一般的な建築に用いられる構造材料は、強い順に鋼材、コンクリート、レンガ、木材が挙げられる。鋼材の降伏点は圧縮を受ける場合も引張を受ける場合も同じであり、設計で用いる範囲では応力歪みの関係も圧縮と引張の第3象限と第1象限でほぼ対称である。ただ、細長い鉄骨は座屈するので圧縮に弱い。コンクリートは圧縮に強いが、引張りに弱い、これを補うのが鉄筋である。圧縮に強いと言ってもコンクリートの圧縮強さは鋼材のおよそ1/10である。レンガはやはり圧縮に強いが、焼いて作っているので強いものではコンクリートの4倍ほどもある。ただし、目地モルタルの引張り強さは弱い。木材の強さは普通コンクリートの圧縮強さとほぼ同じであるが、長期的に大きな荷重を受けるとクリープが生じる。このほかに石垣を作るための石材があるが、この石垣構造は築石を順に積んであるだけなので、引張抵抗力が無いため、面外方向に大きく揺れると壊れてしまう。
このように、構造材料には優れた性質と欠点があり、これらの構造材料を用いて建造されたエジプト、ギリシャやローマの歴史的建築物、ドイツやフランスの大きな教会、トルコ、インドや東南アジアの宗教建築、日本の伝統建築、古いお城の聳り立つ石垣など、すべて素晴らしい。建築が大好きで、構造も大好きな我々は、材料の性質を理解して作られた大きな構造の仕組みと美しさに感動し、建造した人達の工夫や努力に強い敬意を感じる。
明治の初めに西洋建築を導入したときには、日本にもレンガ構造の工場や事務所ビルが作られた。これらは濃尾地震や関東大震災を受けてことごとく壊れてしまい、関東大震災以降、日本ではレンガ構造は禁止されている。ただ、鉄筋コンクリート構造にレンガを仕上げとして使うことは認められていて、今でも多くの建物に使われている。例えば、幅が1m、高さが3mほどの長方形の窓があるとき、窓の両側の壁だけでなく、窓の上の壁にもレンガが整然と貼り付けられることがある。仕上げとしては美しいかも知れないが、窓の上に水平方向に何枚もの煉瓦が並んでいる姿は、我々に感動を呼ばず、何かおかしく感じる。この部分をレンガを使って作るなら、ヨーロッパの建築のように窓の上にアーチの形状が必要である。窓の上のコンクリート面に水平に貼られたレンガ仕上げはFakeな構造である。
日本のどこに行っても、森の深さにおどかされる。我々が小学生の頃には、はげやまが多かったように思うが、政府も建築界も、この育った森から木材を取り出すことに取り組んでおり、木材を利用した素晴らしい建築が建てられている。接合部に鋼材を利用することもあり、引張り力を受け持つ鋼棒を用いることもある。これらの仕組みは下から見上げることができ、木材と鋼材の組み合わせの仕組みの力の流れを読み解きながら、設計した人、作った人達の工夫や苦労を思い起こすことができ、感動を呼ぶ。このように木構造に鋼材を利用するのは構造材料の適材適所の利用であり、進めるべきと思う。問題は、建築全体が木造で作られているように見えていて、裏方として鋼材が使われている場合である。この場合は木構造として力の流れを追うことができず、Fakeな構造と言え、感動は呼ばない。
2016年4月に起きた熊本地震の二度の揺れを受け、熊本城の石垣に多くの被害が発生した。両地震とも夜間の地震であったため、石垣の崩壊による怪我人はおらず、不幸中の幸いであった。その後、何度も訪れたが、熊本城の聳り立つような石垣は立派であり、多くの人々に感動を呼んでいる。江戸の初期に作られた熊本城は、多くの武士が守っていたし、高い石垣は国を守るために必要だったと思う。当時は、大地震を受けて崩落することも覚悟の上で立派な石垣を作ったのかも知れない。これから400年が過ぎ、熊本城は熊本の人たちだけでなく、日本人の自慢であり、国内外から多くの老若男女が訪れる。次の大地震で崩れることはあってはならない。
石垣は外から見える大きな築石、その中に栗石の層があり背面の雨水の流れをよくし、栗石の内側には地山があることが多い。栗石も築石も丁寧に積み上げて構築されるが、セメントやコンクリート、もちろん鉄筋も入っていない。安全を優先するなら、石垣の裏に鉄筋コンクリート構造のゴツゴツした壁を作り、築石と鉄筋コンクリート構造をアンカーで繋げば良い。これで、安全は確保できるかもしれないが、人々に感動を呼ぶことはない。
イタリアのフィレンチェのウフィッツ美術館の回廊の外側に美しい組積造の架構がある。この架構と内側の壁構造は鋼棒で繋がれており、架構の面外変形を拘束している。同じような方法はスペインのアルハンブラ宮殿のアーチの回廊にもある。トルコやイタリアの組積造の最近の耐震改修でも、鋼棒を挿入することが行われている。これらの鋼棒は外から見えるように施工されていて、一般の人でも、専門家でも、これなら安全だろうとホッとする。これらはFakeな構造ではない。
熊本城の石垣でも、すでに公開されている小天守の入り口の部分の石垣には鋼棒を差し込み、内部の栗石の間に敷かれたジオテキスタイルの網とを繋いである。石垣の表面にはメッシュがあり、鋼棒の外側と繋いであり、石垣の面外変形を拘束している。これらは注意すれば見ることができ、仕組みが分かるからホッとする。立派な石垣を鉄筋コンクリートで固めることには躊躇するが、この方法なら許せるように思う。これはFakeな構造とは言われないと思う。
(AW)
日時:2021年11月9日(火)18:00~20:00
モデレーター:金田勝徳
パネリスト:西山功(ベターリビング)、金箱温春(金箱構造設計事務所)、奥野親正(久米設計)、大畑勝人(竹中工務店)
会場:オンライン(Zoom)、Youtubeライブ配信(アーカイブあり)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第39回AFフォーラム参加希望」とご明記ください。
当フォーラムでは「建築構造設計に関わる基・規準の行方」をテーマとして、これまでに2回のフォーラムを開催しました。
1回目(2019.2.13)のフォーラムでは、神田順・五條渉・土屋博訓先生をパネリストにお迎えして現行の法基準に含まれている問題点を中心に、以下の様な論議が展開されました。
・2000年前後の法改正で限界耐力計算、エネルギー法などが相次いで告示化され、性能規定型設計法への期待感があったが、逆に細かな基準が追加され、細かすぎて難解になってしまった。
・その建築基準法を、基本理念をしっかり謳う建築基本法に換えるべきである。
・建築の安全を社会全体のバランスをとの関係をとって考えれば、基準などは、もっと簡略化できる。
2回目(2019.11.14)のフォーラムでは、パネリストに大越俊男、五條渉、常木康弘先生をお迎えして、構造設計が仕様規定型から性能規定型へ移行するための課題を中心に、以下の様な論議が展開されました。
・建築主が望む性能を実現するための性能設計に、高い信頼性をもたせる仕組みが必要であると共に、その信頼性をどのように保証するのかが課題となる。
・設計するないしは設計した建築物の性能確認が容易にできる手法の確立が必要である。
・どの程度の性能にすると、壊れる確率がどのくらいになるかという、確率的な数値で論じなければ説明にならない。
今年は1981年「新耐震法」が施行されて40年になります。その後、微細な技術基準が積み重ねられた一方で、この法の根幹にかかわるような改正がないまま、今日に至っています。これまで2回のフォーラムの中でも、現行法における様々な問題点が論議されました。これらを踏まえて第39回フォーラムは、当シリーズの最終回として、標記のテーマについて皆様と一緒に議論をしたいと考えます。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
日時:2021年11月13日(土)14:00〜17:00
会場:オンライン(Zoom)
松村淳著『建築家として生きるー職業としての建築の社会学』(晃洋書房、2021)は、「日本の建築家はいかにつくられ、継承されてきたのか。現場の建築家たちはこの職業とどう向き合い、実践してきたのか。建築家という存在そのものがゆらぎはじめている現代で、建築家として働く市井の人たちは、どのように考え、働き、生きているのか。さまざまな建築家の姿を、背景にある時代性とともに考察し、その輪郭を描き出す。」と帯にいう。かつて建築家を目指し、二級建築士の資格も得た著者が、建築家とは何者かを問う。一級建築士を持ち、建設会社で働いている人は建築家なのか?、建築のデザインを仕事にしていても建築士の資格を持っていなければ建築家ではないのか?、建築家になれなかったのは才能か、学歴か、努力の足りなさか?、どのようにしたら建築家になれるのか?・・・建築家として働く市井の人たちとは?
職業としての建築家についての社会学的分析をもとにした学位論文を「建築家として生きる」という一書として世に問うた松村淳さんに、これからの建築家の生きる道を問う。
1.『建築家として生きるー職業としての建築家の社会学』について 松村淳
2.討論 コメンテーター:難波和彦(界工作舎、東京大学名誉教授)、小笠原正豊(小笠原正豊建築設計事務所、東京電機大学)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
01 「PERSIMMON HILLS architects の活動と実践」柿木佑介+廣岡周平
02 「onishimaki + hyakudayuki / o+h 近作をめぐって」大西麻貴+百田有希