A-Forum e-mail magazine no.96 (15-06-2022)

耐震設計の起承転結

和田 章

朝日新聞の「天声人語」、日経新聞の「春秋」などを読まれる方が多いと思います。目がウルルとなる文章、言われる通りと納得する文章が多いように感じます。このような短い文章でも学会論文でも、説得力ある文章の基本は「起承転結」がしっかりしていることだと思います。

地震がなぜ起こるかについては解明されていますが、いつどこで起こるかは誰にも分かりません。プレートのずれ、プレート内部の破壊によって揺れが始まり、これが地中を伝播します。表層の地盤の方が地震波の伝播速度が遅いので、海の波が海岸に向かってくるように、地震波は徐々に上向きに伝わる言われています。表面波もあり簡単ではありませんが、地震波が敷地地盤に到達すると、地盤の揺れと建物の揺れには相互に関連し建物が大きく揺れます。ここまでを起承転結の「起」と考え、次の耐震設計法の考察を「承」とします。

地震動の大きさと性質によりますが、骨組は弾性的な揺れから塑性変形をともなう揺れを受けます。関東大震災のあとに起きた柔剛論争は有名ですが、京都大学教授の棚橋 諒先生は「建築物は強度があっても、脆ければダメ、柔な骨組みを作って変形させれば良い訳でもない、適度な剛性とある程度の抵抗力、これに靱性(塑性変形能力)が必要である」とエネルギー吸収の重要性を訴えられました。昭和の一桁、コンピュータの「コ」もない頃のことですが、現在の耐震設計法のルーツであるに違いありません。

このような進んだ研究があったにもかかわらず、耐震設計法は「静的地震力と許容応力度計算」によっていました。武藤清先生は塑性変形能力を無視していたわけではなく、鋼材や鉄筋の降伏応力度を短期許容応力度に決めた時、これらには十分な塑性変形能力があるのでもっと大きな地震が来ても骨組は塑性変形を起こすからすぐには壊れないはずだと書かれています。社会が棚橋先生の考えに乗ったのは、新耐震設計法が施行された昭和56年6月ですから、50年近くあとです。

ここからが小生の問題なのですが、構造計算書の初めに設計方針を述べるとき、S造の場合は、「十分な変形能力を持たせるようにFA部材を用いたのでDsを0.25にした」、RC造の場合は、「梁の曲げ降伏型の骨組にしたのでDsを0.30にした」のようにDsを小さく設計することが善のように考えていました。

新耐震設計法を纏められた梅村 魁先生、渡部 丹先生にDsが0.45、0.55のような建物をどのように考えておられたのか、聞きたかったと思います。「塑性変形能力を無視したダメな耐震設計であり、単にそのペナルティとして強度過剰な設計を強いたのですと言われるか、それとも、強度と変形能力を上手に組み合わせた良い設計だと言われるか」天国に行けて、お二人にお会いできたら伺いたいと思っています。

そして設計した建築が地震を受けます。これは「起承転結」の「転」に相当しますが、Dsを小さくした建築は、人命を守ることができても、研究者・設計者・行政が考えていた通りに、構造物は大きな塑性変形を起こします。

次は「結」ですが、ヒビだらけになった建物は取り壊されてしまいます。Dsが0.25、0.3のように保有水平耐力の小さな建築は最悪です。取り壊し費用は、建て主でもなければ、設計者でもなく、国や県の予算で進められます。住人は二重ローンをかかえて次の住宅を取得せねばなりません。小生の今の気持ちは「建築として成り立つなら、強度型のDsが0.55が最高に良い耐震構造」だと思っています。とにかく強度が十分で壊れないのですから、良いに決まっています。

地震の研究、耐震構造の研究を進め、耐震設計法がまとめられ、構造設計者も研究者も行政も施工会社も、社会に向かって「この建物は耐震設計してあります」と言って建築を建てています。しかし、全ての関係者は「ヒビが入ったら、あとは知りません。済みませんが、公的な予算で片付けてください」が今の状況です。今の耐震設計は起承転結が成り立っておらず、すっきりしません。

 

第42回AF-フォーラム +
空間  構造  デザイン研究会 Part I第5回 :「空間と構造の交差点」
「軽い木の特徴を活かした“モクビルプロジェクト”」


日時:2022年06月25日(土)14:00~
会場:オンライン(Zoom、Youtubeライブ配信(アーカイブあり)
参加申し込み:https://ws.formzu.net/dist/S895819741/
★Youtubeでのご視聴はお申し込みの必要はありません。

コーディネーター:斎藤公男
パネリスト   :加藤 詞史(加藤建築設計事務所)、中西 力(スターツCAM)、小野塚 真規(オノツカ)
プログラム   :建築家・構造設計者・木架構制作者の3者による講演(各20~30分)の後、討議など。

木質系の建築技術が、大スパンから高層化へ向かう現在、江戸川区に竣工した「モクビル」を題材に「高層木造の現在」を考える機会とします。
2010年に施行された公共建築物等木材利用促進法や温室効果ガス発生抑制などの社会的ニーズにより、木質構造による中高層建築物の規制緩和を背景にした建設会社と設計事務所の「民間企業」による取り組みがその特徴です。
カーボンニュートラル、免震による都市部の質向上(強靭化)などの課題解決と新しい価値の創出をテーマとしています。

題材の南葛西モクビルは、上階4層の木質構造と下階5層の立面混構造建物に免震装置を加えた構成となっており、都市部をフィールドとして建設、不動産を中心に多角的に事業を展開するスターツCAMと木質系技術を背景に活動・設計を行なってきた加藤詞史/加藤建築設計事務所の共同開発プロジェクト(試設計)を背景に生まれた建物です。
南葛西モクビルの原型となった共同開発の想定モデル建物は、地上8~11階建て、述床面積1,000~2,000m2前後の中小規模の建物で、上層4層の木質化と免震を組み合わせたものです。

木質化の取り組み内容は以下となります。

▹上層4層木質化の特徴
・告示仕様の汎用性のある耐火構造。
・120角柱を基本とする一般住宅流通材を使用。
・「構造用合板張耐力壁」の構成。
・耐風圧性能、通気構法などによる持続性に配慮。
・遮音試験による居住環境の性能確保。
▹下層5層RC部の特徴
・上層木質化(木重量はRC重量の1/6)による構造躯体量および杭の軽減を(同じ9階建てRC造比)。
▹免震部の特徴
・混構造に最適化した免震装置の選定。
・斜め柱による容積最大化(免震離隔距離確保)。

このプロジェクトの先進性は、汎用性の高い告示を中心とした仕様と部材構成による高層木造の実現に加え、下部躯体・地盤への負荷軽減を中心にして、構造、施工的なメリットを反映、同規模の全階RC造(耐震)と同程度の建設コストによる免震建物を実現した点です。
「見せる木」とは異なる「軽い木」を活かす、材を性能面から活用する取り組みとなっており、木の材料特性を引き出しています。

施工においては、林産県の加工工場との連携による都市部と地方との人材交流と補完をはかっています。
また、住居空間と親和性が高い木質構造により、より快適な温熱空間を実現。住空間の代名詞ともいえる勾配屋根の採用で、最上階の住まいをより豊かにしています。

将来的な改修や減築、解体負荷の低減など、建設〜解体までを包括するプロジェクトとしても位置づけています。複数棟、量産メリットを視野に入れた取り組みとなっています。


建築基本法制定準備会総会 記念講演「『持続可能社会と地域創生のための建築基本法制定』を刊行して」(神田順)


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建設トップランナー倶楽部「地域建設業のグリーン戦略」(和田章)

日時:2022年6月24日(金)13:00~17:00
中継:イイノホール Room Aから、ネット中継 (建設トップランナー俱楽部ホームページよりライブ配信します)
参加申込(参加無料):https://ws.formzu.net/fgen/S74215799/
★A-Forumでは申込み受付を行っておりません

建設トップランナー倶楽部の主催によるトップランナーフォーラムにおいて「地域建設業のグリーン戦略」が開かれます。
日本の山々には毎年1億立米の木々が育ち、日本の森林資源はとても豊かです。構造設計者は、新しく設計する建物を、「木造/鉄筋コンクリート造/鉄骨構造」のどの構造にするかを決断する大切な役割があります。森林はCO2を蓄積して育っており、この木材を木造建築として長く使うことに大きな価値があります。
この倶楽部は、小生も顧問としてご一緒に活動しており、このフォーラムもとても興味深いですので、A-Forumの皆様に参加して戴きたいと思いご案内いたします。どなたでも参加できますので、奮ってお申込みください。(和田章)

開催趣旨
2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、地域建設業のグリーン戦略への取組みが加速している。本フォーラムは、グリーンインフラを活用した自然共生地域づくりや、循環型社会をめざす環境ビジネスの参入、省エネ・再生可能エネルギーの活用による地方創生などの先進事例を発表する。パネルディスカッションは「地域建設業のグリーン戦略をどう進めるか」と題して、脱炭素社会をめざす上で、地域建設業が果たすべき役割や方向性を議論する。

ご案内PDF

シンポジウム「多様化する構造デザイン」(金田勝徳)

日時:8月4日(木)16:00~19:00(開場15:30)
会場:日本大学理工学部駿河台校舎 タワースコラ1階
★オンラインでの配信はございません★
参加費:一般:1,000円 学生:500円
参加申し込み:https://ws.formzu.net/dist/S274164684/

バブル経済の崩壊に始まった日本の1990年から、コロナ禍に怯え東京オリンピック2020が延期となった2020年までの30年間は、他の現代史に劣らぬ激動の時代と言えそうです。そうした中にあって、構造設計界も暗い話題が少なくなかったとはいえ、その潮流の一つひとつを思い起こせば、躍動感に満ちた活動的な時代でもあったように思われます。
そこでこの度、日本構造家倶楽部ではこの30年間の構造界の潮流を記録に残し、次代の飛躍に繋げることを目的として、(株)建築技術より「多様化する構造デザインー未来へと繋ぐ平成時代の軌跡―」を刊行いたしました。これを機に皆様と共に、現代の構造デザインに想いを巡らせるシンポジウムを以下の通り企画しました。お誘いあわせの上、たくさんの皆様のご参加をお待ちしております。

「多様化する構造デザインー未来へと繋ぐ平成時代の軌跡―」ご購入はこちら

プログラム(予定)
開会あいさつ(与那嶺仁志)
はじめに(金田勝徳)
基調講演(斎藤公男)
書籍の構成(竹内徹)
平成時代の構造デザイン(進行:金田充弘)
1)スーパトラクチャーから制振・免震構造へ移行した超高層(原田公明)
2)地震応答制御によって生まれる多彩な建築(山脇克彦)
3)時代の要請に応える既存建築の耐震改修と利活用(満田衛資)
4)時代の要請に後押しされて華やいだ大空間構造とスタジアム(細澤治)
5)多様な合理性を展開したハイブリッドテンション構造(宮里直也)
6)空間の多様性を演出する膜構造(小澤雄樹)
7)単純な幾何学形態から脱却したRCシェル構造(浜田英明)
8)RC・PCの新たな造形と空間表現(早稲倉章悟)
9)多様な鋼材の応用によって高まる薄さ・軽さ・透明感(多田脩二)
10)材料特性の活用と社会の要請から生まれたハイブリッドな構造(伊藤潤一郎)
11)大規模から中規模への木造建築の領域の拡大と木質材料・接合部の多様化(山田憲明)
まとめ
対談 佐々木睦朗×佐藤淳
総括 金箱温春


第25回 これからを担う若手建築家の活動と実践03「VUILD 秋吉浩気」動画公開しました



神田 順 まちの中の建築スケッチ 「アサヒビール本社ビル—造形としての建築—」/住まいマガジンびお

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