何を対象に議論するときでも、小さな部分を丁寧に考察し、これを広げて組み合わせ積み重ねて、全体を把握する方法と、全体から考察し、順に細かく分解し部分に至る方法の二つがある。
建築は人間が暮らす処であり、このために必要な広さと階高を持つ空間が必要であり、始めにこれらを囲む床・壁・柱・窓を考え、これを積み重ねて建物全体を考えていく前者の方法が多く使われる。特に建築学科で構造力学を学んだ我々は、梁の性質、柱の性質、次に骨組の順で学んできたから、超高層建築を設計する場合にも前者の方法を使うことになりやすい。一方、土木工学の中で構造力学を学ぶ欧米の構造技術者は、橋梁と超高層建築を同じように見ることができ、全体の把握から部分を考察する後者の方法で進めるように思う。
Leslie Robertsonの長年の活躍を見ていて、以上の印象を強く感じる。香港に、建築家I. M. Peiとともに設計した中国銀行は多くの人が知っていると思うが、I. M. Peiのニューヨークの高層ビルの事務所で初めの打ち合わせの時、イースト・リバーに架かるQueensboro Bridgを見て、あの橋を垂直に立てたような構造にしようと決めたとENR (Engineering News Record) のインタビューに載っていた。
ニューヨークの世界貿易センタービルの後だと思うが、ピッツバーグのUS-SteelをRobertsonが設計した。1990年に日本建築学会のツアーでカーネギーメロン大学に行く時に見学したが、とても綺麗な建築である。鋼材に耐火被覆するのでなくボックス断面柱の中に水を通す、最上層にハットトラスを設けるなど、若かったロバートソンは日本での講演で、この建物のことをよく話していた。
3層を一つの単位にした骨組に驚いた。この大型骨組の層にサブ的な2階建てが載っている。このとき、普通の場合、人間のスケールで建築骨組は作られるが、この日本の方法が、鋼構造骨組にとって最も合理的と言えるかと、自問自答した。
日建設計に勤めていた若い頃、当時は新日本製鐵にいた岩田衛(神奈川大学名誉教授)とシステムトラスの開発をしたことがあり、幾つかのプロジェクトに適用した。そのとき、立体トラスは極力細かいグリッドでキラキラと構成するのが綺麗だが、座屈の問題がないならグリッドは大きくした方が、全体として安くできると言ってた。鋼構造は何トンの鉄を使ったかで建設費を計算するが、単純な鋼管部分の1トンと、接合部のような複雑な部分の1トンでは製造単価が違うということである。同じ空間を覆おうとしたら、グリッドを荒くして極力、接合部の数を減らすことでコストダウンができるのは当然である。
ピッツバーグのUS-Steel、シカゴのジョンハンコック、香港の中国銀行、ロスアンゼルスに竣工したばかりの高層ホテル(Wilshire Grand Tower)、サンフランシスコに建設中の高級高層住宅(181 Fremont Tower)、北京にArupが設計したCCTVなどを見て、我々が日本で進めてきた「骨組を人間のスケールで作ること、そして耐震設計と耐風設計のために、各種の制振装置を各階のグリッドの中に組み込んでいく方法」への反省がある。
ピッツバーグのUS Steel(AW)
コーディネーター:和田 章
パネリスト:宇野求(東京理科大学教授)、布野修司(日本大学 特任教授)
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宇野求による主題解説
和田章による趣旨説明 布野修司による主題解説 全体討論