A-Forum e-mail magazine no.80 (14-12-2020)

実大免震試験施設の設置に向けて

今の社会は自給自足ではなく、基本的に分業で成り立っている。分業は衣食住などの身近なところにもあるが、航空機産業、自動車産業、コンピュータ産業などの先端産業も分業で成り立ち、これらを支える多くの産業、相対的に小さな工業製品が並列的かつ直列的に組み合わされて一つの大きな工業製品が組み立てられている。

土木構造物・建築構造物も同様であり、全体構造物の性能は、設計の良否と施工の良否だけでなく、使われる個々の材料、部材、製品の性能によって決まる。今の社会で、約束通りの性能を発揮するように、一つ一つの材料、部材、製品を出荷することは社会の一員として最低の条件であり、生産者の持つべき大きな責任である。

ここで、食品、携帯電話などの電子製品、自動車などの工業製品は、これらを購入した直後に使用者によって性能が確認されるが、土木構造物・建築構造物の耐震性は竣工直後に確認することはできず、大地震が起こるまで性能不足は顕在化しない。耐震分野の産業は、この点でその他の産業と大きく状況が異なる。部分を受け持つ担当者や企業が、大地震時に構造物全体の揺れる姿をイメージしないまま、個々の仕事を進めている場合に問題が起きやすい。これらの担当者や企業は、製品に関する約束を守るだけでなく、将来に襲ってくる大地震時の構造物の耐震性能を“自らが支えているという覚悟”が必要である。

免震部材・制振部材の試験機は各生産工場の中に設置されており、この数年で試験データの書き換え事件が3回顕在化した。書き換えは各社とも開発の頃の20年前から行っていたが、この方法は巧妙であり、製品を受け入れる側の技術者による生産工場の立ち合い検査によって発見することはできなかった。具体的な建設工事が進んでいる中で、立ち合い検査は行われるが、工場において目の前の製品にダメを出すと、その工事に使われる製品全体に問題が広がり、工事そのものが止まってしまう恐れがある。確かめようがないが、立ち合い検査が儀式的になっていたこともありうる。検査そのものが性善説によって行われていたことも遠因であるが、生産者の自己試験に頼り、製品そのものの信頼性を高める努力を怠っていた日本の製品検査の仕組みに問題があったことは間違いない。

日本学術会議の土木工学・建築学委員会(委員長:米田雅子)はこの問題を深刻にとらえ、日本の免震・制振技術の健全な発展を推進する必要性の観点から、2019年1月15日に日本学術会議 公開シンポジウム「免震・制振データ改ざんの背景と信頼回復への道筋」を開催した。この真剣な議論を経て、2019年4月16日に提言「免震・制振のデータ改ざん問題と 信頼回復への対策」を纏めて発表した。

日本免震構造協会は社会を揺るがしたこの問題に真剣に取り組んでおり、これに対処するため「免震・制振材料問題対応委員会」を設置し、この傘下の「三軸大型動的載荷試験施設設立部会」(部会長:細澤治)の検討結果をもとに、シンポジウム<人命保護から機能継続の時代「国土強靱化に応える確かな土木建築の免震・制振構造の展開」-健全な技術発展と普及を支える実大動的試験施設を設立しよう->を2020年9月14日に開催した。これを契機にして「実大免震試験施設」の具体的な設立に兆しが見えてきている。

免震構造は、構造物自体が地震時に変形を起こして歪み・損傷することを減じるために、身代わりになって大きな変形を受け持つ免震部材の存在によって成り立つ。橋梁の場合では橋脚の高さによるがほとんどの二方向水平変形を免震部材が受けもち、中低層免震建築の場合は90%以上の二方向水平変形を免震部材が受け持ち、超高層免震の場合は約半分の二方向水平変形を免震部材が受け持つ。制振構造の場合は、骨組そのものが損傷する代わりに、制振部材が地震時の入力エネルギーを一手に吸収する。

これらの免震部材・制振部材の大地震時の挙動を把握することが非常に重要であり、中小地震時に相当する小さな領域の試験では真の姿は捉えられない。大地震時の挙動を把握できる実大免震試験機は必須の施設であり、これからの新しい免震部材・制振部材の開発も期待される。

我が国に実大免震試験施設を設立することには、製品検査以上の大きな意義と目的がある。実大免震試験施設が設立された暁には、メーカーの出荷試験だけに頼らず、この試験施設を用いて、免震構造・制振構造に用いる部材の大地震時の性能を明らかにすることに力をいれ、日本の免震・制振技術を確かな技術として発展し普及させる必要がある。上にも述べたが、新しい技術開発も期待される。我々は、地震災害軽減だけでなく、大地震後の社会活動の低下を極力防ぐために、今後とも努力を続けなければならない。

(AW)


日本学術会議主催学術フォーラム・第11回防災学術連携シンポジウム

東日本大震災からの十年とこれからー58学会、防災学術連携体の活動ー
“10 Years Memorial and Beyond Great East Japan Earthquake Disaster” 58 Academic Societies and Japan Academic Network for Disaster Reduction

2011年東日本大震災の甚大な被害から十年が過ぎる。この期間にも日本の各地で多くの自然災害が発生した。これらの災害について、多くの学会は調査研究、記録、提言、支援などを続けてきた。大震災後10年を迎えるにあたり、防災学術連携体の各構成学会と防災減災学術連携委員会の委員が、東日本大震災の経験とその後の活動への展開を振り返り、今後の取り組みについて発表する。同時に、防災学術連携体の前身である「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会」の30学会共同声明(2012年5月)を振り返り、今後の防災・減災、学会連携について議論する。

詳細はこちら

日時:2021年1月14日(木)10:00~18:30
会場:東京医科歯科大学 鈴木章夫記念講堂 (JR,東京メトロ,御茶ノ水駅下車3分)
主催:日本学術会議 防災減災学術連携委員会、土木工学・建築学委員会、防災学術連携体(58学会)
参加費:無料  
定員:定員:150名(会場:500名の定員を1/3に制限しています),1000名(オンライン)
申込み方法:以下のURLをクリックして参加申し込みをお願いします。
https://ws.formzu.net/fgen/S16396674/


★2020/12/26~2021/1/4まで冬季休館となります★
和田章 強・用・美 満たす素直な建築を 建設通信新聞 2020/11/11
神田 順  まちの中の建築スケッチ 第37回港区立伝統文化交流館—建物を使い続ける意味—」/住まいマガジンびお
金田勝徳 「連載 アントニン・レーモンドの『リーダーズ・ダイジェスト東京支社』 RD「構造論争」・再考 ― 構造設計者から ―」  近代建築 2020年9月号、10月号