A-Forum e-mail magazine no.19(14-02-2019)

原子力事故への責任


 

——8年が過ぎた——

東日本大震災から8年が過ぎた。「原子力事故・爆発の関係者は誰なのか」について考えねばならない。原子力発電に限らず,どのようなプロジェクトでも商売でも,うまく進んでいるときには,私も関係していると言って関係者は次々に増えていく。一方,大きな事故が起きたり,商売がうまくいかないときには,これに関係していると言う人は次々に減っていく。明らかに関与していたはずの人までそっぽを向くようになる。

 耐震工学を学び,建築に関わり,東京で電気を使ってきた一人として,2011年3月の福島事故に,私は無関係ですとは言えない。大学で30 年間,耐震設計について講義をしてきて,津波の怖さを語ったことは一度もない。湯水の如く使っていた電気がどこで作られ,どのように運ばれてきたかなどについて無頓着だった。「自らの至らなさ」にがっかりする。

 福島の事故の前の原子力発電所の耐震審査基準は8 章で構成されていたが,「津波」の単語は最後の章の最後の節に一度出てくるだけである。現在は,「耐震基準」と「津波基準」はほぼ同じ量で丁寧に書かれている。

 以前の基準はホームページなどで公開されていたから,2011 年より前に読み,検討することもできた。「津波」への対策が不足していることを指摘することもできたはずである。事故や爆発が起きてから,津波対策が不十分だったと指摘するのでは遅い。

  ——及ばない想像力——

 関係した人々という意味では,国の基準を作り,個々の原子力発電所の安全審査をしてきた学識研究者をはじめとして,これらの基準に従って設計を進めてきた原子力発電に関わる技術者,設計図に従い原子力発電所を作り,施工してきた技術者などの全員は,外部にいる人々に比べ関与の度合いが大きいことは間違いない。国の基準が厳しく書かれていればいるほど,設計者や企業はこの基準を満足させることに真剣になり,基準に書かれていない別の事象や事故について独自に発想し,これについても安全性を高めようとする意欲がなくなってくる。このように,関係の度合いに強弱はあるが,すべての人々に想像力が不足していた。人類の歴史上,起きたことのないことに,人間の想像力は及びにくい。簡単に解決できない大問題である。

 コンクリートの要塞のような原子力発電所は,津波の水圧で壊れることはないように見え,津波を軽視していたのだと思う。起きてみてわかったことだが,厚いコンクリート壁で囲まれた原子力発電施設には海水の侵入経路はいくらでもある。東日本大震災のとき,福島の原子力発電所だけでなく,東北電力の女川原子力発電所でも津波の海水は中に入っている。

 この発電所には津波対策がされていたと言われている。このときに,津波対策の重要性を他の原子力発電所の関係者に伝えることはできなかったのかと思う。組織を超えた自由な議論が行われていなかったことが残念である。

 ラジオや携帯電話を風呂桶に落とせば使えなくなることは子供でも知っている。電気設備は水に弱い。東京や大阪のビルでは電気設備を地下に設置することがよくあり,豪雨の水が地下室に侵入してビルの機能が止まったことは以前にも起きている。一般のビルで電気室を二階以上の階に設ける設計はすでに行われていた。この経験を,原子力施設に反映することはできたように思う。土木学会が指摘した14mの高さの津波そのものを防ぐために防潮堤を作るのは大金が必要だったかもしれない。ただ,非常用発電設備と配電盤を丘の上に作ることは十分可能だったはずである。要するに想像力が足りなかったというしかない。

——自由かつ真剣な議論——

 明治から150年の間に技術が進歩し研究が細分化され,深く難しい議論が同じ分野の中で行われるようになってきた。どの分野でも,研究者が閉鎖的になり,専門外の研究者が素人のような質問を投げかけると,そんなことも知らないのかという目で見る。他の分野との自由な議論が行われなくなってきたことに,大きな問題がある。限られた分野の中でのみ議論していると,都合の悪いことを話題にする人がいなくなってしまう。

 人間が作った構造物の最終的に壊れる姿と抵抗力の限界について,神は答えを知っている。社会に構造物や原子力発電所などの大きなシステムを作ることは,本当は神にしかできないことである。我々,研究者や技術者は神に祈りつつ,神のかわりに設計の仕事をさせていただいていると思わなければならない。神のみが知る正しい壊れ方を想定するためには,異なる分野の研究者や技術者との自由かつ真剣な議論が必要である。

(AW)


第27回AF-Forum

リスクをどう語るか


コーディネーター:神田順
パネリスト:高田毅士(東京大学 教授)、広田すみれ(東京都市大学 教授)

日時:2019年4月9日(火)17:30~
場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第27回AF参加希望」とご明記ください。

建築は安全な構造でなければいけない。そのために法や基準があって、専門家はその枠にそって業務を進める。そのことについてのテーマ設定は、A-Forumのフォーラムで今まで何度も扱ってきた。しかし、安全とは別の言い方をするとリスクの十分少ない状態であり、リスクをしっかり見すえて考えることで新しいものが見えてくるのではないかというのが、今回のフォーラムの趣旨である。

どう語るか、すなわちリスク・コミュニケーションのテーマで長く研究に携わっているお二人をパネリストとしてお呼びした。

高田毅士氏は、技術説明学を展開されている。海外では、リスクを確率に基づく概念と捉え、それにどう対応するかが設計や防災の問題になっている。特に原子力など先端技術の世界では、実務も研究もリスク評価やリスク・マネージメントが中心課題である。残念ながら、我が国では専門家に確定的な危険状況を語らせて、確率的な評価をもとにした取り組みが社会的に十分認知されていないのは、合理的と言えない。

 広田すみれ氏は、社会心理学の視点から、確率そのものの人の捉え方についてお話しがいただけると期待している。どのくらい安全かと語るのと、どのくらい危険かと語るのでは、心への響き方が違う。それは認識の差にもなり、行動の差になって現れるであろう。  建築に関わる関係者が、建築構造のリスクを、中でも地震災害に関わるリスクを共通に認識できるようになると、性能設計も質的進展が期待できるのではないか。


日本デザイン協会 日本建築家協会関東甲信越支部デザイン部会 共催 公開トークイベント

日本型規制社会と知的生産―イタリアン・セオリーから学ぶもの

いわゆる知的生産者(一般に言う設計者、デザイナー、コンサルタントなどの専門家)の仕事を、経済性の観点だけで測り、規制する日本社会の体質はどこから来ているのか。それは国際的に見ても偏芯していないか。現代イタリア思想における政治への思考を起点として、これからの専門家活性化の方法を探る

登壇:神田順、連健夫、大倉冨美雄、山本想太郎

日時:2019年2月26日(火)18:15~20:00 会 場:JIA館1F 建築家クラブ(東京都渋谷区神宮前2-3-18)
参加費:一般1000円、学生500円(飲み物代を含みます)
持ち物:なし 定 員:50名。申込多数の場合は先着順。
ダウンロード用PDF
お申込み:http://atyam.net/jia.html
*A-Forumでは申し込み受け付けを行っておりません。


日本学術会議主催学術フォーラム / 第7回防災学術連携シンポジウム
平成30年夏に複合的に連続発生した自然災害と学会調査報告

日時:2019年3月12日(火) 10:00~17:30
開催場所:日本学術会議講堂(東京都港区六本木7丁目22番地34号)
お申込み:https://ws.formzu.net/fgen/S44714662/
*A-Forumでは申し込み受け付けを行っておりません。
ダウンロード用PDF
詳細はこちら

平成30年の夏から秋にかけて、日本列島を自然災害が次々と襲った。平成30年6月18日大阪府北部地震が起こり、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)は広い範囲に同時多発的な大雨と土砂災害をもたらした。その後の記録的猛暑と連続して発生した台風、9月4日に上陸した台風21号は、百の観測点で強風記録を塗り替え、高潮と強風で関西国際空港を孤立させた。9月6日の北海道胆振東部地震は震度7を記録し、山地崩落や火力発電所の被災による北海道全域のブラックアウトを引き起こした。
防災学術連携体、56学会と日本学術会議は、これらの災害に対応して、ホームページに特設ページを設け、緊急集会、市民への緊急メッセージ、緊急報告会を開催し、各学会の情報を発信すると共に学会間の情報共有を図ってきた。
本シンポジウムでは、主に平成30年の夏に複合的に連続発生したこれらの自然災害に焦点を当て、各学会の調査報告を行う。さらに、今後、連鎖する気象災害にどう備えていけば良いのか、地震と気象災害などの複合災害にどう備えれば良いのかを議論する。