第6回 アーキニアリング・デザイン・アワード 2025


選考委員
福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)
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選考評(個別)


最優秀賞


新札幌アクティブリンク
応募代表者:出⼝亮(⼤成建設)
共同応募者:渡邉⻯⼀、池邉慎⼀郎(ネイ&パートナーズジャパン)

【応募理由】新札幌アクティブリンクは、副都心の新たな街区開発において、複数の建築を円環状につなぐ道路上空通路である。上空を歩き景色をぐるりと眺めて歩く楽しさや歓びが感じられる豊かな空間・体験を思い描き(ヨコ糸)、綿密な都市・建築計画と、北海道の鉄鋼技術を有する職人の手とデジタル技術の融合(タテ糸)により、街のシンボルとなる構造=意匠となる建築空間を実現させた。
 設計段階からWSや見学会を通じて市民・事業者と協働し、今も維持管理や清掃活動を通じてここを長く「使える」だけでなく、ずっと「使いたくなる」場を共に育んでいる。時を超えて残っていくことを目指し、つくりながら考える、使いながら考える。中動態のアプローチを続けていきたい。(出口)

【講評】都市の利用者の視点に立てば、それぞれの敷地に収まっているだけの建築はいくら単体として優れていても、地域がより緊密につながるためにはそれらの建築がもっと有機的につながるべきである。これは古く、CIAM※1停滞後にチームX※2が提案してきたことであり、日本では丹下健三が目指した都市と建築が有機的に連続する人間のための建築と都市の空間構造の追求であった。この計画は建築と土木、敷地の垣根を超えて気持ちよく移動する人間の感性を豊かに刺激する美しい構造体である。移動する人間の心理を踏まえた内側に遮るものがない片持ち構造による見通しの良い楕円の形状はシームレスな視線の変化を生んでいる。フィーレンデールトラスによる力学に呼応した外側の構造に開けられた矩形の開口部の変化が気持ちの良いリズムを作り出している。構造がそのまま人の気持ちを刺激する心地よい意匠となっている。太い柱のない鉄板の構造は北海道の造船技術によるスチールの一体構造で、リブ構造がそのまま手すりなどの意匠となっている。一般的な土木構造では構造の形状やジョイント部を「意匠」として二次部材の仕上げ材で覆い、汚れや落下を誘発する太いコーキングが目立つことがこれまで多かったが、この計画は意匠と構造の融合を可能にした緻密な設計と施工が生み出しており、最優秀賞に相応しい優れた計画である。(堀越)


優秀賞


丸太炉庵
応募代表者:結城健仁(東京科学⼤学⼤学院 環境・社会理⼯学院 建築学系 塚本由晴研究室)
共同応募者:太⽥妃南、⾦材珍、⿊⽥万滉、平松ありさ、⼭本乃依(東京科学⼤学⼤学院)

【応募理由】丸太炉庵は、最新技術を用いた建築ではないため、当初は応募を迷いました。しかしAND賞の理念を読み、「建築と技術の融合」を新技術の導入に限らず、既存の技術や身近な資源をいかに読み替え、応用し、空間や関係として統合するかという姿勢として捉え直しました。また、建築を「点」ではなく「線」、さらに「面」へと広がるものとして捉える視点は、私たちが現場で設計施工に向き合う中で実感してきた感覚と強く重なります。丸太炉庵という一つの点は、時間軸という線の中で地域の記憶と結びつき、やがて面となって地域を越え、世界へと広がっていく起点となることを目指しています。地域の素材と施工の合理性を丁寧に編み直す、そのプロセスこそANDの目指す視点に通じると考え、応募いたしました。(結城)

【講評】敷地は東京科学大学の塚本由晴教授が関わり、里山の再生に継続的に取り組んでいる集落の上方に位置する森の中である。森は人が入らなくなって久しく、台風で倒れた木がそのままに放置されていた。このプロジェクトを担った大学院生のチームは、倒木を片付け、斜面に道をつくり、間伐で森を健全化するとともに、間伐材を用いて小屋を建設した。自分たちの手で木を切り、それを運んで建築をつくる。そのためにはどのように木を加工し、どのように組んでいけばいいのか。メンバーが一つひとつ考えて、実践していった。彼らが選び取ったつくり方とは、例えば重い木は斜面の上側で切って下側へ運んで使えばいいというような、逆らえない摂理に従うことである。それは自明かもしれないけれども、体験から得た知恵はかけがえないものとなる。完成した建物は、六角形の平面に六角形の架構が載るログハウス。苔で葺かれた屋根は、森との一体感を醸し出して素晴らしい。炊いた火をメンバーが囲んでいる内観写真を見ると、人間が築く原初的な空間がここに出来上がったようにも見える。小屋は今後、この地でさらに活動するための拠点として使われるという。(磯)


EDION PEACE WING HIROSHIMA エディオンピースウイング広島
応募代表者:安藤広隆(⼤成建設)
共同応募者:川野久雄、松村秀幹、武市章平、島村⾼平、永久美優、鈴⽊直人(⼤成建設)

【応募理由】広島の地で生まれた、平和のシンボルとして国内でもまれなまちなかスタジアム。軽やかで浮遊感があり、スタジアムを優しく包み込む『翼』をモチーフにした白い大屋根、まちに開いた2つの大きな開口部から、試合の様子、スタジアムの熱気を街に発信する。この『翼』のような開かれたスタジアムは、屋根は建築の柔らかな曲面に合わせる形でスパン135mの張弦梁を採用し、スラストが無く自碇した張弦梁をオープンコーナーコラム(山型斜め柱)で支持することで、屋根を軽快に浮かせるとともに南側の大開口を生み出している。「EDION PEACE WING HIROSHIMA」は、『翼』のイメージから、様々な技術・アイデアとの融合・触発・統合により実現できたと考えている。(安藤)

【講評】平和記念公園と原爆ドームを結ぶ「平和の軸線」の延長上に位置し、広島の新たなシンボルとなるサッカースタジアムである。道路を挟んで運動施設群と向き合う南側は左右に大きな開口を持ち、スタジアム内部の熱狂が街ににじみ出て一体となるような工夫がなされている。一方、集合住宅群と隣接する北側は高さを抑えて外部からは閉じて威圧感をなくし、音漏れや光害対策を施して住宅環境に配慮している。方位によって異なる周辺環境を読み解かれたダイナミックで浮遊感のある一枚のスタジアム屋根は、長辺スパン135mの張弦キール梁の大スパン架構を南側コーナー2か所において2本の大きな斜め柱で支えるという、他に類を見ない屋根構造で実現している。住宅側に高さを抑えた左右非対称な形状は周辺環境に融合し内部空間に動きを与えるとともに、地震荷重を無理なく伝達することにも役立っている。「平和であることを喜び、愉しむスタジアムパーク」との想いを込めて「平和の翼」をイメージしたとのことである。このような規模の大空間構造となると、イメージを優先させれば不合理で不経済な建築となり、構造合理性を優先させれば動きのない閉じた空間となりがちであるが、独創的なアイデアと高度な構造、施工技術でそれらを見事に両立させている。(陶器)


御所町プロジェクトー地産地消 の 木構造 を手がかりとした10年にわたる地域再生の試みー
応募代表者:𠮷村理(𠮷村理建築設計事務所 畿央⼤学)

【応募理由】エンジニアリングは華やかな表面のデザインを支えるための単なる裏方としての技術、或いは逆にすごさを見せる為のテクニックだけではなく、地方で暮らす人々の普通の生活を豊かにし、幸せにするものだと考えています。AND賞の趣旨は私の考えに近いと感じ応募させて頂きました。2006年より奈良盆地南部の葛城山麓に位置する御所町に居住しながら、特殊な材料や構法を使わず近隣で入手出来る材料と地元の職人の手による地産地消を手がかかりとして、地域再生に継続的に取り組んできました。試行錯誤し、色々と悩みながら20年以上続けてきましたが、この賞を頂いた事で、これからも継続していく励みになりました。有り難うございました。(𠮷村)

【講評】御所町は奈良盆地の南側にあり、近隣の吉野山の木材資源を用いて江戸や明治の時代に建てられた町屋が多く残っている。町の周辺には地域の山々の豊かな水資源を活用して、農業だけでなく酒造りや醤油造りなどの産業も発達した。しかし、近年は過疎化が進み空き家や耕作放棄地が急激に増加し、町の活気が失われつつある。この建築家は、2006年に御所町へ移住して地元の職人や製材所とチームを組み、タウンアーキテクトとして地元ならではのフットワークの軽さを生かし、地域の活性化に貢献してきたという。現地の活動では、2016年から11の建築のプロジェクトを進めている。建築の持続性を意識して、単純で明快な架構デザインにより力の流れや仕組みを可視化して、将来的なリノベーションやコンバージョン、解体時には部材を転用しやすくしている。それは、建築のエンジニアリングとデザインが小さな町づくりにも貢献できることを伝えてくれる。これらの架構デザインは、多くの構造設計者と協働することにより生み出されている。大仰なマニフェストを掲げることなく、小さな建築を数多くつくることは、それぞれの状況に流されているようにも見える。しかし、それはあいまいでありながら、いやあいまいだからこそ、活動を続けていく確かな強かさになっている。このような作品を優秀賞にできるのはAND賞だけだと、今でも思っている。(福島)


入賞

江坂ひととき ー広葉樹柱のやじろべえ構造 による、里山と都市の循環を生む 地域交流施設
応募代表者:蘆⽥暢⼈(蘆⽥暢⼈建築設計事務所)
共同応募者:⼭⽥憲明(⼭⽥憲明構造設計事務所)

【講評】住宅地と山間地域の循環と交流をテーマとする作品である。地域林業の関係者との対話により、この周辺の山林が元々広葉樹であったことから、一般的な針葉樹ではなく、建築の構造材として用いられることの少ない広葉樹を使うことにしたという。伐採後も変形が続く広葉樹の建築構造への活用には、大きな難問がいくつもある。しかし、熱化学還元処理という寸法を安定させる忘れられた技術を再発見し、大学との協働により処理後の挙動観測や強度の確認をすることにより、難問をていねいに調停している。そのような難問の調停は大変そうだが、AND賞としては最も興味深いテーマでもある。構造型式はT字型のフレームが一列に並び、方杖やロッドによる的確な補強がなされている。この不思議な空間が、建築家と構造家の密実な協働によりつくられたことがすばらしい。(福島)


地形を型に立ち上がる空間構造 ー大阪万博休憩所4
応募代表者:柳室純 (柳室純構造設計)
共同応募者:服部⼤祐、服部さおり(MIDW)、新森雄⼤(NiimoriJamison)、⽊村俊明(KKuma)

【講評】この作品は、大阪・関西万博2025の休憩所である。6か月という限定された仮設建築のため、組立と解体の負荷を低減するように、少ない手法で多様な空間をつくるアイデアが求められた。それは、廃土を活用して曲面にうねる床を固め、その床を型枠として鉄筋で屋根を作ることだという。こうすると床と屋根は同じ形になるが、屋根をクレーンで持ち上げて90度回転させることにより、床と屋根の間に明るい洞窟のような新鮮で心地よい空間が生まれている。この形態の白眉は、90度回転しているにも関わらず、床の凸部と屋根の凹部が一致することだ。その単純で難しいパズルのような幾何学的なアイデアも素晴らしい。まさに万博の休憩所のような、多くの人がリラックスする空間にふさわしいだろう。(福島)


万博サウナ「太陽のつぼみ」
応募代表者:小室舞(KOMPAS JAPAN)
共同応募者:喜多村淳、山口英治(太陽工業)、高木淳一朗(TSP太陽)

【講評】大阪・関西万博2025会場に設けられたサウナ施設で、ETFE膜を構造体とした初の試みである。ETFE膜は一般にはケーブルに膜を添わせる“テンション方式”か、支持フレームの間にレンズ状に空気で膨らませた膜のクッションを取り付ける“クッション方式”のいずれかであるが、ここではそのどちらでもない新たなシステムが考案されている。5角形に切断された膜をくの字型の3本の直線フレームに巻き付けてテトラ状の閉じた膜をつくり、それらを放射状に合掌させることで建築を形作っている。支持部材のアルミフレームは必要最小限であり、膜のみで空間が構成されているような不思議な印象を与えている。小建築であるが、軽量、可搬性、施工性という万博の理念に適合するとともに、膜構造の新たな可能性を拡げる作品である。(陶器)


森になる建築 〜半年の寿命から建築を考える〜
応募代表者:⼭崎篤史 (⽵中⼯務店)
共同応募者:濱⽥明俊、内⼭元希、杉本涼太朗、渋⾕朋典、⼤⽯幸奈、栗原嵩明、井⼾硲勇樹、稲葉澄、那良幸太郎(⽵中⼯務店)

【講評】建設会社の有志が提案して大阪・関西万博2025の会場内に実現させた小さな休憩施設。短い会期を終えるとゴミとなって捨てられるパビリオンのあり方に対する疑問から、土へと還る生分解性樹脂(酢酸セルロース)で仮設建築をつくることを考案。3Dプリントにより、接合部のない一体造形の構造体を現地出力で完成させた。外側には種子を漉き込んだ和紙を貼り、万博の期間中に植物が成長して外側を覆うという仕掛けも仕込んでいる。3Dプリントの技術を用いた制作物を、万博の会場内でいくつか見かけたが、その中でも最も野心的で、意義深い実験となっていたのがこれだったのではないか。会期後は兵庫県内に移設され、朽ちていく様子が検証されるという。(磯)


Grove Strolling Corridor
応募代表者:⾕⼝幸平(and to 建築設計事務所)
共同応募者:井上健一(井上健一構造設計事務所)

【講評】旧軽井沢は当初の高原的性格から、現在は鬱蒼とした木立の中に別荘建築が散在する穏やかな景観となっている。この計画は緑道沿いの大きな建築でありながら、一見すると周囲の木々と連続するようなランダムな丸太柱、ピロティと曲面のバルコニーと屋根が柔らかな影を、そして残された既存の木々をランダムに映し込むガラスが、通りから「引き」と「奥」と「連続性」そして「神秘性」を感じさせ、その環境と融合した景観と空間は旧軽井沢の風景を継承していると言える。ただ、丸太柱を繋ぐ桁を屋根裏に隠した鉄骨で逆桁とし木梁を吊り下げ、敢えて柱と梁が接しない構成のため、丸太柱が天井面に刺さっていることが気になるが、構造体を屋根裏に隠すことで天井面は重力を感じさせない江戸期の内部空間優先の構成と通じるものがあり、柔軟性のある意匠と構造の一つのあり方を示している。(堀越)


丸岡城観光情報センター「マチヨリ」
応募代表者:富沢真⼆郎(TIT)
共同応募者:池⽥晃⼀、⽥中⼤朗(TIT)、丸⼭晴之、野澤真佑(ヒャッカ)、佐藤淳(東京⼤学/佐藤淳構造設計事務所)、下⽥悠太(佐藤淳構造設計事務所)

【講評】福井県坂井市にある丸岡城の観光情報センターである。内堀跡の広場に位置し、天守を望む周囲の景観を遮らないように計画された建物は、「越前織の布のようにふわりとした」薄い懸垂曲線の大屋根が特徴的である。建物全長66m最大スパン27mの大きな空間は厚さ210㎜の極めて薄い屋根だけで覆われている。長手方向は直径100㎜の丸鋼を懸垂させて架け渡し、その上下に90×45㎜の杉材を45方向で上下部材の向きを反転させて挟み込むことで屋根面剛性を確保している。シンプルでさりげない構造で一見簡単に見えるが、丸鋼の剛性を考慮した非線形解析による形状決定と安全検証、100φ丸鋼の現場溶接、たわみを調整するディテールなど、そこには様々な工夫と高度な技術が濃縮されている。結果、風景に溶け込むような極めて薄く透明感のある建築を実現させている。(陶器)


プロセスから未来へつなげるデザイン(RITE 未来の森)
応募代表者:⼩⽷紀夫(乃村⼯藝社)
共同応募者:⼩佐野菜々(乃村⼯藝社)、萩⽣⽥秀之、今井琢也(KAP)

【講評】最初は、既視感のある折版構造に感じたが、「CLT折版構造ハングアップ工法」という「丁番金物で繋ぎ合わせた三角形CLTパネルを敷き詰め、特定箇所をクレーンで吊り上げることで自重により折り紙のように変形し、折版構造を形成させるコンセプチャルな工法」であることに驚く。半年の大阪・関西万博2025で使われたあと、廃棄物とならずに分解、移動して他の場所で再度組み立てできる。この構造形態はエアーボリュームの大きい大空間を大量の足場を使わずにクレーンで持ち上げ、足元を固定することで自立するという、デザイン性、機能性、施工性を併せ持っている。それはイサム・ノグチの、照明であり彫刻である「あかり」を思い出す。平面的に折り畳まれたものが、持ち上げることでみるみる美しい立体になるという、驚きと喜びを与える優れた計画である。(堀越)