私が日本大学で教職にあたった約50年間(1963-2013)、建築の構造教育を通じてどのような人材を育成せんとしたのか?自身の回顧としてあらためてふり返ってみたい。
大学に入学した1957年の春、世界の建築界を揺るがす二つの国際コンペの最優秀案が発表された。ブラジリアの都市計画(L.コスタ)とシドニー・オペラハウス(J.ウッソン)である。同じ頃、革新的な構造表現をもった大きな波(1930-1950年代)が日本にも押し寄せていた。そうした時代の雰囲気が構造とデザインとの双方への関心を高まらせ、卒業研究に坪井義勝研究室の扉を叩くことを決意させたのであろう。構造デザインとは何かは答えのない問だった。坪井研に在籍していた3年間、特に3つの事柄が強く印象付けられ、その後のDNAとなった。第一にRCシェル、スペースフレーム、吊屋根といった「空間構造」の魅力的な世界。第2にB.フラーの広い哲学的思想と「ジオデシックドーム」「テンセグリティ」「宇宙船地球号」といった新しい技術的挑戦、そして第三に「代々木オリンピック競技場」の設計チームの一員として垣間みた構造家と建築家の協同や基本構想におけるデザイン・プロセスの有様である。
さらに2つの融合に心ひかれた。ひとつはB.フラーの革新的開発の全てが大学生との協同であること。つまり「研究は教育の場を通して社会とつながる」と。いまひとつは坪井先生がよく口にされていたこと、つまり「一つの設計をきちんとやれば一人の博士が誕生する位、設計と研究は一体と考えなくてはいけない」と。この二つの言葉は、私が大学に身を置こうと決意した時に描いた夢であり課題となった。つまり「教育・研究・設計」を有機的にいかに融合し、互いをいかに作用させるか、である。同時にたとえば、「空間と構造」「構造デザイン」「建築のための構造」「開発的研究」といったいくつかのキーワードは研究室の核を形成していった。「空間構造デザイン研究室」の名称の由縁である。
大学を中心とした学生に対する構造教育の場面は3つ。すなわち一つ目は構造力学、構造設計といった講義と構造実験を中心とした「学内の科目授業」。二つ目は学生(卒業生、ゼミ生)と大学院生・研究性を中心とし「研究室活動」。そして三つ目はさまざまな素材を使いながらリアルサイズの構造空間の制作に挑戦する「体験的野外学習」である。いま、在籍当時の私が考えていた「建築の構造」や「構造設計(者)」のための「人材育成」といった視点から、上記の諸場面で特に力を入れた事柄を述べてみたい。
2)「建築基礎」(1年前期)―ペーパーストラクチャー
最初に「形と力」「物が壊れること」をテーマにしたスライド講義。次に1枚の紙を用いた「小さな橋」をグループでデザイン・製作。翌週、各班で予想最大荷重を申告した後、全員の前で錘による載荷実験を行う。耐力だけでなくアイディアや造形も評価される。初年度の学生にとって、”Structure”に初めて向き合うエキサイティングな時間は貴重な刺激と体験となるはずだ。
3)「構造とデザイン」(2年後期)
かつては「構造デザイン」の名称で4年生から3年生へと移行してきた講義。建築と空間、空間・構造・力学のつながり、構造設計とは何か、その魅力と役割、構造技術の歴史、世界・日本の構造家群像、構造設計と構造デザイン、空間構造、発想から建設へ、といった諸相をできるだけ自身の見聞や体験を通して語る。スライドやDVD、アンケート紹介等をとり入れ”講演”にならないことを心がけた。多くの卒業生が進路選択に役立ったようだ。
2)実際のプロジェクトへの参加
研究と応用は研究室の生命であった。その成果は力ある講義(教育)につながってくる。とはいえ、大小さまざまな空間構造の設計・建設・機会が黙っていて舞込む訳でもない。まして実際のプロジェクトを研究テーマの土俵に持ち込むことははそう簡単ではない。常に猟犬の如く臭いを嗅ぎ、野を駆ける体力と切れ味鋭い刀を研いでいなければならない。「実際のモノをつくる」設計や現場には研究室のメンバーにできるだけ参加してもらった。その貴重な体験が建築や構造、設計や建設への思いを格段に高めるにちがいないと信じた。
日本建築学会主催の「親と子の建築講座」において数回、小学生の子供たちに“構造のしくみ”を教えた経緯から、大学生を対象とした「習志野ドーム」がスタートしたのは1993年頃である。空間と構造、形態と素材等の融合を意図したコンペの入選作をリアルサイズ(人が入れるスケール)で一日で製作するWSである。1997年の建築学会大会(関東)では、キャンパス内に多数の作品が展示され注目された。この継続的な活動に対して、IASS・Tsuboi Award(1997)、日本建築学会・教育賞(2007)が授与された。
「習志野ドーム」の成果を基に建築学会主催の「学生サマーセミナー(SSS)」がスタートしたのは2001年。20名をこえる著名な建築家と構造家による審査員も充実しており、海外からの約50名も加え200名をこえる参加者によって20数点の作品が一日で制作される。「建築の構造」への理解と興味がかき立てられ、「構造設計」の一端を実体験することができる。構造設計者の人材育成に寄与する重要な教育プログラムとして今後も継承されることが期待されよう。
(MS)
コーディネーター:神田順
パネリスト:高田毅士(東京大学 教授)、広田すみれ(東京都市大学 教授)
日時:2019年4月9日(火)17:30~
場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第27回AF参加希望」とご明記ください。
建築は安全な構造でなければいけない。そのために法や基準があって、専門家はその枠にそって業務を進める。そのことについてのテーマ設定は、A-Forumのフォーラムで今まで何度も扱ってきた。しかし、安全とは別の言い方をするとリスクの十分少ない状態であり、リスクをしっかり見すえて考えることで新しいものが見えてくるのではないかというのが、今回のフォーラムの趣旨である。
どう語るか、すなわちリスク・コミュニケーションのテーマで長く研究に携わっているお二人をパネリストとしてお呼びした。
高田毅士氏は、技術説明学を展開されている。海外では、リスクを確率に基づく概念と捉え、それにどう対応するかが設計や防災の問題になっている。特に原子力など先端技術の世界では、実務も研究もリスク評価やリスク・マネージメントが中心課題である。残念ながら、我が国では専門家に確定的な危険状況を語らせて、確率的な評価をもとにした取り組みが社会的に十分認知されていないのは、合理的と言えない。
広田すみれ氏は、社会心理学の視点から、確率そのものの人の捉え方についてお話しがいただけると期待している。どのくらい安全かと語るのと、どのくらい危険かと語るのでは、心への響き方が違う。それは認識の差にもなり、行動の差になって現れるであろう。 建築に関わる関係者が、建築構造のリスクを、中でも地震災害に関わるリスクを共通に認識できるようになると、性能設計も質的進展が期待できるのではないか。
構造設計者8人がアトリエ構造設計事務所の仕事について語ります。
詳細はこちら
開催日:2019年3月1日(金)
時間:13:30開場、14:00~18:00セミナー
場所:日本大学理工学部1号館6階CSTホール
住所:東京都千代田区神田駿河台1-8-14
主催:アトリエ構造設計事務所有志
登壇者:横山太郎、多田脩二、鈴木啓、名和研二、山田憲明、坂田涼太郎、大野博史、田尾玄秀、木下洋介、村田龍馬
日時:2019年7月5日(金)9:30~18:30
開催場所:東大寺総合文化センター (小ホール)(奈良市水門町 100 番地)
詳細:PDF
お申込み:http://www.jssc.or.jp/より、参加登録書をダウンロードの上、メール添付にて事前に お申し込みください。
問合せ先:日本鋼構造協会「日中韓-高層建築フォーラム」係
*A-Forumでは申し込み受け付けを行っておりません。
本フォーラムは、「CTBUH(Council on Tall Buildings and Urban Habitat):高層ビル・都市居住協議会」のアジアにおける活動の一環として、中国、韓国、日本の学識経験者、構造エンジニアが中心に参加している高層建築に関する国際会議です。2014 年に上海で開始されて以来、2015 年(ソウル)、2016 年(東京)、2017 年(重慶)、 2018 年(釜山)と、3カ国の持ち回りで毎年開催されており、今年で6回目を数えます。
今回のフォーラムでは、中国からはコンクリート充填鋼管構造、連結超高層、北京に昨年完成した「China Zun Tower」(528m)の先端施工技術等について、韓国からは制振デバイスを用いたレトロフィット、超高層メガブレース架構、合成コアウォールシステム等について、興味深い講演が予定されています。また、日本からはそれぞれに特徴のある制振技術を有する3件の超高層建築の設計・施工事例について発表が行われます。
各講演はいずれも超高層建築の最新技術に関するものであり、特に中国、韓国のエンジニア、研究者から直接説明を聞ける貴重な機会となりますので、多くの方にご参加いただけることを期待しています。