A-Forum e-mail magazine no.73(14-04-2020)

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2020年東京オリンピック、パラリンピック開催の延期

20世紀後半の約50年間、トヨタコロナという乗用車が車市場を賑わし、私が初めて手にした車もコロナの中古車であった。今年1月中旬の新聞で初めて「新型コロナ」の文字を目にした時、迂闊にもあの懐かしいコロナがモデルを一新して、再デビューするのかと間違えた。その時、その新型コロナウイルスがまさかこれほど世界を恐怖と混乱に陥れるとは想像もしなかった。

それ以降、瞬く間にマスメディアには、パンデミック、オーバーシュート、クラスター、ロックダウンなどの聞き慣れない言葉が溢れた。その後も団体活動や外出の自粛要請が繰り返され、最近では医療体制崩壊、命の選別、病院内は地獄絵図、国家非常事態宣言、緊急事態宣言など、まるで戦時下かと思わせるような言葉が飛び交ってる。これらのまさかは「想定内」という専門家からの声も聞こえるが、素人から見れば想定をはるかに超える事態であり、社会は恐怖に怯える日々を強いられている。これまでほとんど経験がなく、今後の展開を確率的に予測することも不可能なことが、人々の恐怖感を一層高めているのではないか。

そうした中でのオリンピック、パラリンピックの開催延期ニュースも、まさかの驚きであった。新聞で「2020年東京オリンピック開催中止か」の見出しを目にしたとき、そんなフェイクニュースも拡散しているのかと思った。それがフェイクではないと分かった時に、真っ先に想い浮かんだのが競技場や関連施設の工事に携わり、血の滲むような努力を続けていた多くの友人、知人の顔だった。とりわけご苦労が多かったのは、新国立競技場の建設プロジェックトだったのではないか。工事着工までにたどった異様な経緯が要因となって社会から多くの注目を集め、それを背にした建設プロジェクト関係者のご苦労は、並大抵ではなかったに違いない。その建設プロジェクトの中心的な立場で、工事を遂行してこられたAさんから、オリンピック・パラリンピック開催延期が決まった今の心境をお聞きすることができた。

案の定、プロジェクト遂行には、厳しい建設コストと工期の厳守が課せられたうえ、建設に関連する情報開示も極端に制限されていた。それらのことを完遂するために、社内の総力を結集したことは言うに及ばず、直接、間接を問わず多くの関係者の並々ならぬ協力、支援、我慢があったという。建設プロジェクトを推進する時に、多くの「協力、支援」が不可欠であることはよく耳にすることであり、私自身も何度も経験をしている。しかしそれに加えて「我慢」があったことに、このプロジェクトの特殊性が窺える。これまでとは違う苦労を他に漏らすことも相談することも許されないまま、大きなプレッシャーに耐え、我慢を重ねながら進められた工事現場の状況を想像することは容易ではない。

そうした努力が見事に実り、発注者が設定した竣工日(2020年4月末)を5ヵ月も早めた2019年11月末の竣工引き渡しを実現している。その竣工を前にした昨年7月末に、バッハ会長はじめとした各国のIOC委員が、オリンピック関連施設の建設工事視察のために来日した。その際、委員達から「これまでに、こんなに予定通り施設の建設が進められているオリンピックはなかった。日本の建設業界のマネージメント能力と技術はすばらしい」と称賛の声が上った。この時、Aさん達はやっと巨大なプロジェクトを成し遂げる日を間近にした達成感と充足感を実感することができたという。しかし関係者が本当に歓喜を味わえるのは、オリンピック・パラリンピックが無事開幕し、つつがなく成功裏に閉幕することを見届ける時として、その日を待ち望んでいたはずだった。そんな時に、開催延期が決定された。

Aさんは今、オリンピックが中止ではなく延期と決まったことで胸をなでおろし、世界情勢の現状を見れば延期は当然のことと受けとめている。また設計に1年、施工に3年という驚異的なスピードで工事を終わらせた直後から、準備期間を置く間もないまま様々なイベントが開催されていることに、一抹の不安がなかったわけではない。その不安感をこの1年の間に払拭できるのではとの期待もあるという。一方で、工事現場の最前線で厳しい作業を担った多くの人達の中には、延期の決定に「あの苦労は何だったのか」と思っている人も少なくないはずと、苦楽を共にした作業者達に思いを寄せる。 今回のオリンピック開催延期が、大会成功のための準備期間と考えれば、この1年数カ月間はあながち無駄な時間ではないように思える。世界が一日も早くコロナ禍を克服して、来年7月に開催されるオリンピック・パラリンピックを、世界の平和の祭典として心から楽しめることを願ってやまない。

(K.K.)


第32回 AF-Forum
世界遺産への道 ―レガシーとしての「代々木」を考える―


コーディネーター:斎藤公男
プレゼンテーション:
1) 山名善之(東京理科大学教授/美術史家)「世界遺産とは何か―その意義と現状」
2) 豊川斎赫(千葉工業大学准教授/建築史家)「「代々木」の世界遺産登録の課題」
3) 村田龍馬(村田龍馬設計所主催/構造家)「代々木」の耐震改修計画」

日時:2020年4月20日(月)18:00~

新型コロナウイルス感染症の影響により、開催延期が決定いたしましたのでお知らせいたします。
代替日時につきましては、決まり次第お知らせいたします。


AND賞設立記念シンポジウムにかえて

コロナウィルスの影響で4月4日に予定されていた「AND賞設立記念シンポジウム」は延期となり、斎藤公男による基調講演およびAND賞概説として、Youtubeにてライブ配信いたしました。多くの方にご視聴いただき、有難うございました。
「AND賞設立記念シンポジウム」につきましては改めてご案内をさしあげます。


基調講演:「アーキニアリング・デザインの世界」 斎藤公男(日本大学名誉教授/A-Forum代表)
本編のみ、字幕付きをUPしましたのでご視聴頂けますと幸いです。

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神田 順
まちの中の建築スケッチ 第29回「旧粕谷家住宅—住宅街の中の茅葺古民家—」/住まいマガジンびお