体験した回顧的な話題や出来事が示唆を与えてくれました。
1つ目は、日経アーキテクチャー2019.2月号に掲載された2つの記事です。ひとつは特集「検証 平成建築史」のなかで取り上げられ、“集大成としての世界初の挫折”とされたZaha Hadidの「新国立競技場」。いまひとつは恒例のシリーズ「建築巡礼―昭和モダン」(宮沢洋・磯達也)でとりあげられた「岩手県立体育館」。冒頭の“健全なる意匠と構造”のフレーズには感激しました。おそらく偶然の企画と思いますが、私が少なからず関わり、しかも“キールアーチとケーブルネット”の構造形式を共有する2つのプロジェクトが長い年月を経て同じ紙面に奇しくもとりあげられたことは驚きでした。
2つ目はDOCOMOMOの法人化設立総会(3/16)において依頼された記念講演会。会長は松隈洋氏から渡邉耕司氏になり、来秋、東京で国際会議を主催するということです。同会とは私は建築学会会長の頃(‛07~‛08)、郵政ビルや歌舞伎座などへの保存要望書の提示をめぐって議論した記憶がありますが、あまり深い関わりを持っていたわけではありません。私なりの興味から選んだ演題は「私にとってのモダニズム―空間構造デザインをめぐって」。<br> これを契機に以前から気になっていた「モダニズムはいま―」といったテーマへの関心は増々深まっています。「漂うモダニズム」3)の先も気になります。
3つ目はNHKの首都圏ニュースで取材・放映(4/23)された「二つのオリンピックスタジアム―「代々木」から「有明」」です。前回(1964)と今回(2020)の東京五輪施設の計画・設計に何らかの形で関わったエンジニアという目線からの企画とのこと。今回の「有明体操競技場」はアドバイザーとして深く関わりました。前回の「国立代々木競技場」では坪井研の大学院時代、幸運にもプロジェクトの最初から設計プロセスを垣間みることができた訳です。坪井・川口両先生のお名前は絶対出して下さい、と頼みましたが、cutされていました。メディアはこわいな、とあらためて思う次第です。
ということで、あらためて「代々木」「岩手」「Z・H新国立」「有明」の名を並べてみると互いに相関し合うさまざまなEpisodeが思い浮かんできます。そしてそれらをつなぐものとして二つのテーマを考えてみました。
第一は「モダニズムの軌跡」です。モダニズムの定義や意義はともかくとして、「代々木」から「Z・H新国立」に至るモダニズムの変遷。昭和モダンがあるならば平成モダンは?かつて「代々木」に冠せられた“構造表現主義”なる言葉4)は一体何か?といった疑問です。IT時代の今日、“オルタネイティブ・モダン”5)“構造のポストモダニズム”6)といった言説も気になります。
第二は「建築・意匠と構造・技術の融合」です。この分野横断的な理念はアーキニアリング・デザイン(AND)のそれと同じで、イメージ(想像力)とテクノロジー(実現力)の相対的ベクトルの有様は歴史的にも、今日のプロジェクトを通じても散見され、両者の交差点におけるさまざまな物語が展開されています。こうした視点から「代々木」と「Z・H新国立」の設計プロセス、とりわけ基本構想(計画)における状況を回顧・考察することは興味深く思われます。構造デザインにおけるITの活用と知力(アイデア)の注入といった視点を通じて、今日の新しい、建築(家)と構造(家)の融合の実態、個性的創造と普遍的創造7)といった具体例が見えてくるはずです。
かつての「建築文化」特集号―1961年の「構造設計の道」に続く1990年の「建築の構造デザイン」。その中での座談会8)での話題と課題は30年経た今日でも風化していません。特集の第三段が期待されます。
以上述べたような事柄や疑問を背景にして、今回のAF-フォーラムを下記のように企画しました。各パネリストに20-30分自由な内容(企画文のキーワードを中心に)でプレゼンして頂き、その後討論を行いたいと思います。皆様のご参加をお待ちしています。
[参考文献]
1)「建築技術が拓いた建築と空間」(鉄構技術2018.9)
2) 「検証 平成建築史(1989-2019)―内藤廣が語る未来への提言」(日経アーキテクチャー2019.4)
3) 槇文彦「漂うモダニズム」(左右社2013)
4)矢代眞己, 田所辰之助, 濱嵜良実「マトリクスで読む20世紀の空間デザイン」(彰国社 2003)
5)五十嵐太郎「モダニズム崩壊後の建築」(青土社 2018)
6)内藤廣「構造デザイン講義」(王国社2008)
7)山本学治「現代建築と技術」(彰国社1963)
8)木村俊彦・川口衛・磯崎新・原広司・斎藤公男(司会)「構造学と建築学のはざまに(座談会)」(建築文化1990.11)
コーディネーター:布野修司+安藤正雄+斎藤公男
報告1:渡邊詞男(メタボルテックスアーキテクツ代表) 「格差社会の住宅政策―ミックスト・インカム住宅の可能性―」
報告2:連勇太郎(NPO法人モクチン企画代表理事) 「モクチンメソッドー都市を変える木賃アパート戦略」
コメンテーター: 園田真理子(明治大学教授)(予定)
日時:2019年7月6日(土)15:00〜18:30
場所:A-Forum
参加費:2500円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第16回AB研究会参加希望」とご明記ください。
A-Forum A/B研究会は、「デザインビルド」をめぐる第1回研究会(「デザインビルドとは?:新国立競技場問題の基層」)以降、入札契約方式の多様化、公共建築の設計者選定を巡る諸問題、発注者支援をめぐる問題を掘り下げる一方、日本の住宅生産と建築家をめぐって(第3回)、建築職人の問題、木造住宅設計の問題(第4回)、リノヴェーションの問題(第5回、第7回)、戸建住宅生産の問題(第10回)を議論してきた。今回は、これまでの議論では焦点を当ててこなかった格差社会における住宅の問題をとりあげる。手がかりとするひとつは、アメリカにおける低所得者層に対するミックスト・インカム住宅供給である。もうひとつは、モクチン企画の「モクチンメソッド」である。
日時:2019年7月5日(金)9:30~18:30
開催場所:東大寺総合文化センター (小ホール)(奈良市水門町 100 番地)
詳細:PDF
お申込み:http://www.jssc.or.jp/より、参加登録書をダウンロードの上、メール添付にて事前に お申し込みください。
問合せ先:日本鋼構造協会「日中韓-高層建築フォーラム」係
*A-Forumでは申し込み受け付けを行っておりません。
本フォーラムは、「CTBUH(Council on Tall Buildings and Urban Habitat):高層ビル・都市居住協議会」のアジアにおける活動の一環として、中国、韓国、日本の学識経験者、構造エンジニアが中心に参加している高層建築に関する国際会議です。2014 年に上海で開始されて以来、2015 年(ソウル)、2016 年(東京)、2017 年(重慶)、 2018 年(釜山)と、3カ国の持ち回りで毎年開催されており、今年で6回目を数えます。
今回のフォーラムでは、中国からはコンクリート充填鋼管構造、連結超高層、北京に昨年完成した「China Zun Tower」(528m)の先端施工技術等について、韓国からは制振デバイスを用いたレトロフィット、超高層メガブレース架構、合成コアウォールシステム等について、興味深い講演が予定されています。また、日本からはそれぞれに特徴のある制振技術を有する3件の超高層建築の設計・施工事例について発表が行われます。
各講演はいずれも超高層建築の最新技術に関するものであり、特に中国、韓国のエンジニア、研究者から直接説明を聞ける貴重な機会となりますので、多くの方にご参加いただけることを期待しています。