【応募理由】応募の動機はシンプルで、施工を引き受けてくれたアトリエ海の佐々木さんと、構造を担当してくれた佐藤淳さんの2社に賞を贈るためだ。特に佐藤さんの方は、第2回AND賞の最優秀賞を競い合った仲であり、受賞の嬉しさよりも奪ってしまった後ろめたさが優っていた。翌週の打ち合わせで「敵や敵」と冗談で言われたのを覚えているが、なんやかんや悔しかったのだろうと思った。今回応募すると伝えた時も「絶対獲れん。2回もVUILDにとらせる訳ないやろ」と言われたが、無理と言われると奮起したくなる。有難いことに結果として最優秀賞を頂けることになったが、今回も嬉しさよりも安堵の方が大きかった。奪ったものをようやく返すことができたヨと。今現在も3社で石垣島のプロジェクトに取り組んでいる最中だが、御二方のお陰でなんとか前進できている。佐々木さん佐藤さんいつもありがとう!そしておめでとう!!(秋吉)
【講評】この施設はこれまでの大学という「教育」機関にある、用途が想定された機能を満たすための建築ではなく、創造性と協働を促すという機能を誘発する建築である。この講評ではあえて技術的な解決のプロセスを後追いでは解説はしないが、この建築がこれからの社会から求められる意義について述べる。
嘗てエドゥアルド・トロハは「構造の(誠実さ)は必ずしも作品の不可欠な属性ではない。古来の優れた作品を見ると、美しくあるためには強度上の要求に最も合致した形態に従わねばならない、とまでは考えていないことがわかる」すなわち「構造の美しさは合理性の近傍にある」(坪井善昭)と言える。
この建築は、必要なスパンを最適な構造でつくるという従来の合理主義では生まれない、「機能を誘発する機能」を持つ建築であると理解することが必要である。今、コンピューターの発達により、どのような形態も構造計算可能で最適解に辿りつける時代である。その結果、合理的ではあるが退屈な建築が大量に生まれ、あるいは恣意的で変わった形態が可能になった「なんでもあり」の時代と言われている。しかし、機能が形になるのではなく、形態が利用者の行動を誘発するというアフォーダンスを与えることは昔も今も変わらない建築の重要な側面である。
この「建築」はガウディが語っていた建築の原初(ORIGIN)の意味でのオリジナルな「構造としての空間」がある建築である。その意味でAND賞最優秀賞に相応しい建築である。(堀越)
【応募理由】山ひとつが校地という大自然の中に建つ高校体育館のプロジェクトである。学校の体育館ならではの特徴であるが、体育や部活での利用のほか、式典、さらには災害時の避難場所としての機能までも求められた。メインアリーナを構成するコンクリートダブルスキンは、上下左右に丸孔開口を有し、空気、熱、光、音、人がダブルスキン内部を巡りながら、アリーナの環境を制御する。空調、照明、スピーカーなどの必要な設備機能をアリーナ外周の回廊に集約することで、天井部は構造躯体表しのみの大空間とし、地震時の落下物の危険性が無い、安心・安全なアリーナとした。こうした総合技術により、コンクリート建築のさらなる可能性を清貧な美の中に追求する姿勢は、建築デザインと構造・環境設備などのエンジニアリングを融合させ、ANDの理念に連なると考え応募した。(黒川、飯島、平田)
【講評】矩形平面を採る体育館の全周を、コンクリートのダブルスキンが取り囲む。コンクリート壁は蓄熱体となり、その間は断熱層として効くだけでなく、空調や自然換気のチャンバーとしても機能する。同時にここは雨天時のランニングコースとしても使われる。壁には丸い穴が散りばめられ、そこを通して光、空気、音が出入りする。ガラスの開口はほとんどなく、コンクリート打ち放しの壁で内外をつくり上げた姿は、現代建築としては異様に映るだろう。けれどもさかのぼれば、コンクリート打ち放しを大胆に採り入れた、いわゆるブルータリズムの建築が世界を席巻した時代もあった。普及した背景には、高度な技術や特殊な材料に頼らなくても自由に建設がつくれるという、この工法の特性がある。1960年代をピークとしてブルータリズムは廃れ、その後はガラスやアルミなどを多用した、薄く、軽く、透明なデザインの建築に大勢は流れていく。そうした中で現れたこの建築は、コンクリート打ち放しという“伝統建築”の手法を使いながら、現代に求められる環境性能の達成を図り、乾燥収縮ひび割れといったコンクリートの問題の解決にもしっかりと取り組んでいる。コンクリート建築の復興を、高らかにうたった建物だ。(磯)
【応募理由】再開発が進む市街地において、環境と共に建築を考え、建築の境界のその先へ意識を向ける事で実際の空間以上の豊かさを得る事を試みました。深いアプローチを意図した配置と、内外が双方に奥行をつくる扇状の平面計画。構造も同様に、片流れの架構は消失点を街に向け、建築や庭、敷地を越えて意識を外部へ拡張します。
一点に集束する方形屋根の垂木は、無限遠のごとく遥か上空へと意識が向かいます。地域の伝統産業でもある大川組子から着想を得て、独自の美しい架構を実現しました。一つの思想が一貫性を持って空間に寄与し、このような試みが個人邸で実現できた事に意味があります。街ゆく人々が立ち止まり、架構を見上げる事を嬉しく思いました。
一般の方々が構造を美しいと感じ、共感してもらえる事は、AND賞の理念を広く知ってもらうため、意義があると感じ応募をさせて頂きました。(谷口)
【講評】敷地は再開発が進む市街地にあることから、周辺環境は谷底のようになってしまうため、南側に細長い庭をとって日照を確保し、アプローチに奥行を与えている。緑豊かな庭を通ってエントランスに入る配置計画が気持ちよさそうだ。断面計画は流動的に上下階がつながるように考えられていて、ダイニングの片流れ屋根とリビングの方形屋根の木架構が目に留まる。特に、地元産業の組子細工を参照したという方形屋根は、40本の垂木が扇状に頂部で一点に集まり、神聖ともいえる上昇感を獲得している。40本の垂木は2層構成になっていて、隣り合う部材が上下から挟みこまれることにより、一点に集まる接合部を特別な金物を用いないで実現している。桁との接合部も、枠なしでガラスが納まるように細心の注意が払われている。構造がそのまま意匠となるため即物的で美しく、つくる過程に逃げがないから背筋が正されるような緊張感が生まれている。さらに、組子細工という伝統工芸を現代の建築のデザインに参照することは、何かの理由で忘れ去られた宝物を取り戻す冒険のようだ。歴史から建築のデザインを問う視座は、新しさを求め続ける現代にこそ重要になるだろう。(福島)
【応募理由】敷地は埼玉県荒川流域。洪水時の避難ためのごく小さな増築である。施主は家庭の事情から敷地内に避難場所を求めたが、一般に洪水時の避難率は低く、また避難中や避難先での被災の可能性もあり、個人がいかに対策するかは普遍的かつ難しい課題である。本計画では危機への備えの対極にある「遊び」の空間と重ね合わせることで、建築によるアプローチを試みた。歴史的には「水屋・水塚」という素朴なアーキニアリング・デザインが生まれた土地であり、その流れに連なるものとしてラチス状の鋼製人工土地とその上の木造小屋という形式を生み出すことができた。市井の技術による自由度の高い形式は個にとどまらず、防災意識とともに街へと展開し、この街の風景となっていくかもしれない。(古市、佐藤)
【講評】荒川流域の市街地に建つ住宅の増築である。自治体が定めるハザードマップによれば、荒川が氾濫した場合この地域は3mを超える浸水の危険性がある。居住者には同居する高齢の家族がおり、万一の災害時に自宅敷地内に避難が出来る居場所が求められた。その要求に対し設計者たちは、地上4mに小さな木造の小屋を設けることを提案した。小屋は既存母屋2階部分から車椅子でも侵入できるように計画され、日常時は居住者の趣味のために使われている。小屋を支える人工大地は、小さな中庭の真ん中に鋼製ラチス柱を立て、そこから鋼製ラチスの片持ち梁を出すことで構成されている。
建物を支える鋼製ラチスフレームは、L形鋼と平鋼で構成した450mm角の断面をしている。最小限の接地面積としたことで、中庭スペースを大きく妨げることなく、また、浸水による水圧も最小限に抑えることが出来る。
何よりも、この特徴的なかたちが災害に対する安心感を与えている。最近大きな災害が続いているが、行政のみに頼るのではなく、この建物を見ることで周辺住民もこの地域の災害危険性を再認識し、市民レベルで防災意識がまちに展開してゆく可能性を感じる。(陶器)
【講評】関東周辺のロードサイドに建つ美容院である。一見すると、床と壁だけが離散配置された、板によるミニマルな立体構成が印象に残る。同時に、その内部空間は美容室の機能に配慮した多様な空間になっていて、その水平方向のつながりは外部まで拡がっていくようだ。壁はRC、床はCLTと要求される機能に応じて材料を使い分け、接合部はまるで接着剤でくっつけたみたいにディテールが消されている。それは、何も見えないようにするために、壁内の配筋まで慎重に設計しているからこそのミニマルさだ。設計者の意志は、ロードサイドのおだやかなシンボルとしてバランスよく現れている。このおだやかさとバランスのよさの先に、さらなる建築の強さを期待したい。(福島)
【講評】最初にこの計画を見たときにまず沖縄の家であることに驚かされた、沖縄の家は台風が多いため、堅牢なRCの箱型の建築を思い浮かべるからである。この計画はそれを「裏切る」挑戦的なデザインである。ただ沖縄の伝統的な民家の深い軒の屋根のような「守られた」居場所をこの家はRCの巨大なキャンチレバーで作り出していることに驚くが風除けの塀がないのは気になる。特徴的なのは、深く垂れ下がった軒の壁と全面的に開け放てる引き戸がより一層守られた居場所を内部に作り出していることである。気になったのは一本足の矩形の柱が、主な構造であるが、サブの柱が隠されていること、水回りの配置に工夫が欲しかったことである。沖縄の建築の新たな挑戦として入賞にふさわしい計画であるといえよう。(堀越)
【講評】この計画は寝殿造りの空間に人の居場所として作られた「設え」と同様のサブシステムの現代建築版である。見慣れたソファーではなく座っても大丈夫なものなのか、壊れないのかという疑心暗鬼が逆に人をアフォードする形態の力を現代の先端的技術で実現している。植物の生存のための構造的合理性から生まれる「複雑な形態」に近づけようとの試みは理解できるが、やはり植物の生き延びるためのデザインの持つ生命の力強さには及ばないことも事実である。しかし「何が可能か」という構造的挑戦から何かが生まれることもある。最終的なオーガニックなところまでは遠い道のりとは思うが、まずは最先端の技術を使った第一歩であり、今後、思わぬ方向への応用に向かう可能性も含めて重要な試みでありAND賞入賞にふさわしいデザインである。(堀越)
【講評】日本有数の大手建設会社による、仮設建築の提案だ。多くの仮設建築で採用されている鉄骨プレハブ造を木造に置き換えて、林業の活性化や建設時のエネルギー消費量やCO2排出量の削減を目指している。材料は一般に流通している木材とCLTであり、それらを束ねることを基本としている。接合部にスプリットリングとボルトを用いたドライジョイントを採用しているため、組立と解体が容易であり他機能や他敷地への転用をうながしてくれる。計画の初期から施工者も参加しており、ていねいな現実性に好感を持った。環境問題に対してもタイムリーな提案である。一方で、現代社会の上意下達的なテーマを小さな建築に詰め込んだようにも見える。わたしがひねくれているからだろうか。(福島)
【講評】都心部に位置する5階建ての社員寮である。すべての寮室に面して、風が抜ける通り土間を設けており、これにより暑い季節でも、引き戸を開け放てば空調を使わずに、快適な室内環境を得ることが可能になっている。同時に、それぞれの寮室から街が身近に感じられるしつらえともなっており、建物全体を見ると、積層する人工地盤の上に長屋が並んでいるような感じもある。これを実現したのが、RCのフラットスラブと、燃えしろ層と燃え止まり層を組み合わせたCLT耐力壁による構造。梁が不要でシンプルな躯体が、自由でおおらかな平面計画を可能にした。CLTという材料が都心居住のスタイルを変える、そんな可能性を開いた作品だ。(磯)
【講評】千葉県郊外の道の駅拡張に伴い、2つの施設を連結する大きな広場を囲うように設けられた屋外回遊路である。風景と調和させながら人々の活動を循環させるように、おおらかな自由な円環形をした回廊は、活動を妨げないように最小限の部材で構成されている。高さが2.7m~5.7mと傾いた円形屋根はφ114.3mmの鋼管柱で支持され、最小限のバックステイをとることで水平剛性を調節している。屋根はスパン1.2mの格子梁として、柱同士をつなぐ120mm角型鋼管の間を120mm角の木格子梁を架けて、2方向支持とするためレシプロカル構造とし、回廊両端の縁梁により全体の面剛性を確保している。木と鉄を適材適所に組み合わせて用いることにより、すべて120mm角で外形が統一されたシンプルな架構を合理的に実現している。特別な技術や特殊な部材を用いることなく、肩に力を入れず、さりげなくシャープな架構を実現していることに好感が持てる(陶器)