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現在の建築生産は部品化、工業化の進展により、工事職種の統合化や多能工化などの変革がおきていると共に、現場専門職工事を支える部品メーカーや流通などの様々なバリューチェーンも含めた専門職(サブコントラクター)の重要性が非常に高い。建築生産の諸課題は元請けや現場で直接工事を担当している下請専門職だけで無く、それを支えている多様な支援職能も含めた問題として捉えることが必要だと考える。
第26回AB研究会では木質建材の供給構造の現状を再確認しつつ、失われかけている多様なしつらえの供給構造再構築の可能性にフォーカスする。
1970年代の初期頃までは日本の街と山の林業は繋がっていたと記憶する。街中の建物や塀、電車の枕木から電信柱といった身近に目にする構造物は杉や檜や松といった国内産木材で出来ていた。高度成長期での建築ラッシュでも低・中層建築の足場は間伐材丸太が主流だったし、街のあちこちに木質建材供給の出口としての材木屋、大工、鳶職、建具屋、畳屋、といった職方(サブコントラクター)が生活の身近にあり、建物や住宅への木質材料による多様なしつらえとその維持管理は生活の身近だった。
構造物の非木造化や住宅の中高層化、低層住宅の不燃化、住宅メーカーの台頭などを背景に新築住宅での国内産木材活用の減少や仕上げの新建材化と共に和室の減少等のプラン変化も顕著になった。現在の建築、特に一般的な新築住宅供給において自然素材活用は少なく、ビニールクロスの壁とツルツルの樹脂で固めた床材で覆われ、建具枠や建具も木目シート張りで、同品質・均質性が重視された多様性の乏しい仕上がりが多い。そして固有性のあるしつらえを求めないこと、作らないことがスタンダードの価値観となってしまった。
また、その流れの中で身近だった職方(サブコントラクター)は減少していき、街の生活から遠ざかり、見えなくなってしまった。生活に身近だったはずの住宅供給側が効率化とニーズ変化の名のもとに、その流れに迎合し、助長してきたことは否めない。結果として街の生活は山の林業と断絶し、現在は供給構造の源であった山仕事が崩壊しつつあり、国内の山に木はあるのに供給できず、循環型の環境構造が維持できない状況にある。
一方で、本格和室のしつらえでは無いが畳の間ニーズはいまだに堅調だし、若い人を中心に金太郎飴的な均質性を是としない生活や住まい方への志向と環境問題への関心が強まる等、価値観に変化の兆しが見える。そうした兆しに対して、建築や住宅の供給構造側は充分に対応できているのだろうか。誰もが多様なしつらえの住空間を自由に手軽に求め、手に出来ることが当たり前の価値構造になって欲しいと考える。
そこで、今回は畳と木製建材の供給構造の状況把握をベースに、より豊かで循環型の供給構造の再構築に向けた可能性やアプローチについて議論したい。