神田順
ともに日本建築学会が最近公表している提言である。4月に「持続可能な建築・まちづくりのための日本建築学会SDGsアクション」、5月に「日本の建築・まち・地域の新常識」を提言しているが、なかなか会員にもどこまで浸透しているかというと、こころもとない。日本建築学会のHPで見られるようになっているので、何のことかと思われた方は、そちらをご覧いただきたい。宣言や憲章にも近く、そもそもは「日本国民に告ぐ」というような内容のものであるが、しっかり読んで自らの行動につなげようというのであれば、学会としてのフォローが必要であろうし、具体的な行動として展開されないのでは、言葉だけに終わってしまう。
もっとも持続可能社会へ向けての議論は、今世紀に入って、報告書や提言の形で繰り返されてきている。今年の8月の大会でもいくつかの研究集会で議論され、社会的課題も明らかにされている。国連の2030年アジェンダに添うもので、建築にかかわる人間として、社会変革の意味を理解し、そのように振舞おうとすることは必要だ。温室効果ガス削減目標で2015年のパリ協定は、わが国も批准しているはずだが、社会がそのような方向を向いているようには、とても思われない。建築学会でも委員の中には、「そもそもコンクリートを使うことをやめるべきだ」という意見が出たり、「経済成長を押さえずして気候危機を防ぐことはできない」と言われたりもする。今すぐに、ということはできなくとも、少なくとも社会がその方向に向うための行動は求められる。個々の技術開発でお茶を濁すような話ではない。
研究集会などでは、自治体もかかわっての事例報告などもなされているが、新常識の中で謳われる造語「優良化更新」ということが、住まい手や管理者の常識となるためには、社会制度そのものに手をつけていく必要があろう。新常識やSDGsアクションを展開しやすくする法制度も構築すべきであろうし、自治体がそのように舵をとるように国民の声が結集することが欠かせない。そのためには、何よりも教育に、建築学会としてもより積極的にかかわるときが来たと言えるのではないか。国としての取り組みに、より強い働きかけが求められよう。
提言は、過去にも多く発信され、その都度、誰に向けての提言かと言われながら、国に向けてであり、自治体に向けてであり、建築学会会員に向けてであり、市民に向けてであることが多かった。提言を取りまとめるにあたっては、精力的な情報収集と議論の上でなされていることは、想像に難くないが、建築に関わるということでは、建築行政を担う自治体こそに変革を求めたい。しかし自治体への働きかけは、ある意味、一番難しい。建築基準法は、最低基準の規制法であるが、効率的に新築するための手続き法である。今後、「優良化更新」こそが建築に求められるとすれば、建築の理念を謳い、建築主や自治体にも、責務を明示する基本法制定が、アクションとしては提言に沿う実効性を感じさせるが、いかがであろうか。そのための議論が広汎になされる時であろう。
かつて、「建築構造パースペクティブ」(1994年)を日本建築学会から刊行したときに、「構造は美しくあるべきか」という拙文を載せた。そこでは、今はない日本IBM本社ビルの鉄骨構造が立ち上がったときに、美しく思ったことから構造設計を志したというような趣旨を記した。そもそも構造は美しいのでそれをCGで表現したら構造の魅力が伝われるのではないか、というような趣旨である。そうは言っても、中には、構造が、これは美しくないというように思われるものもある。その場合、構造というよりは、もともとの計画の問題だったりする。美しい構造もあれば、美しくない構造もある。
ここでは構造設計者あるいは構造エンジニアから、構造を美しくしようと思うか、あるいは、構造を美しいと思うのはどんなときか、という問いかけへの対応を聞いてみたい。ひたすら合理的で無駄のない形を美しいといえるか。美しくすることが倫理性に外れることはないか。合理的であるべきとするころに倫理性を感じるか。
柱梁で骨組みを構成するときに、階高とスパンの比や、柱断面、梁成の適切な寸法をどう決めるか。全体のバランスが大切だとして、そこに形態としての美しさを組み込むために、構造合理性から少し離れるときの決断をどのようにするかは、設計者個人の技のように思われる。出来上がった形の美しいものは、多くの人が美しいと納得するように思う。もちろん、中にはそうでない場合もあることは承知しているが。
新幹線の、両端に跳ね出し梁の連梁の橋脚の設計にあたり、跳ね出しを柱間隔の2分の1にすると、全体が均等間隔となる。しかし、梁端部の曲げモーメントを考えると柱スパンの3分の1より小さくする方が合理的であったりもするときの、設計判断の問題である。また、日本で一般的な柱の断面は、ヨーロッパ、アメリカなどに比べて大きい。これは耐震性を持たせるための理由と考えられるが、そこで一般的な柱断面より、意図的に細くすると、美しく感じられると判断する場合などもあろう。これらはほんの一例である。
パネリストとして3名の構造エンジニアに具体的な構造を対象にして話題提供をお願いし、その後で自由討論の場としたいと考えております。大勢のご参加をお待ちします。
福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)
募集要項PDF