A-Forum e-mail magazine no.118
(15-03-2024)
立ち上がれ愛に満ち溢れる構造設計者たち
ー 悉皆調査は大地震が襲う前に実行しなければ意味がない ー
和田章
能登半島地震では築百年の立派な木造住宅も壊れた。建築技術は経験によって育つのであって、何百kmも離れたところで起きた地震被害の経験は、別の地域の住宅の技術改良になりにくい。地震被害を受けた地域の大工や棟梁も、大きな地震はもう来ないと考え、今までと同じ方法で次の住宅を作ってしまうこともありうる。
能登地震災害について、日本建築学会を中心に木造住宅に関する悉皆調査が始まる。1950年以前、1981年以前、2000年以前、最近の順に被害が少ないという結果になると思う。このような耐震設計の基準改正・規準改定と施工法の進歩発展だけでなく、新しい木構造が倒れにくいのは部材が朽ちていないことも関係していると思う。
住宅の強度の問題ではないが、平地は田んぼや畑に使われ、住宅は山裾に建てることが日本のどこにも見られ、崖崩れの被害に遭いやすい。これも簡単に変えることはできず、誰も止めようとしない。
まちや村そして家々は一般的な工業製品に比べて圧倒的に寿命が長い。大地震は滅多に来ないから木造住宅は壊れない。昭和に建築基準法が制定され、その後、平成・令和になって建築基準法は改正され、学会規準が作られているが、適用されていない木造住宅は多く残ってしまう。原子力発電所や石油プラントを除くと、建築構造に関する法律は過去には遡らないことになっている。
昨日まできちんと建っていた住宅は、明日も同じように建ち続けるとほとんどの人が考える。耐震性が十分でない建築の補強・補修は所有者の決断の問題であり、法律で強制することはできない。耐震診断が行われたとしても、具体的な耐震改修はほとんど実行されない。
多くの研究者、構造設計者は、木造住宅の耐震性向上の研究を進め、耐震補強や耐震改修の技術開発も行っている。日本人の住み方、まち作りに関する研究も行われている。これらの考えや対策が日本の津々浦々に広がらず、大地震が起こるたびに木造住宅の倒壊によって多くの命が失われている。このように進まないのは、研究者や設計者などの専門家の説明や覚悟に説得力がないからだと思う。
次の地震はどこで起こるかわからない。震災による年寄りの死も孫の死も辛い、全ての人は地震で命を失いたくないはずだ。法律や行政の動きを待つのでなく、誰からも頼まれずお節介と言われても構わずに、構造力学、耐震設計をわかっている我々一人ひとりは、全国の木造住宅の耐震性を悉皆調査し、具体的な耐震補強、補修に手を差し伸べなくてはならない。
立ち上がれ愛に満ち溢れる構造設計者たち、全国の理科少女・理科少年の協力も得て、地震が襲う前に、地震に負けない日本を作ろう。
第51回AFフォーラム「立ち上がれ愛に満ち溢れる構造設計者たち
ー能登半島地震と木造住宅の甚大な被害ー(その2)」
日時:2024年04月24日(水) 18時~20時
コーディネータ:金田勝徳
パネリスト:五十田博(京都大学教授)、神本豊秋(再生建築研究所代表)、竹内徹(東京工業大学教授、日本建築学会会長)
お申込み(リンク先にて会場参加orZoom参加を選択してください。):
https://ws.formzu.net/fgen/S72982294/
Youtube:
https://youtu.be/Xp1r3fNelqA
能登半島地震発生を報道するテレビ画面で見た現地の被災状況は、爆撃によって破壊しつくされた街並みと見間違えるような光景でした。そして地震発生時から2カ月半が経とうとしている現時点(2024/3/15)でも、倒壊した家屋の撤去さえ進まずに被災当時のまま残っています。そこには間違いなく倒壊建物の下敷きになった被災者がいて、その人からの「助けて」という叫び声を背中に、その場から避難しなければならなかった人たちがいたはずです。
大地震のたびに同じような悲劇が繰り返されていながら、社会は構造物の安全を担っているはずの構造設計者に目を向けようとしません。構造設計者は何をしているのかという声も聞こえず、構造設計者もただ沈黙を守るばかりです。知る限りでは「耐震計算偽装事件」で初めて一般社会に注目された構造設計者ですが、それから20年近く経った今、再び構造設計者の存在そのものが忘れ去られているとしか思えません。
こうしたことことを背景に、今年の2月29日に第50回AF-フォーラム「立ち上がれ愛に満ち溢れる構造設計者たち ー能登半島地震と木造住宅の甚大な被害ー」が行われました。その冒頭で当日のコーディネーター和田章先生は、「構造設計者が社会から認められないのは、何があっても責任を取らないし、何も言わないからだ」と指摘しています。
当日のパネリストから「木造建築の耐震性向上は必須(高橋治先生)」、「被災した自宅を残したいと思いながらも、先が見えない被災者への構造設計者からのアドバイスが重要(北茂紀先生)」、「災害は社会問題を顕在化する。政府を頼りにするより(きめ細かい対応が可能な)自治体がそれに代わるべき(布野修司先生)」などの見解が述べられました。そして会場の参加者からは「こうした現状を変える動きを始めるべき(宇野求氏)」との厳しい指摘もありました。最後に斎藤公男先生より、「立ち上がれ」は当然だけれど「立ち上がり方」が問題であり「建築界をどのような方向にもっていくか」の方針が大切との言葉で締めくくられました。
これ等の貴重な意見を頂き、次回第51回AF-フォーラムでは「立ち上がれ愛に満ち溢れる構造設計者たち ー能登半島地震と木造住宅の甚大な被害ー(その2)」を企画しました。前回に引き続き白熱した議論の展開を期待しております。たくさんの皆様のご参加をお待ちしております。
防災学術連携体:令和6年能登半島地震に関する情報
防災学術連携体の62学協会、関係機関の情報を集めた特設ページです
防災学術連携体「令和6年能登半島地震 三ヶ月報告会」
2024年3月25日(月) 9:00~14:40
主催:日本学術会議 防災減災学術連携委員会(予定)、一般社団法人 防災学術連携体
開催:ZOOM webinar(定員500名)
お申し込みはこちら https://ws.formzu.net/fgen/S7169067/
★定員に達したため申込を締め切りました。
Youtube(一般公開・申込不要)にてご視聴いただけます。URLは3月22頃公開予定です。
ご案内PDF
シンポジウム:人口減少社会と防災減災
2024年3月25日(月) 15:30~18:50
主催:日本学術会議 防災減災学術連携委員会、一般社団法人 防災学術連携体
開催: ZOOM webinar(定員500名)お申し込みはこちら
https://ws.formzu.net/fgen/S79526201/
ご案内PDF
Archi-Neering Design AWARD 2023(第4回AND賞)
選考委員
福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)
選考評を公開しました
選考評(総評) 選考評(個別) 冊子PDF
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