A-Forum e-mail magazine no.94 (15-02-1022)

懲りない日本人と専門家の責任

和田章

ニューヨークは「犯罪が多く怖い処か」とニューヨーク育ちの米国人教授に聞くと、日本の男は自ら危ない横道に入るから怖い目にあう。五番街をまっすぐ歩いていて、危ないことはないと断言する。日本に災害が多いのは、自然の猛威が大きいことだけが理由ではなく、辛いことを忘れやすい国民に問題があり、重ねて防災に関わる研究者の説明や行動に説得力がないことが問題である。耐震工学の仲間たちは耐震改修されていない建物の会議室で「耐震性不足」の議論をする。その後の懇親会はさらに危ないお店で行われ、隅田川や江戸川の下を通る地下鉄に乗って帰宅する。このような姿を見て、一般市民が防災減災の専門家の言うことを聞くはずはない。人々の悩みごとは防災や減災だけではなく、親の病気、子供の将来、自らの老後など沢山あるから、市民は防災・減災について、腑に落ちる理解がなければ行動しない。

世界の国々の中でも、日本は地震・台風など自然の猛威に多くおそわれる国である。さらに、島国であり急峻な地形が多く、平地が少なく、もろい地盤の上に人々は暮らしている。これに加え、上に述べたように日本の「人々」は楽観的で忘れやすく、過去に大津波が来た海の近くに住み、昔は海だった処を、欲望に駆られて埋め立ててまちを作り、川の氾濫域と分かっている処にまちや村を作っている。「自然」はなんでも覚えていて、これらの人工的な地形は大地震や洪水、津波を受けると元の形に戻ってしまい、余程の対策をしていない限り氾濫は止められない。東日本大震災で起きた液状化により被害を受けた高級住宅街の人々は気の毒ではあるが、開発そのものに問題があったと考える方が、自然の摂理にあっている。

特定の地域に注目したとき、大災害は人間の寿命を超えた年月に一度しか起こらない。それでも、過去に東北の太平洋岸を津波が襲ったことはそれほど昔のことではない。しかし、専門家は大槌町や女川などの多くの地区に津波を忘れて都市計画を行い、建築家、技術者や大工さんは建築や家を建ててきた。鉄道や道路も同じように計画され作られてきた。しかし、これらの悲惨な経験は同じ地に暮らす孫の世代になると忘れられ、弱い建築物、弱い橋や堤防は補強されずに使われていく。東京への一極集中も大問題であり、一方で賑わい失う地方が増えていることも大問題である。

東京オリンピック・パラリンピックが終わり、北京で冬季オリンピックが開かれた。次の大きなイベントは大阪夢洲で2025年に開催される大阪万博である。数年前の台風で関西空港が冠水し、連絡橋にタンカーが衝突したところの北で埋立てが進む人工島で開かれる。災害発生は、地震、豪雨や津波の災禍(hazards)の襲うところに、人間活動の弱さ(vulnerability)が重なることによって起こる。一時的な催しで恒久的な建築は作らず、終了後には元の海に戻すなら良いかもしれないが、この地域の経済活性のために皆で危ないことをするのはやめた方が良い。

建築を建てるためには発注者がいて、建築家と構造設計技術者などが設計図をまとめ、建設会社が具体的に施工する。新聞などで新しい建築が紹介されるとき、施工した会社の名前や建築家の名前が載ることはあるが、構造設計者の名前が語られることは少ない。40年ほど前に、日本建築学会の委員会に弁護士をお呼びし、構造設計者の立場を高め発言力を増すための策を聞いたことがある。答えは、何かトラブルが起きたときに責任を取らず、建築基準や施工会社の責任にして、構造設計者は「問題から逃げる」からだと言われた。

東日本大震災の大災害を受けて、我々研究者や専門家は、自ら行ってきた過去の研究や発言、行動が十分に至っていなかったことを、社会にきちんと述べてこなかった。あまりに大きな災害であったため、個人的に責任を取ることはできないが、起きた災害について、建築家や構造設計者に市民からの追求がないことをよしとして、逃げていたように感じる。研究者も同様であり、研究が至っていなかったと発言することは少ない。このようにしていたのでは、社会は研究者や技術者のいうことに素直に耳を貸さず、行動も起こさない。

原子力発電所が津波災害を受けにくいように、東北電力女川発電所では東京電力福島発電所より立地を高くしたと言われている。女川において立地を高くすべきと言っていた研究者や専門家は、東京電力福島発電所が津波に対して弱点があることをなぜ指摘しなかったのか、指摘していたとして、なぜ対策は実行されなかったのか疑問が残る。原子力発電所の重要施設の揺れに関する耐震設計は一般建築より3倍強く設計している。発電機や配電盤などの電気施設が水に弱いことは、水に落としたラジオや携帯電話がすぐに壊れることから子供でも知っている。すべての関係者が津波対策が疎かだったことに反省すべきである。2011年以前の原子力発電所の耐震設計審査指針に、「津波」の単語は「7.地震随伴事象に対する考慮」に一度出てくるだけであった。この基準はホームページに公開され、誰でも見ることができた。その意味で、この基準を執筆した関係者や原子力発電に関わる技術者や許認可に関わった人々だけでなく、小生も含めて地震工学・津波工学に関わるすべての研究者・技術者に大きな問題があったと言わざるを得ない。

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原子力発電所の耐震設計審査指針より抜粋(2006年9月19日原子力安全委員会決定)
7.地震随伴事象に対する考慮
 施設は、地震随伴事象について、次に示す事項を十分考慮したうえで設計されなければならない。
(1)施設の周辺斜面で地震時に想定しうる崩壊等によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと(周辺斜面の安定性)。
(2)施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと
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第40回AF-フォーラム
「施工から見た基礎杭の今日的課題」

2022年2月24日18:00~20:00
コーディネーター:神田順
パネリスト:加倉井正昭、橋本友希
会場:オンライン(Zoom)、Youtubeライブ配信(アーカイブあり)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。

地盤の評価と不可分な杭の設計については、近年の技術開発、環境配慮や施工性、コストなど、判断要素も複雑です。地盤や基礎に関しては、建築基準法上の規制が上部構造に比べると少ないこともあり、設計者に委ねられる部分が多いとも言えます。その反面、現実には地震で杭が破損していたことが判明したり、支持地盤の確認不足など、課題も多く指摘されています。
今回は、基礎構造について長年研究を続けてこられたパイルフォーラムの加倉井正昭氏と、実務での経験から一般読者も対象とした著書「杭の深層」(建築画報社2021年11月)を出版された橋本友希氏をパネリストにお呼びします。杭基礎構造については、さまざまな課題がありますが、本フォーラムでは主に施工にかかわる諸課題を中心に加倉井・橋本の両氏にそれぞれのご経験を踏まえて議論いただきます。構造技術者のみならず、建築設計者も含めて自由に議論できる場となるよう、今回のフォーラムを企画しました。


第41回AF-フォーラム+超高層研究会講演会
「超高層建築の耐震・耐風設計とトポロジー」 

2022年3月5日10:00~12:00
コーディネーター:和田章
パネリスト:Billie Spencer(イリノイ大学)、岡部和正(森ビル)
会場:オンライン(Zoomのみ、定員290名)
お申込み:https://ws.formzu.net/dist/S49923565/

日本の超高層ビルの構造設計では、耐震設計、耐風設計が主眼になります。
人間の暮らす空間の大きさを考えて、ビル建築の階高やスパンが決まり、このジャングルジムの中にアンボンドブレースやオイルダンパーを組み込み制振構造を構築する方法が、日本では一般的になっています。いち早く400mを超える超高層を建ててきた米国では、John Hancock Center のように人間のスケールではなく、構造体にとって適したスケールの構造に取り組んでいます。香港のBank of Chinaの設計者I. M. Pei とLeslie Robertson はNew York の事務所の最初の打ち合わせで、眼下に見えるQueensboro Bridge(イースト川に架かる)をさして、これを縦てたような構造にしようとしたという逸話があります。
ドバイに建設された高さ828mのブルジュ・ハリファの設計者ChicagoのSOMのWilliam Bakerは基礎的な力学が得意で、超高層建築の形態についても深く考察しています。Bakerが工学博士を取得したイリノイ大学にこの分野の研究を進めている
Billie Spencer教授がおられ、ネットセミナーをお願いしました。日本の設計にも大変興味があるとのことで、森ビルの構造設計部課長岡部和正様に、2023年の竣工時には日本一の高さになる「虎ノ門・麻布台プロジェクトの超高層」の講演をお願いしました。
ZOOMの定員は290人です、皆様、是非お申し込みください。

10:00 to 11:00
Professor Billie Spencer, The University of Illinois
“Topology Optimization of Wind and Earthquake Excited Buildings”
11:00 to 11:30 discussion
11:30 to 11:50
Kazumasa Okabe, Senior Manager of Structural Engineering Unit, MORI BUILDING
“Toranomon-Azabudai Project - Main Tower (A district) –Skyscraper that secure high seismic resistance by Response-Control Structure”
11:50 to 12:00 discussion


Archi-Neering Design AWARD 2021 (第2回AND賞)

選考委員
福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)

最終選考結果発表

一次選考通過作品10点について2022年02月05日(土)に一次選考を行いました。

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最優秀賞
29    まれびとの家「伝統Xデジタルファブリケーションに構造的な価値付けをする」

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優秀賞
11    甲陽園の家(LVLを用いた組木アーチフレーム)
13    懸垂鋼板が空に漂うKAIT広場
24    閖上の掘立柱-震災後に嵩上げされた堤防と共存するオフィス-

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入賞
05    GALLERY U/a
10    山並みに呼応するCLTの連続円筒シェル屋根 <南予森林組合新事務所>
12    Dタワー西新宿
15    CLT二方向フラットスラブ -木の美しさを活かした環境型ターミナルの設計を通してー
38    HIROPPA「ありきたりな材料とローテクでつくられた上品な建築」
40    RYUBOKU HUTー-流木を構造体とした縄文建築-

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入選
6    ロッドネットで織物表現-桐生ガススポーツセンター(桐生市民体育館)-
14    FUJIHIMURO "氷穴"
18    Digital Garage "Pangaea" | Super Furniture
30    SQUWAVE〜木質パビリオンから始まる人と空間の相互作用~

審査講評は後日公開いたします。


日時:2022年2月5日(土)14:00~18:00
会場:日本建築学会 建築会館ホール

表彰式・受賞記念講演会

最優秀賞選考に残った作品については2022年2月26日(土) 14:00~ A-Forumにて表彰式および受賞講演会(各々20分程度でプレゼン)を行います。

神田 順 まちの中の建築スケッチ 「ノアビル—都心の丘の上のオフィスビル—」/住まいマガジンびお

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