毎年8月は、日本社会にいつもの月と違う空気が流れるように感じている。今年の8月も、広島・長崎原爆記念日から終戦記念日へと記念日が続き、戦禍の記憶の風化をくい止めるようにして、戦争にまつわる新たな事実が報道された。記憶の伝承が社会の今を見据え、未来を想像するうえでどれだけ重要なことかが、改めて認識される。他方、観客を関係者のみとしながらも熱戦が続いた高校野球が、いつもの通り連日メディアを賑わせた。毎年繰り返されるこれらのことが、8月を特別な月に感じさせているように思われる。
ところが今年の8月は、例年よりさらに特別な月のように感じられる。その要因の一つが、2020東京オリンピックであった。開幕間際まで開催が危ぶまれ、結局、無観客という異様な形態で開催されたが、ふたを開けてみれば、コロナ禍に喘ぐ日本社会がそれなりに盛り上がり、ホッとした気分が広がった。
このオリンピックでとりわけ印象的だったのが、新しく競技種目に加わったスケートボード、サーフィンだった。極限までに鍛えた上げた体で技を競う競技を見慣れた眼には、若者達がのびのびと演技をし、世界の仲間と交流する姿が新鮮に見えた。これらの新種目は街や公園で、あるいは海で楽しまれていた若者の文化が、突然オリンピックの正式種目になったかのように見える。次回のパリ大会では、ブレークダンスも加わるという。こうしたことは若い世代のオリンピック離れに悩むIOCの施策と聞く。しかし、これらのスポーツが、オリンピック種目になることで、余計な規律が求められ窮屈になるとしたら、なまじ正式種目にならない方が良いのでは、との想いもよぎる。
オリンピック開催中の新聞の同じ一面が、日本人選手の過去最多のメダル獲得数に沸くニュースと、過去最多のコロナ感染者数に沈むニュースで占められる日が何日も続いた。政府や都政のトップは、オリンピック開催とコロナ感染拡大に関連性はないと言い張る。しかし、オリンピック開催中に、コロナ感染者数が連日過去最多であり続けたことに間違いはない。新聞には「感染制御不能」、「医療体制は深刻な機能不全」、「自分の身は自分で守る行動が必要」などの大見出しが並び、都庁からは「自宅療養者向けハンドブック」が発行された。
これ等の大ニュースに紛れて見過ごしてしまいそうだったニュースに、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書」がある。8月9日に公表された報告書は、「人間の活動が、地球の温暖化をきたしていることに疑いの余地はない」として、その原因である温室効果ガスの大半は、「人間が大気中に放出し続けているCO2に他ならない」と断言している。米国の前大統領がそうであったように、気候変動と地球温暖化との関係を疑問視し、人間の影響を否定する懐疑論もある。
しかしこの報告書は、こうした見方を退け、熱波、豪雨、干ばつなどの気候危機への対応は、時間切れの瀬戸際にあると警告する。私たちが身を置く建築由来のCO2が、その年間排出総量の1/3を占めると聞けば、このニュースが、決して看過できないニュースであることは言うまでもない。それを裏付けるようにして、日本国内も熱波のような高温が続き、その後の数日間は「記録的な豪雨」にさらされた。この時、気象庁は「最大級の警戒が必要」であり、「少しでも安全で命が助かる可能性がある行動を」との警報を繰り返した。 新型コロナに対しても自然災害に対しても、見渡せば最早「共助」、「公助」は当てにならず、頼りは「自助」だけかとの不安感が胸に迫る。
一方、海外からは、8月15日のアフガニスタン政府崩壊直後に、国外に逃れようと空港に殺到した群衆に人々が踏みつぶされ、離陸する飛行機にしがみついた少年が、機体から振り落とされる映像がテレビに映し出された。同様に軍事政権の支配下にあるミャンマーの軍隊が、自国民に向けて容赦なく発砲する映像も放映された。狙われた命を守る手段が、「自助」努力だけになった人々の恐怖と苦難は、想像を絶する。
こうした言葉や映像が、「平和の祭典」であるはずのオリンピック・パラリンピックの話題と同時に、マス・メディアからあふれ出た今年の8月は、どのように記憶され、伝承されるのだろうか。
(K.K)
日時:2021年09月18日(土)14:00~16:00
会場:オンライン形式 zoom(先着90名)、Youtubeライブ配信
トーク:斎藤公男(A-Forum)
▹ はじめに
▹ 空間と構造
▹ 時空を超えて―魅せられし構造空間の世界
▹ “構造の世界”を拓いた人々
▹ 日本の構造デザインの曙
▹ 1960年頃
〈フリートーク〉
申込み等詳細はこちら
日時:2021年10月9日(土)14:00〜17:00
会場:オンライン(Zoom)
詳細決まり次第、こちらのページにてお知らせいたします。
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第23回AB研究会参加希望」とご明記ください。
日時:2021年11月9日(火)18:00~20:00
モデレーター:金田勝徳
パネリスト:金箱温春(金箱構造設計事務所)、奥野親正(久米設計)(予定)
会場:オンライン(Zoom)、Youtubeライブ配信(アーカイブあり)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第39回AFフォーラム参加希望」とご明記ください。
当フォーラムでは「建築構造設計に関わる基・規準の行方」をテーマとして、これまでに2回のフォーラムを開催しました。
1回目(2019.2.13)のフォーラムでは、神田順・五條渉・土屋博訓先生をパネリストにお迎えして現行の法基準に含まれている問題点を中心に、以下の様な論議が展開されました。
・2000年前後の法改正で限界耐力計算、エネルギー法などが相次いで告示化され、性能規定型設計法への期待感があったが、逆に細かな基準が追加され、細かすぎて難解になってしまった。
・その建築基準法を、基本理念をしっかり謳う建築基本法に換えるべきである。
・建築の安全を社会全体のバランスをとの関係をとって考えれば、基準などは、もっと簡略化できる。
2回目(2019.11.14)のフォーラムでは、パネリストに大越俊男、五條渉、常木康弘先生をお迎えして、構造設計が仕様規定型から性能規定型へ移行するための課題を中心に、以下の様な論議が展開されました。
・建築主が望む性能を実現するための性能設計に、高い信頼性をもたせる仕組みが必要であると共に、その信頼性をどのように保証するのかが課題となる。
・設計するないしは設計した建築物の性能確認が容易にできる手法の確立が必要である。
・どの程度の性能にすると、壊れる確率がどのくらいになるかという、確率的な数値で論じなければ説明にならない。
今年は1981年「新耐震法」が施行されて40年になります。その後、微細な技術基準が積み重ねられた一方で、この法の根幹にかかわるような改正がないまま、今日に至っています。これまで2回のフォーラムの中でも、現行法における様々な問題点が論議されました。これらを踏まえて第39回フォーラムは、当シリーズの最終回として、標記のテーマについて皆様と一緒に議論をしたいと考えます。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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日時:2021年9月4日(土)14:00~16:00
モデレーター:斎藤公男
パネリスト:松村秀一、松尾智恵、中田捷夫、金箱温春、(萩生田秀之)、森部康司