金田勝徳
昨年(2021年)末、新型コロナ禍をかいくぐりながら、学生時代の友人4人でミニ忘年会を強行した。私を除く他の3人は、いずれも建築家ないしは建築事務所で、意匠設計担当者として働いていた同級生である。そのため建築関連の話題で盛り上がる中で、日本ではなぜ、建築がほとんど一般メディアに取り上げられないかの議論になった。
渡航の機会が多い友人たちによれば、全てではないにしても、海外では建築に関する新聞記事を多く目にし、建築をテーマとしたテレビ番組も少なくないという。タクシーに乗れば、運転手からその町が誇りとしている新旧の建物や、ご本人が好きな建物の自慢話を聞かされた挙句に「お客さんの好きな建物は?」と質問され、その国の一般市民の建築に対する関心の高さに驚かされるという。一方、日本の状況を見れば、一部の例外があるにしても、一般メディアで建築に関する話題が取り上げられることはごく限られている。ましてはタクシーに乗った時、観光案内をされることがあっても、その町の建物自慢を聞かされた経験はない。この違いはなぜなのか。
その時の結論は、日本では建築にまつわる話題には官民問わず薄汚れた話が多く、建築業界といえば悪者集団といったイメージが強いからではないか、とのことになった。古くから建設工事にまつわるスキャンダルは絶えることなく、建築がマスメディアで話題になるときの殆どが、業界性悪説を裏付けるような内容となる。発・受注を巡る汚職、各種施工・製品検査データの改ざん、手抜き工事、構造計算書偽装等など、思い起こせばきりがない。
私たちがこんな居酒屋談義に花を咲かせた忘年会の二日後に、こともあろうに建設業界を所轄する国交省によって、データの不正書き換えが行われていたとの報道に仰天することとなった。不正に書き換えられたデータは「建設工事受注動態統計」で、国交省が各都道府県の担当者に指示した書き換えは、遅くても2010年代前半から始まっていたという。‘19年に会計検査院から問題指摘がされた後も、引き続き本省自らが各都道府県からの鉛筆書きデータを消しゴムで消して、水増しした受注額データを上書き保存していたと聞く。身内の監視機能に甘さはなかったのか。
一連のことが新聞で報道された後、国交大臣が「不適切な処理があった」と認め、首相は「大変遺憾」と言いながらも、ことの詳細については、現在も国民に説明がなされていない。私たちの怪しげな居酒屋談義を裏打ちするようなこうした事件に、言葉を失う。
国によるデータの書き換えと言えば、私たちの親や祖父の時代の日本が「大本営発表」という偽りの情報に翻弄され、悲惨な結末を体験させられたことが思い起こされる。そこまで歴史をさかのぼらなくても、つい最近の2018年には厚労省による「毎月勤労統計」データ不正事件がある。これらは、いずれも国の情勢を実態より見栄え良く見せようとして、なされたことだと思われる。国を代表する巨大企業から、建物の安全性能を左右する材料メーカーまでにおよぶ各種データの改ざん・捏造に加え、国によるデータ書き換えや不都合な記録抹消などの報に接するたびに、日本の民主主義は大丈夫?との心配が募る。
新年早々、コロナ第6波の兆しと共に、こんな暗い話にしかならない見栄えの悪いスタートとなった今年の平穏を祈るばかりです。
Archi-Neering Design AWARD 2021 (第2回AND賞)にご応募いただき有難うございました。
応募作品40点について2020年12月18日(土)に一次選考を行いました。議論を重ねた選考の結果、10点が一次選考通過、4点が入選となりました。
受付NO 応募作品名
05 GALLERY U/a
10 山並みに呼応するCLTの連続円筒シェル屋根 <南予森林組合新事務所>
11 甲陽園の家(LVLを用いた組木アーチフレーム)
12 Dタワー西新宿
13 懸垂鋼板が空に漂うKAIT広場
15 CLT二方向フラットスラブ -木の美しさを活かした環境型ターミナルの設計を通してー
24 閖上の掘立柱-震災後に嵩上げされた堤防と共存するオフィス-
29 まれびとの家「伝統Xデジタルファブリケーションに構造的な価値付けをする」
38 HIROPPA「ありきたりな材料とローテクでつくられた上品な建築」
40 RYUBOKU HUTー-流木を構造体とした縄文建築-
受付NO 応募作品名
6 ロッドネットで織物表現-桐生ガススポーツセンター(桐生市民体育館)-
14 FUJIHIMURO "氷穴"
18 Digital Garage "Pangaea" | Super Furniture
30 SQUWAVE〜木質パビリオンから始まる人と空間の相互作用~
以上4点につきましては、最終選考会には進めませんでしたが良作につき特別に入選とさせていただき、HPおよび冊子に作品を掲載いたします。
日時:2022年2月5日(土)14:00~18:00
会場:日本建築学会 建築会館ホール
2022年2月24日18:00~20:00
コーディネーター:神田順
パネリスト:加倉井正昭、橋本友希
会場:オンライン(Zoom)、Youtubeライブ配信(アーカイブあり)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第40回AFフォーラム参加希望」とご明記ください。
地盤の評価と不可分な杭の設計については、近年の技術開発、環境配慮や施工性、コストなど、判断要素も複雑です。地盤や基礎に関しては、建築基準法上の規制が上部構造に比べると少ないこともあり、設計者に委ねられる部分が多いとも言えます。その反面、現実には地震で杭が破損していたことが判明したり、支持地盤の確認不足など、課題も多く指摘されています。
今回は、基礎構造について長年研究を続けてこられたパイルフォーラムの加倉井正昭氏と、実務での経験から一般読者も対象とした著書「杭の深層」(建築画報社2021年11月)を出版された橋本友希氏をパネリストにお呼びします。杭基礎構造については、さまざまな課題がありますが、本フォーラムでは主に施工にかかわる諸課題を中心に加倉井・橋本の両氏にそれぞれのご経験を踏まえて議論いただきます。構造技術者のみならず、建築設計者も含めて自由に議論できる場となるよう、今回のフォーラムを企画しました。