A-Forumでは、これまでにも幅の広い社会的発言の機会をもらっている。そして、この度は、極め付けの機会を頂いた。
昨年11月19日、大田区から5人の方が来られて、区長選挙への出馬を要請された。始めは、自分でも半信半疑であったが、いろいろ状況を説明されて考えた。建築基本法制定の運動を進めてはいるが、自治体が建築行政をしっかりやって、初めてうまく行くことである。もし、区長になれたら、基本法制定の可能性も高まるであろう。しかし、建築基本法制定準備会の12月の幹事会で、投げかけたところ、賛否半ばであった。自民党の議員を役員に、超党派の議員連盟を作ろうというときに、自民・公明が与党の現職区長に対抗馬として出ることは、建築基本法制定にとっては、マイナスという意見も少なくなかった。しかし、首長になれたら、建築基本法の推進という意味で、なれなければ、粛々と進めればよい。そして、この機会に大田区で、建築基本法の意味を発信もできると考え、年明けに立候補を決めた。
全野党の推薦ということもあり、立憲民主、共産、新社会、など8会派との政策調整をしたうえで、1月20日に、記者会見して立候補を表明した。全国紙も「大型プロジェクトの見直し」とか、「福祉、教育、防災のための『美しいまちづくり』」、「法律の実体化を地方行政で」など、小さな記事ではあるが、しっかり報じてくれた。全体を含む新しい制度として、地域公共サービス住民会議(仮称)を作るということを提案した。小学校区程度の、顔の見える範囲で、町会・自治会とは異なる、新しい会議体を作り、そこで、何が必要かを議論してもらうということである。交通の便、公園、景観、図書館、などそれぞれの地域に必要なものの優先順位を論じ、予算を考えて実現して行けば良い。もちろん、今の建築基準法のままで、経済活性化指向の建築を進めると、土地は最低基準の建物で埋め尽くされた上、短寿命の建築となってゴミも沢山でるということも訴えた。
選挙の難しさも知った。公職選挙法があって、個人の名前入りポスターは、選挙期間(公示から選挙日までの1週間)でないと許されないとか。演説でも、名前のたすきをかけて連呼は違反など。2人のポスターならOKというので、講談師で有名な神田香織さんと一緒のポスターを作った。内部資料と言う形で、区政の提言のビラを何万枚も印刷して、新聞折り込みも2度ほど実施した。しかし60万有権者に政策を伝えるのは容易でなかった。
準備を整えるにも時間がかかる。3月からは、街宣車も、政党系の車を借りてポスターを貼って、大田区を回ったり、駅前や、スーパーの前、高層マンションに向かって、演説したりした。だいたい、5分から15分くらいのものであるが、だんだん慣れて来ると、それなりにポイントを捉えて気持ち良くできるようになるものである。
自治体が税金をどのように使うべきかということは、最重要課題だ。今の大田区政にあっては、羽田空港をさらに便数も増やして、経済活性化に寄与すること、東急電鉄の多摩川線を蒲田で地下に潜らせて、羽田までつなぐ新空港線を実現することが目玉である。100億単位のお金が使われる。一方、福祉や保育、教育分野では、現場で働く人が低賃金、長時間労働で、質が低下している。大田区の場合、すでに1300億円もの貯金があって、毎年予算を使い残して数十億単位で増えている。それを教育に回せば、小中学校に、区採用の正規の教職員を1人ずつ配置することが可能である。学童保育も、介護支援も、大田区は品川、世田谷に比べて貧弱だ。
区政の課題は、ある意味分かりやすい。予算配分を少し変えるだけで、区民にとって暮らしやすいまちになることが見える。羽田増便で、上空をジャンボジェットが飛ぶようになったり、施設建て替えで、公園の木が何百本も伐られたりする大田区は、このままで良いのだろうかと、問題を投げかけた。都営住宅も区営住宅も、建物の老朽化というよりは、住んで居る人たちの超高齢化をどうするかという、住宅行政も大きな課題だ。民間の不動産・建設業任せで、庭付きの戸建てが、敷地一杯のワンルーム・アパートに変わって行くことも含め、区としてなすべきことは多い。これらの問題は、大田区だけでない23区共通の課題でもある。
4月21日の選挙が終わった段階で、勝てたとは思わなかったが、前回の共産党の候補との一騎打ちで6万票だったのが全野党推薦ということから、正直7、8万票は行くかな、と思った。実は、もう一人、40代の前区議が、「多選は良くない」と立候補していた。神田区長候補と一緒に戦った15人の区議候補の誰もが、まともな政策もないし、政党の推薦もなく区長はとても無理と見ていたようなこともあって、せいぜい2、3万票かと思っていた。しかし現実は、ほぼ同数の5万票台とは言え、その候補にも1800票少なかったのだ。
私なりの分析としては、選挙制度の問題、選挙のやり方もあるが、より基本的なところを考えさせられた。自治体の選挙に何を期待するかが見えない。特に20代から40代の若者にとって、政治が経済活性化を言うことは悪くない。介護や子育てのどこが問題かは、当事者でないと分からない。それが、43%という低い投票率にも表れている。有権者の22%の信任で当選する。これからも、暮らしよりは大型プロジェクト優先の区政が4年続くと思うと、残念な結果であったと思っている。このたび区長にはならなかったが、選挙活動を通して、建築の意味を社会に問うことの重要性を再認識した。それは、自分の問題でもあるが、同時に、日本のすべての建築の専門家の課題でもある。
(KJ)
コーディネーター:斎藤公男
パネリスト:堀越英嗣(建築家、芝浦工業大学教授)、磯達雄(エディター/ライター、㈱フリックスタジオ)、小西泰孝(構造家、武蔵野美術大学教授)
日時:2019年6月11日(火)17:30~
場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第28回AF参加希望」とご明記ください。
新緑の候、いよいよ「令和」となりました。
平成の30年間を検証・総括する試みのいくつかが建築や構造の分野でもみられます。1)2) 今回のフォーラムの企画を考えるうえでも、最近私自身が体験した回顧的な話題や出来事が示唆を与えてくれました。
1つ目は、日経アーキテクチャー2019.2月号に掲載された2つの記事です。ひとつは特集「検証 平成建築史」のなかで取り上げられ、“集大成としての世界初の挫折”とされたZaha Hadidの「新国立競技場」。いまひとつは恒例のシリーズ「建築巡礼―昭和モダン」(宮沢洋・磯達也)でとりあげられた「岩手県立体育館」。冒頭の“健全なる意匠と構造”のフレーズには感激しました。おそらく偶然の企画と思いますが、私が少なからず関わり、しかも“キールアーチとケーブルネット”の構造形式を共有する2つのプロジェクトが長い年月を経て同じ紙面に奇しくもとりあげられたことは驚きでした。
2つ目はDOCOMOMOの法人化設立総会(3/16)において依頼された記念講演会。会長は松隈洋氏から渡邉耕司氏になり、来秋、東京で国際会議を主催するということです。同会とは私は建築学会会長の頃(‛07~‛08)、郵政ビルや歌舞伎座などへの保存要望書の提示をめぐって議論した記憶がありますが、あまり深い関わりを持っていたわけではありません。私なりの興味から選んだ演題は「私にとってのモダニズム―空間構造デザインをめぐって」。<br> これを契機に以前から気になっていた「モダニズムはいま―」といったテーマへの関心は増々深まっています。「漂うモダニズム」3)の先も気になります。
3つ目はNHKの首都圏ニュースで取材・放映(4/23)された「二つのオリンピックスタジアム―「代々木」から「有明」」です。前回(1964)と今回(2020)の東京五輪施設の計画・設計に何らかの形で関わったエンジニアという目線からの企画とのこと。今回の「有明体操競技場」はアドバイザーとして深く関わりました。前回の「国立代々木競技場」では坪井研の大学院時代、幸運にもプロジェクトの最初から設計プロセスを垣間みることができた訳です。坪井・川口両先生のお名前は絶対出して下さい、と頼みましたが、cutされていました。メディアはこわいな、とあらためて思う次第です。
ということで、あらためて「代々木」「岩手」「Z・H新国立」「有明」の名を並べてみると互いに相関し合うさまざまなEpisodeが思い浮かんできます。そしてそれらをつなぐものとして二つのテーマを考えてみました。
第一は「モダニズムの軌跡」です。モダニズムの定義や意義はともかくとして、「代々木」から「Z・H新国立」に至るモダニズムの変遷。昭和モダンがあるならば平成モダンは?かつて「代々木」に冠せられた“構造表現主義”なる言葉4)は一体何か?といった疑問です。IT時代の今日、“オルタネイティブ・モダン”5)“構造のポストモダニズム”6)といった言説も気になります。
第二は「建築・意匠と構造・技術の融合」です。この分野横断的な理念はアーキニアリング・デザイン(AND)のそれと同じで、イメージ(想像力)とテクノロジー(実現力)の相対的ベクトルの有様は歴史的にも、今日のプロジェクトを通じても散見され、両者の交差点におけるさまざまな物語が展開されています。こうした視点から「代々木」と「Z・H新国立」の設計プロセス、とりわけ基本構想(計画)における状況を回顧・考察することは興味深く思われます。構造デザインにおけるITの活用と知力(アイデア)の注入といった視点を通じて、今日の新しい、建築(家)と構造(家)の融合の実態、個性的創造と普遍的創造7)といった具体例が見えてくるはずです。
かつての「建築文化」特集号―1961年の「構造設計の道」に続く1990年の「建築の構造デザイン」。その中での座談会8)での話題と課題は30年経た今日でも風化していません。特集の第三段が期待されます。
以上述べたような事柄や疑問を背景にして、今回のAF-フォーラムを下記のように企画しました。各パネリストに20-30分自由な内容(企画文のキーワードを中心に)でプレゼンして頂き、その後討論を行いたいと思います。皆様のご参加をお待ちしています。
[参考文献]
1)「建築技術が拓いた建築と空間」(鉄構技術2018.9)
2) 「検証 平成建築史(1989-2019)―内藤廣が語る未来への提言」(日経アーキテクチャー2019.4)
3) 槇文彦「漂うモダニズム」(左右社2013)
4)矢代眞己, 田所辰之助, 濱嵜良実「マトリクスで読む20世紀の空間デザイン」(彰国社 2003)
5)五十嵐太郎「モダニズム崩壊後の建築」(青土社 2018)
6)内藤廣「構造デザイン講義」(王国社2008)
7)山本学治「現代建築と技術」(彰国社1963)
8)木村俊彦・川口衛・磯崎新・原広司・斎藤公男(司会)「構造学と建築学のはざまに(座談会)」(建築文化1990.11)
コーディネーター:布野修司+安藤正雄+斎藤公男
報告1:渡邊詞男(メタボルテックスアーキテクツ代表) 「格差社会の住宅政策―ミックスト・インカム住宅の可能性―」
報告2:連勇太郎(NPO法人モクチン企画代表理事) 「モクチンメソッドー都市を変える木賃アパート戦略」
コメンテーター: 園田真理子(明治大学教授)(予定)
日時:2019年7月6日(土)15:00〜18:30
場所:A-Forum
参加費:2500円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第16回AB研究会参加希望」とご明記ください。
A-Forum A/B研究会は、「デザインビルド」をめぐる第1回研究会(「デザインビルドとは?:新国立競技場問題の基層」)以降、入札契約方式の多様化、公共建築の設計者選定を巡る諸問題、発注者支援をめぐる問題を掘り下げる一方、日本の住宅生産と建築家をめぐって(第3回)、建築職人の問題、木造住宅設計の問題(第4回)、リノヴェーションの問題(第5回、第7回)、戸建住宅生産の問題(第10回)を議論してきた。今回は、これまでの議論では焦点を当ててこなかった格差社会における住宅の問題をとりあげる。手がかりとするひとつは、アメリカにおける低所得者層に対するミックスト・インカム住宅供給である。もうひとつは、モクチン企画の「モクチンメソッド」である。
コーディネーター:和田 章
パネリスト:Andrea Santangelo(アンドレア・サンタネグロ)
日時:2019年5月15日(水)18:00〜19:30
場所:日本大学理工学部駿河台校舎1号館2階121会議室
参加費:無料
案内状:PDF
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「HL参加希望」とご明記ください。
この10年よく言われるようになった言葉に、sustainable と resilience そして SDGs などがあります。
18世紀から20世紀に進めてきた贅沢な生活を反省し、自然エネルギーを活用するなど、重要な取り組みだと思いますが、我慢の生活に戻りなさいと言われているように感じることもあります。
日本で工事中のリニアー新幹線は時速500kmで走りますが、「一気圧」の中を走り抜ける空気抵抗だけでなく、トンネルの中の「留まった空気」を打ち破らねばならないなどがあり、エネルギーロスの大きなシステムだと思います。
一方で、カリフォルニアに本拠地があり電気自動車「テスラ」を開発したグループが始めた新しい交通システム「Hyperloop」があります。
長いチューブ構造を都市間に施工し、太陽エネルギーで真空ポンプを稼働させて内部の気圧を十分に低くし、空気抵抗をなくした条件で、28人乗りのカプセルを時速1000km(ジャンボジェットの巡航速度)で、次々に行き来させるシステムです。
将来はジャンボを飛ばす燃料がなくなることもありえます。
「新しい時代の問題は新しい技術で解決する」ことが必要だと思います。
このたび、Hyperloop の開発に参加して頑張っているイタリアの若手エンジニア(Dr. Andrea Santangelo)が日本に来るのを機会に、講演会を企画しました。
行き詰まった社会を感じる方々も多いと思いますが、これらの新しい解決の糸口になるように思います。
是非、多くの皆様のご参加を期待いたします。(和田 章)
日時:2019年7月5日(金)9:30~18:30
開催場所:東大寺総合文化センター (小ホール)(奈良市水門町 100 番地)
詳細:PDF
お申込み:http://www.jssc.or.jp/より、参加登録書をダウンロードの上、メール添付にて事前に お申し込みください。
問合せ先:日本鋼構造協会「日中韓-高層建築フォーラム」係
*A-Forumでは申し込み受け付けを行っておりません。
本フォーラムは、「CTBUH(Council on Tall Buildings and Urban Habitat):高層ビル・都市居住協議会」のアジアにおける活動の一環として、中国、韓国、日本の学識経験者、構造エンジニアが中心に参加している高層建築に関する国際会議です。2014 年に上海で開始されて以来、2015 年(ソウル)、2016 年(東京)、2017 年(重慶)、 2018 年(釜山)と、3カ国の持ち回りで毎年開催されており、今年で6回目を数えます。
今回のフォーラムでは、中国からはコンクリート充填鋼管構造、連結超高層、北京に昨年完成した「China Zun Tower」(528m)の先端施工技術等について、韓国からは制振デバイスを用いたレトロフィット、超高層メガブレース架構、合成コアウォールシステム等について、興味深い講演が予定されています。また、日本からはそれぞれに特徴のある制振技術を有する3件の超高層建築の設計・施工事例について発表が行われます。
各講演はいずれも超高層建築の最新技術に関するものであり、特に中国、韓国のエンジニア、研究者から直接説明を聞ける貴重な機会となりますので、多くの方にご参加いただけることを期待しています。