A-Forum e-mail magazine no.99 (05-07-2022)

芸術と技術と社会資産と

斎藤公男

アーキニアリング・デザインとは何か―

2021年12月9日、The Okura Tokyoにおいて「日建連表彰2021」の表彰式が行われ筆者らは「有明体操競技場」に対して栄ある第62回BCS賞を受賞することができた。東京五輪の新設施設としては唯一の受賞である。その設計者として(株)日建設計、清水建設(株)とともにA-Forumの名を連ねさせていただいた。式の会場で何人かの方から声をかけられた。「A-Forumって何ですか?」「どんな設計事務所なんですか?」と。
A-Forumとは Archi-Neering Design(AND) Forumの略。ANDの理念の実現と構造設計・構造デザインに関心を抱く方々に積極的かつ自由に活用していただくための「集いの場(フォーラム)」として2013年に設立した。更にANDとは、ArchitectureとEngineering Designの融合・触発・統合の様相(有様・成果)を意味する言葉。2007年に(一社)日本建築学会(AIJ)から発せられた理念である。意外にも、この(一社)日本建設業連合会が発行している「ACe」もArchitecture & Civil Engineeringとなっており、両者の比較は意義深い。
ところでAIJが目指すべき目標は、学術・技術・芸術の発展としている。まず、学術と技術の関係である。今学術を科学と工学に分けて考えてみよう。科学・工学は技術を駆使する際のToolであることは言うまでもないが、時として認識を誤ることがある。
例えば力学や材料・施工・コンピューターが成熟していれば何でもできると錯覚し、大きな失敗を招くことがある。新しいアイディアや閃きは人間力であり、解の唯一性を求める「科学」と、多様な選択肢から最適な解を模索する「技術」とは違う。今日、そのことをしつかり理解することの大切さは言うまでもない。
通常の「想像から実現へ」のベクトルだけではなく、「テクノロジーからイメージ」へのベクトルを加えた相対的なベクトルの有様が「AND」の理念にはこめられている。ここからAIJ主催の「AND展」(2008年~)がスタートし、更にA-Forum主催の「AND賞」(2020~)が設立され、現在も活動中である。
果たして「AND」なる理念が生まれた起点はどこなのか。遡って振り返れば、そこには約60年前に建設された「国立代々木競技場」(「代々木」1964年)がある。

「代々木」からのメッセージ―日本を飛翔させた大空間

「代々木」は奇跡のプロジェクトと言われる。完成した「代々木」は20世紀を代表する建築として世界の絶賛を浴び、日本の建設力の高さを世に知らしめた。60年後の今もその輝きと評価は少しも変わらない。
ところで「代々木」が残したメッセージとは何であろうか。
第一に建築(家)と構造(家)との高いレベルでの融合(協働)、第二に基本溝想・基本計画における「空間と構造」の発想・予見、第三に設計と製作・施工を包括したホリスティック・デザイン、第四にテンション(ケープル)構造を主役とした軽量構造・空間構造の世界。こうした挑戦の数々が、個性的だけでない普遍的創造を「代々木」にもたらしたと言えよう。

空間構造の世界―継承される「技」と「美」のレガシー

「代々木」が拓いた「空間構造」の世界は、同じ頃胎動し始めた国際的学会をも強く揺り動かした。1959年、スペインのE・トロハが創設したRCシェルの学会はその後、大きく発展するなかで名称を変える。国際シェル・空間構造学会(IASS)である。IASSを背景にして、日本の空間構造は大きく飛躍していった。「空間構造」の代表は軽量かつ大規模な無柱空間や集いの空間。なかでもスポーツ施設としてのドーム建築は注目される。
こうした大規模建築は「存在」そのものが周辺に大きな影響を持つ。従って単体としてのデザインは内部空間(機能)だけでなく外部形態(外観)にも意を尽くさねばならない。美しさと合理性とともに、「社会資産」としての価値を認識する必要があろう。
今回BCS賞をいただいた「有明体操競技場」もまた「空間構造」の世界を世に問う代表だと考えたい。

五輪のレガシーは今

20世紀後半の近代建築で世界遺産(W•H)の登録第一号は「シドニー・オペラハウス」(1973年)。同世代の「代々木」も昨年、日本での重要文化財指定を受け、次に目指すのはW•Hである。近年、大規模な耐震改修もなされ、60年前の五輪施設が新しいレガシーとなることを世界が注目している。そしてオリンピックの体操競技場から展示場への利用転換が計られる「有明体操競技場」に望まれるのは「仮設から恒久建築」への道。「代々木」とともに「芸術・技術・社会」をつないだ五輪のレガシーとして生き続けて欲しいと願わずにはいられない。

一般社団法人日本建設業連合会「ACe 建設業界」2022年6月号 PDF

 

Part2 第7回「手探りの空間構造」

トーク:斎藤公男(A-Forum代表/日本大学名誉教授)
日時:2022年07月23日(土)14:00~
お申込み→https://ws.formzu.net/dist/S895819741/
Youtube(お申し込みは不要です):https://youtu.be/LRvQePuWMJA

Part1 第6回「CLTを用いた構造デザイン」

日時:2022年08月06日(土)14:00~
パネリスト:蒲池 健(KMC)、桝田 洋子(桃李舎)
お申込み→https://ws.formzu.net/dist/S56224667/
Youtube(お申し込みは不要です):https://youtu.be/KmBr7GFrbS4

第26回AB研究会 建築生産を支える専門職(サブコントラクター)の世界3
「木質建材の現状と課題から多様なしつらえの供給構造について考える」

コーディネーター:布野修司+安藤正雄+斉藤公男
企画趣旨説明:中村良和
プレゼンテーション
  1.「畳の現状と課題」:㈱カンベ 神辺 泰典 代表取締役社長 
2.「木製建材の現状と課題」:住友林業クレスト(株)  井上 伸夫 取締役執行役員 

日時:2022年7月30日 14時~17時
お申込み→https://ws.formzu.net/fgen/S42040957/
★Youtubeでの配信は行いません★

現在の建築生産は部品化、工業化の進展により、工事職種の統合化や多能工化などの変革がおきていると共に、現場専門職工事を支える部品メーカーや流通などの様々なバリューチェーンも含めた専門職(サブコントラクター)の重要性が非常に高い。建築生産の諸課題は元請けや現場で直接工事を担当している下請専門職だけで無く、それを支えている多様な支援職能も含めた問題として捉えることが必要だと考える。
第26回AB研究会では木質建材の供給構造の現状を再確認しつつ、失われかけている多様なしつらえの供給構造再構築の可能性にフォーカスする。
1970年代の初期頃までは日本の街と山の林業は繋がっていたと記憶する。街中の建物や塀、電車の枕木から電信柱といった身近に目にする構造物は杉や檜や松といった国内産木材で出来ていた。高度成長期での建築ラッシュでも低・中層建築の足場は間伐材丸太が主流だったし、街のあちこちに木質建材供給の出口としての材木屋、大工、鳶職、建具屋、畳屋、といった職方(サブコントラクター)が生活の身近にあり、建物や住宅への木質材料による多様なしつらえとその維持管理は生活の身近だった。
構造物の非木造化や住宅の中高層化、低層住宅の不燃化、住宅メーカーの台頭などを背景に新築住宅での国内産木材活用の減少や仕上げの新建材化と共に和室の減少等のプラン変化も顕著になった。現在の建築、特に一般的な新築住宅供給において自然素材活用は少なく、ビニールクロスの壁とツルツルの樹脂で固めた床材で覆われ、建具枠や建具も木目シート張りで、同品質・均質性が重視された多様性の乏しい仕上がりが多い。そして固有性のあるしつらえを求めないこと、作らないことがスタンダードの価値観となってしまった。
また、その流れの中で身近だった職方(サブコントラクター)は減少していき、街の生活から遠ざかり、見えなくなってしまった。生活に身近だったはずの住宅供給側が効率化とニーズ変化の名のもとに、その流れに迎合し、助長してきたことは否めない。結果として街の生活は山の林業と断絶し、現在は供給構造の源であった山仕事が崩壊しつつあり、国内の山に木はあるのに供給できず、循環型の環境構造が維持できない状況にある。
一方で、本格和室のしつらえでは無いが畳の間ニーズはいまだに堅調だし、若い人を中心に金太郎飴的な均質性を是としない生活や住まい方への志向と環境問題への関心が強まる等、価値観に変化の兆しが見える。そうした兆しに対して、建築や住宅の供給構造側は充分に対応できているのだろうか。誰もが多様なしつらえの住空間を自由に手軽に求め、手に出来ることが当たり前の価値構造になって欲しいと考える。
そこで、今回は畳と木製建材の供給構造の状況把握をベースに、より豊かで循環型の供給構造の再構築に向けた可能性やアプローチについて議論したい。


シンポジウム「多様化する構造デザイン」(金田勝徳)

日時:8月4日(木)16:00~19:00(開場15:30)
会場:日本大学理工学部駿河台校舎 タワースコラ1階
★オンラインでの配信はございません★
参加費:一般:1,000円 学生:500円
参加申し込み:https://ws.formzu.net/dist/S274164684/

バブル経済の崩壊に始まった日本の1990年から、コロナ禍に怯え東京オリンピック2020が延期となった2020年までの30年間は、他の現代史に劣らぬ激動の時代と言えそうです。そうした中にあって、構造設計界も暗い話題が少なくなかったとはいえ、その潮流の一つひとつを思い起こせば、躍動感に満ちた活動的な時代でもあったように思われます。
そこでこの度、日本構造家倶楽部ではこの30年間の構造界の潮流を記録に残し、次代の飛躍に繋げることを目的として、(株)建築技術より「多様化する構造デザインー未来へと繋ぐ平成時代の軌跡―」を刊行いたしました。これを機に皆様と共に、現代の構造デザインに想いを巡らせるシンポジウムを以下の通り企画しました。お誘いあわせの上、たくさんの皆様のご参加をお待ちしております。

「多様化する構造デザインー未来へと繋ぐ平成時代の軌跡―」ご購入はこちら
★シンポジウム会場にて特別価格 税込3800円(定価 税込3960円)でご購入いただけます★

プログラム(予定)
開会あいさつ(与那嶺仁志)
はじめに(金田勝徳)
基調講演(斎藤公男)
書籍の構成(竹内徹)
平成時代の構造デザイン(進行:金田充弘)
1)スーパトラクチャーから制振・免震構造へ移行した超高層(原田公明)
2)地震応答制御によって生まれる多彩な建築(山脇克彦)
3)時代の要請に応える既存建築の耐震改修と利活用(満田衛資)
4)時代の要請に後押しされて華やいだ大空間構造とスタジアム(細澤治)
5)多様な合理性を展開したハイブリッドテンション構造(宮里直也)
6)空間の多様性を演出する膜構造(小澤雄樹)
7)単純な幾何学形態から脱却したRCシェル構造(浜田英明)
8)RC・PCの新たな造形と空間表現(早稲倉章悟)
9)多様な鋼材の応用によって高まる薄さ・軽さ・透明感(多田脩二)
10)材料特性の活用と社会の要請から生まれたハイブリッドな構造(伊藤潤一郎)
11)大規模から中規模への木造建築の領域の拡大と木質材料・接合部の多様化(山田憲明)
まとめ
対談 佐々木睦朗×佐藤淳
総括 金箱温春


第43回AF-フォーラム「建築士制度を問う」

コーディネーター:金田勝徳
パネリスト:三井所清典(芝浦工業大学名誉教授)、仙田満(東京工業大学名誉教授)、今村雅樹(日本大学特任教授)

日時:2022年8月27日(土)14:00~16:00
お申込み→https://ws.formzu.net/dist/S72982294/
Youtube(お申し込みは不要です):https://youtu.be/XZ1hT6xMVvo

1950年に建築士法が建築基準法と同時に制定されました。当時は戦災によって壊滅状態にあった都市の復興のため、短期間に大量の建築物の建設が迫られていました。そのことに沿って生まれた建築士制度が、70年以上に渡って大きな改正がないまま、現在までに38万人を超える一級建築士が誕生しています。
その中で、現在建築士として実務に就いている建築士の人数を知ることは容易ではありません。試みに、現行の建築士法によって建築士事務所に所属する建築士に義務付けられている、3年ごとの定期講習修了者の数から推定してみると、推定可能な2010年から2021年の12年間に渡って一級、二級、木造建築士のいずれもが漸減し続け、その間の減少率は70%を上回っています。
こうした現象に対する危機感からか、建築士の人材を継続的かつ安定的に確保することを目的とした建築士法改正が、令和2年度に施行されました。その改正では一級建築士試験の受験資格の見直しと、受験機会の拡大が行われています。
具体的には、第一に一級建築士の受験資格であった大学卒業後2年の実務経験が必要なくなり、大学卒業後直ちに一級建築士試験を受験できるようになりました。第二は建築士登録までに必要な2年間の実務経験の適用範囲が大幅に拡大されました。第三に、学科試験合格の有効期限が3年から5年に延長され、その5年の間の3回までは学科試験が免除されることになりました。
一方、この改正の副作用として、大学の受験予備校化、受験塾のさらなる肥大化などが考えられ、結果的に、建築設計のプロを目指す若者の生活や大学教育の在り方が、歪められるのではと危惧されます。こうした一連のことは建築士制度の在り方にかかわる問題であり、放置すれば日本の建築界に大きな禍根を残すことになりかねません。
そこで8月のA-Forumでは、長年建築設計事務所を主宰しながら大学教育とを両立されてきた3人先生をパネリストにお招きして、建築士制度の現状と、今後のあるべき姿を皆様と共に自由に話し合うことを企画しました。多くの皆様のご参加と、活発な意見交換を期待しております。


第42回AF-フォーラム +
空間  構造  デザイン研究会 Part I第5回 :「空間と構造の交差点」
「軽い木の特徴を活かした“モクビルプロジェクト”」動画公開しました


日時:2022年06月25日(土)14:00~
コーディネーター:斎藤公男
パネリスト   :加藤 詞史(加藤建築設計事務所)、中西 力(スターツCAM)、小野塚 真規(オノツカ)

第2回AJ研
建築メディアの新たな潮流 字幕付き動画公開しました

日時:2022年6月4日(土)

コーディネーター:磯達雄(建築ジャーナリスト Office Bunga)
パネリスト:
加藤純(TECTURE MAG 編集長)
富井雄太郎(株式会社ミルグラフ代表取締役)
コメンテーター:今村創平(千葉工業大学教授)、青井哲人(明治大学教授)


神田 順 まちの中の建築スケッチ 「旧本多家の長屋門 —武蔵国分寺跡の江戸の佇まい—」/住まいマガジンびお

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