A-Forum e-mail magazine no.56(09-11-2018)

高層建築を可能とした構造技術の歩み

鉄鋼技術2018年9月号/創刊30周年記念特集:構造技術が拓いた建築と空間 より

 

空間構造が無柱空間の集いの空間を主たる対象としたいわば横に広がる大スパン構造であるのに対して、高層建築あるいは重層空間をつくるものはタテに伸びる積層構造であり、主に生活空間や就労空間を対象としている。前者が古代より数千年の歴史があるに対して後者は近年わずか150年程の歩みである。

高層建築を支える技術―鉄・ガラス・エレベーターは19世紀半ば以降、欧米各国で開催された万国博覧会、たとえばロンドン万博(1851)やパリ万博(1889)などで象徴的に示された。動力を使った最初のエレベーターはイギリスで1935年に誕生し、鋼鉄の生産はアメリカでベッセマー製鋼法(1855年に特許取得)により可能となった。

1880年代にシカゴで誕生し、その後ニューヨークで発展を遂げていく摩天楼(Sky Scraper)の祖はL.サリヴァンによるセントルイスのウェインライト・ビル(1981)。わずか10階建てではあるが垂直性を強調したファサード・デザインは摩天楼のマスター・キーとも呼ばれている。そしてウールワース・ビル(1913)で摩天楼は一つの頂点に達する。241mの高さはその後16年間、世界一の座を占めることになる。

1930年代になると鉄骨ラーメンと組積造の外壁の組合せで剛性を高めたクライスラー・ビル(1930、319m)や工期わずか15か月というエンパイア・ステート・ビル(1931、102階、381m)に代表される摩天楼がマンハッタンを埋めつくし始める。一方、シカゴではミースによるレイクショア・ビル(1950、26階)がカーテンウォールによる新しい外皮のデザインをまとって誕生した。しかし格子状骨組のみでは耐風剛性を得ることは困難であり階高の増加に対する床面積当りの鋼材料の増加は二次曲線的に増加する。この“高さのプレミアム”をなくすことが技術者の夢であり、挑戦的課題であった。こうした難題を克服し、超高層建築への新しい可能性を拓いたのはSOMのF.カーン。「チューブ構造」の新しい概念がかつてない2つの超高層をシカゴの地に誕生させた。すなわち大胆な外壁ブレース架構(カラム・ダイヤゴナル・チューブ)によるジョン・ハンコック・ビル(1968、102階)、バンドル・チューブによるシアーズ・タワー(1978、110階、442m)である。

左:ジョンハンコック・センター(1968、SOM/カーン) 右:シアーズ・タワー(1974、SOM)

M.ヤマサキとL.ロバートソンの協同によるニューヨークのツインタワー、ワールド・トレード・センター(1972、110階、400m)ではチューブ構造特有のシャーラグを克服するため、密度を高めた柱と梁を剛接することによるフィーレンデル効果が期待された。香港の中国銀行(1990)、上海の環球金融中心(森ビル/2008、101階、492m)にもロバートソンの手腕が発揮されている。

左から:NYのワールドトレードセンター(1972、M.ヤマサキ)、上海の環球金融中心(2008、森ビル)、香港の中国銀行(1990、L.ロバートソン)

わが国の超高層ビル第一号、霞が関ビル(36階、147m)が完成したのは1968年であった。これを手がけた構造家 武藤清は、新宿三井ビル、サンシャイン60に次いで丹下健三による東京都新庁舎(1990、48階)を担当。大胆かつ明快なスーパーストラクチャーの提案によって108m×19mの大空間を内蔵した超高層建築を実現させた。

左:霞が関ビル(1968、武藤清) 右:東京都新庁舎(1990、丹下健三/武藤清)

21世紀に入った今日、超高層建築は経済発展のシンボルであると同時に、国家間競争、都市間競争、さらには都市内の企業競争の手段としても利用されようとしている。“高さ競争”の波は高まる一方である。1990年代以降、超高層ビルの中心はアメリカからアジアや中東へ移った。マレーシアのペトロナス・ツイン・タワー(1998、88階、452m)、台北101(2004、89階、508m)を超えて上海には上海中心(上海タワー/2015、128階、632m)が建設された。注目すべきは台北101に投入させた新技術。その主なものとしてまず台風や地震による揺れに対する振子型制振装置(Tuned Mass Damper : TMD)として重さ660tの鉄球が採用された。次に当時世界一の速度を誇った高速エレベーターは時速約60kmで、89階の展望フロアまで37秒で到達できる。ここには世界初の気圧制御装置が導入され、急激な気圧変動を抑えることに成功している。

2000年代に入ると日本でも超高層ビルの建設が活発になっていく。しかし2014年末現在において、日本の高さ150m以上の建築物の数は190棟で、ヨーロッパ全体(146棟)と比べれば多いものの、中国(1105棟)には及ばない(大澤昭彦「高層建築物の世界史」による)。高さ比べでも300m以上が29棟ある中国に対して、にほんではあべのハルカス(2014、300m)のみである。中東における超高層ビルラッシュを支えたのは2000年代の石油価格の高騰であるといわれる。世界一の高さを大幅に更新したドバイのブルージュ・ハリファ(2010、160階、624m)が実現し、サウジアラビアの商業都市ジェッダではついに高さ1000m(1キロ)を超える超高層ビルが計画されているという。人間と社会の「欲望と抑制」はどのような未来を描こうとしているのだろうか。

左から:モード学園スパイラルタワーズ(2008)、モード学園コクーンタワー(2008)、代々木ゼミナール・OBELISK(2008)、ドバイのブルジュ・ハリファ(2010)

建築形態はともかく免震および制震の技術の発達に支えられながら構造設計の可能性と建物の安全性の向上は加速されていくにちがいない。

(MS)


第13回 AB(アーキテクト/ビルダー「建築の設計と生産」)研究会  

建築設計の業務と職能はいかに変わりつつあるか-英米の動きに着目して-

 

新国立競技場の設計・発注問題から出発して以来、A/B研究会は発注者・設計者・施工者を含む広い社会的基盤の中で、揺らぎつつある設計と設計者の位置づけを考えてきた。プロジェクトを巡る情勢がリスク・オンに傾斜する中、一方的に思考と判断を停止する発注者、増大するリスクに及び腰の受注者、自己実現の機会と食い扶持の減少におののく設計者という構図が、端的に言って、現在の状況である。これに対して、A/B研究会は、発注者支援の必要性を唱え、公共コンペを巡る諸問題等を考える場を提供してきた。

しかし、このような問題を抱えているのは一人日本だけではない。複雑化するプロジェクト環境とイニシアティブ、建築設計の領域を超えて高度化する技術、設計の根幹に位置付けられる情報の生成と伝達にかかわるICT技術の登場と浸透といったインパクトは、グローバルなスケールで建築設計の業務と職能に大きな変貌を迫らざるを得ない。欧米においては、様々なかたちのデザインビルド、基本設計と実施設計の分離、二段階方式による設計者選定、BIMが要請する〈設計チーム〉内部での協調的設計といったことは、設計を含む受発注者、建築生産社会の成員全体に受容されており、むしろ先進的な事例として位置づけられていることも多い。

A/B研究会は、今回、英米の建築業界が進めてきた変革に注目する。発注者サイドに立つもう一人の人格であるCMをいち早く導入し、BIMを実質的に主導してきたアメリカ。国策としての建築生産活動の合理化を主体的に引き取り、様々なプロジェクト調達方式の導入やBIMに対応してPlan of Work 2013等の変革を打ち出してきた英国のRIBA。 これらが受け止めたインパクトと将来展望、具体的な対応の中味をつぶさに知ることを通じて、私たちの考慮すべきこと、立つべき位置を考える参考にしたいと考える。この先分岐してゆくであろう様々な問題を考えるための再出発点として、この研究会を位置づけたい。

コーディネーター:布野修司+安藤正雄+斎藤公男
パネリスト:小笠原正豊+小見山陽介
(a) 米国(AIA)について(仮):小笠原正豊(東京電機大学)
(b) 英国(RIBA)について(仮):小見山陽介(京都大学)
コメンテーター:平野吉信(広島大学名誉教授)

日時:2018年12月8日(土)15:00〜18:30
場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第13回AB研究会参加希望」とご明記ください。


アーキニアリング・デザイン展2018 「テンション構造はいま―。」

テンション材は、引張力のみを負担することで部材断面を省力化でき、軽快な建築表現を可能とします。 今回は、大空間を合理的に構築可能なケーブル材によるテンション構造に着目し、最新のプロジェクト等による 模型とパネルの展示を通して、現在のテンション構造ならではの建築表現や魅力を改めて考えたいと思います。

帝京大学・SORATIO SQUARE,石神井体育館、気仙沼市魚市場、有明体操競技場、近年のテンション構造、ケーブル材料について

開催日:2018/11/09~16
会 場:建築博物館ギャラリー
主 催 : 日本建築学会

構造デザインフォーラム 2018(第24回) 「テンション構造の魅力を再考する」

今年度のSDFは、「テンション構造の魅力を再考する」と題して催されます。テンション材は、引張力のみ負担することで部材断面を省力化でき、ハイブリッド化することで軽快な建築表現を可能にします。2002年の日韓共催のワールドカップの際には、テンション材を用いたスタジアムが多数計画されていたが、2020年の東京オリンピック関連施設での使用は、ほとんどない状況です。合理的に大空間を構築可能なテンション構造の魅力を再考するために、主にケーブル材によるテンション構造に着目して、直近のプロジェクトを通して建築表現、構造デザイン等についてプレゼンテーションしていただきます。講演後、テンション構造の将来や、現状の技術的課題について討論します。

開催日:11月10 日(土)15:00~17:30(開場14:30)
会 場:建築会館会議室301,302会議室
主 催 : 日本建築学会東支部構造専門研究委員会
パネリスト: 益子 拡(ユニバァサル設計)、 山我信秀(NTTファシリティーズ)、 田中初太郎(清水建設)、 吉原 正(三菱地所設計)


モケイで学ぼう!ケンチクのしくみー 小・中学生限定模型制作ワークショップ

会 場:T-Art Hall(東京都品川区東品川2-6-10)
主 催:一般社団法人日本建築文化保存協会
料 金:500円
持ち物:なし 定 員:各回40名(事前申し込み制・先着順)
ダウンロード用PDF
お申込み:https://archi-depot18121516.peatix.com/
*A-Forumでは申し込み受け付けを行っておりません。

2018年12月15日(土)、16日(日)
①12月15日(土) 10時~12時「イカロスの聖火台」原田真宏(MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO、芝浦工業大学教授)
②12月15日(土) 14時~16時「世界中の家を集めて40人の選手村をつくろう!」西田司(オンデザイン)
③12月16日(日) 10時~12時 ④14時~16時「わたしのドーム、みんなのドームをつくろう!」斎藤公男(A-Forum、日本大学名誉教授)with山田誠一郎(dos)、小堀哲夫(小堀哲夫建築設計事務所)


● 神田順 日本風工学会名誉会員に推挙されて 日本風工学会誌・日本風工学会論文集 2018.10 をUPしました
● 和田章 防災学術連携体の発足と活動 日本風工学会誌・日本風工学会論文集 2018.10 をUPしました