A-Forum e-mail magazine no.127 (17-12-2024)

構造物の設計と塑性変形

Ductility saves human lives but kills the lives of structures.

和田章

許容応力度設計は、構造材料の強さを安全率で除して許容応力度(日本では戦後に長期と短期を設けた)を決めておき、実際に作用するであろう設計外力を求め、この外力を受ける構造物の各所に生じる応力度が許容応力度を超えていないことを確認する方法である。実際の設計の場面では、応力度ではなく軸力・曲げモーメント・せん断力などの部材力を用いて安全性の確認が行われる。
終局強度設計は、実際に作用するであろう各種の荷重・外力をその種類に応じて決められた係数を乗じて組み合わせた外力(係数倍荷重、factored load)を求めておき、設計している骨組の終局強度がこの外力より大きいことを確認する方法である。ここで忘れてはならないことは、荷重係数を乗じる前の外力(上記の許容応力度設計用の設計外力)の時点で、構造物には大きな塑性変形は生じていないことである。
イギリスのケンブリッジ大学におられ1930年代に塑性設計法を提案されたJohn Baker 教授(1901-1985)が、針金を用いて弾性変形と塑性変形、そしてyield hingeを説明している貴重な動画をここに転載する。許容応力度設計の行き詰まりを指摘し、構造物の塑性変形の重要性を世界で初めて明らかにした素晴らしい先生である。


日本の耐震設計の1981年以降の一次設計には前者の許容応力度設計が用いられ、二次設計には後者の終局強度設計が用いられてる。二次設計のときは1G以上の応答を考え、構造物の変形能力に応じてDs(0.25から0.55まで)を乗じて求めた必要保有水平耐力に比べて、構造物の保有水平耐力の方が大きいことを確認する方法である。これは先に述べた終局強度設計と似ているが、地震時の応答層剪断力係数が0.20を超えると構造部材は塑性化を始め、大地震時には弾性変形の何倍もの塑性変形が生じる。イギリスで考えられた終局強度設計の思想とは根本的に異なる。
大地震時に骨組の塑性変形能力に期待して倒壊を防ごうとする耐震設計を、粘り強い耐震設計と呼び、建物内部にいる人々の命を守る絶大な効果がある。日本や世界で大きな地震が起こるたびに建物が倒壊し、多くの人命を失うのは、建物の強度不足だけではなく、粘りの無さが大きな原因である。これを克服するために構造物に粘りを持たせることが必要である。しかし、構造物の粘りに過剰に期待して十分な強度を持たせていない建物は、中地震さらに大きな地震を受けると、構造物にひび割れが生じ、塑性変形が生じ、残留変形が残り、傾いたままになり、使えなくなる可能性が高い。そして日本では最後に公費によって解体されてしまう。
研究者は塑性変形と塑性変形能力が重要だと言い、設計者も大地震時に塑性変形を起こすことは良いことだと考えている。しかし、住人にとっては「塑性変形は大きな被害」であり、多くのひび割れが生じ傾いた集合住宅に戻りたと思う住人はいない。発注者、建築家、構造設計者は建築の初期建設費の多寡を考察しながら、耐震設計を進める。そして粘りに期待した強度の低い設計になりやすい。しかし、地震後に建物が使えなくなり取り壊され、再建しなければならなくなることに想いが及んでいない。大きな都市の中で使えなくなる建築が多くなると都市の命が失われてしまうことも考えられていない。
ニュージーランドのクライストチャーチにはCanterbury大学があり、「柱を強く・梁を弱く作り、梁の曲げ降伏による靱性に期待した耐震設計」が研究され、世界に靱性構造を広めた。この考え方で建てられてきたクライストチャーチの建物は、2011年2月の地震を受けてほとんどの建物は人命を守ったが、地図に赤マークで示すように2/3の建物が取り壊されてしまった。都市の再建には免震構造・制振構造が多用されている

20年近く前に坂田弘安(東京科学大学教授)と一緒に行ったRC構造の柱梁接合部の実験のコマドリ動画を示す。日々の構造設計が骨組にこのようなひび割れを起こさせるために行われていることは嘆かわしい。
大地震のあとに建築は地震前と同じ形に戻り、続けて使えるようにすべきである。免震構造および制振構造を用いれば、これが可能である。ここまでは、地震時の構造物の損傷の有無について耐震構造、免震構造、制振構造の違いを述べてきたが、地震時の内部の加速度の低減効果は免震構造が圧倒的に優れており、制振構造にも揺れの低減効果がある。建築は人間活動のための空間を構成するだけではなく、地震時の揺れを抑えて人々の安全な生活・活動を守る空間でなければならない。
免震構造、制振構造の初期建設費は上手な設計を行えば耐震構造に比べて高くない。大地震が起きても、地震前と同じように利用できる。近い将来に大地震が起きると言われている。現在、設計・施工している建築が大地震を受ける可能性は高い。靱性構造は古く、免震構造と制振構造の時代が既に来ている。


防災学術連携体シンポジウム

阪神・淡路大震災30年、社会と科学の新たな関係

日時:2025年1月7日(火)10時~18時
場所:Zoom Webinar、YouTube を用いたオンライン配信
主催:一般社団法人防災学術連携体 阪神・淡路大震災 30 年シンポジウム実行委員会
Youtube:https://youtu.be/HdatklKQ9ks

1995 年 1 月 17 日に発生した兵庫県南部地震(マグニチュード 7.3) は、神戸市を中心とした阪神地域および淡路島北部に甚大な被害をもたらした(阪神・淡路大震災)。初めて震度7が記録され、建築物や高速道路、鉄道、港湾、ライフラインが大きな被害を受けた。特に神戸市長田区では、密集した木造住宅の倒壊と火災の被害が激しかった。犠牲者・行方不明者は 6,437 人、避難生活者は 31.7 万人に上った。 阪神・淡路大災害は、当時およびその後の日本の社会と学術界に非常に大きな影響を与えた。2025年はこの大震災から30年にあたる。これを機に、当時何が起こったのか、何が課題だったのか、その後に法律・制度や市民の意識はどう変わったのか、防災・減災の科学技術・学術はどのように変貌を遂げたかを振り返りたい。そして、今、社会と科学の新たな関係を築くためには何が課題なのかを改めて考えたい。
シンポジウムは、基調講演、3つの分野別セッションと、学協会発表のセッションで構成し、多様な分野の研究者の発表を通じ、学協会の枠を超え議論を深める。
セッション1 建物・インフラ等の被害と対策
セッション2 救援・医療・避難、応急対応の変化と課題
セッション3 法律・制度・市民の意識の変化と課題
セッション4 学協会発表 阪神淡路大震災 30 年に寄せて
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IIABSE Award への応募のお願い

国際構造工学会(IABSE)では、新規性を有するあるいは顕著な社会的貢献をなしえた構造物やプロジェクトを表彰する制度があります。この制度は2022 年度より 11 種類のカテゴリーに拡充され、受賞の機会が大幅に増しています。これまで欧州各国および中国は熱心に参加していますが、我が国からの応募はほとんどありません。従来の新規の大規模構造物に偏りがちな表彰ではなく、小規模でも新規性のあるもの、社会的・国際的貢献度の高いものが望まれています。奮って応募いただきたくお願い申し上げます。
彰制度の概要・応募要領
IABSE Awards 2025 詳細ページ前年度受賞作品

アーキニアリング・デザイン展「『建築とエンジニアリングの融合』を再考する2024」

2024/11/06~13、建築博物館ギャラリーにて開催されたアーキニアリング・デザイン展「『建築とエンジニアリングの融合』を再考する2024」が開催されました。
第4回AND賞入選作品の模型やパネルの展示を中心とし、下関市体育館や1980年代後半~90年代に完成した木造大空間黎明期の作品を展示しました。


2024AND展 斎藤公男 による作品解説

AND展2024出品ビデオ


Archi-Neering Design AWARD 2024(第5回AND賞)募集締め切りました

選考委員

福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)

沢山のご応募ありがとうございました。 一次選考の発表は12/24にHP上で行います。 詳細はこちら

神田順
建築関連法の未来:法律から建築を見直そう。 ARCHIES2024年12月号vol.2
まちの中の建築スケッチ 「学士会館ー存続を図る震災復興建築ー」/住まいマガジンびお

★2024/12/28~2025/1/5 冬季休館となります
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