和田章
学生時代、骨組構造には静定構造と不静定構造があること、そして色々な骨組の解き方を一つずつ学んだ。静定構造は力の釣り合いだけを考えれば解くことができ、変形に注目する必要はなかった。
不静定構造は言うまでもなく変形を考慮しなければ解けない。はじめに、静定構造になるまで一部の部材端の連続を外したり、支点を解放したりする。仮想仕事法などを用いて、連続を外した部分や解放した支点に作用する不静定力と変形の関係を求め、これらの不静定力を未知数として、外した部分に生じる変位がゼロになる条件で連立方程式を解くことによりこれらの力を求めることができ、全体の力の流れと変形(撓み)が把握できるという方法である。
欧米で1960年代にコンピュータを用いた骨組解析法が実用化されていくなかで、応力法が良いか、変位法が良いかの盛んな議論があった。上記の方法は不静定力を変数にして方程式を組み立てるので応力法に属し、構造技術者のセンスや構造物への理解が必須であった。これに比べ、変位法は全ての接点の変位を未知数として力の釣り合い方程式を立てるので、物量作戦的であるが単純な方法である。コンピュータの性能向上により汎用的になり、良いことではないが、力学的センスのない人でも構造解析ができるようになってしまった。
もう一度、仮想仕事式、単位荷重法を思い出して欲しい。
ここで、Dは知りたい変位・回転角など、N、V、Mはそれぞれ各部材内の軸力分布、剪断力分布、曲げモーメント分布、UとAはそれぞれ「単位荷重時」、「作用させた外荷重時」を示す。αs は剪断変形割増係数、積分は一本の部材だけでなく、構造物全体の部材について行う。
この方法により、ある骨組構造の「外荷重を受ける応力状態」が把握できていて、ある点に生じる変形や回転角を知りたいとき「知りたい変形や回転角と同じ成分の単位荷重をその点に与えた応力状態」を同様に準備することができれば、両者の結果を用いて上の計算を行うことができる。そして知りたい変形や回転角が求まるだけでなく、その点の変形への各部材の変形の寄与量を知ることができる。
Prof. S. P. Timoshenkoは教科書の中で、構造物が静定であっても不静定であっても、この方法は使えると言っている。

ただ、最後の三行に書かれているように、骨組全体の応力状態が把握できている場合に成り立つ方法であるため、全体が解けていない段階では使えない。学生時代に習ったがこの理論は使えないと思い、多くの人も仮想仕事の原理や単位荷重法をそのままお蔵入りさせてしまっている。時代は変わり、ティモシェンコの時代にはできなかったことが、コンピュータ解析を用いて容易にできるようになった。もう一つ、ティモシェンコはこの方法の汎用性に触れ、2点間の相対変位を知ることもできると書いている。多層構造において、ある層の上下階に逆向きの単位水平力を与えれば、層間変位の要因分析にも使える。
コンピュータ解析を行えば、各部材に生じる軸力、曲げモーメント、剪断力が簡単に求まる。これらを各部材の強さと比較することにより、適切な部材断面の設計を詰めていくことが行われている。計算結果から、地震力や強風を受ける建物の水平変形なども同時に知ることができる。ただし、この変形量は多くの部材の変形の累積・積分値として生じているので、どの部材の変形が頂部の変形に影響を与えているか(各部材の寄与量)が分からない。計算結果を調べても、部材断面をどの程度変更すれば注目している点の変形を減らせるか、緩められるかなどかも分からない。
ここで単位荷重法が役に立つ。上記の二つの荷重ケースの応力状態を計算すれば、注目する点の変位について、各部材の寄与量を求める積分が容易に行える。シカゴに本拠地を持つSOMのメンバーはこのことに早くに気づき、上に述べた積分を用いて、超高層ビルの変形設計の方法を確立していた。これは長く極秘になっていたが、1990年以降から米国の他の事務所でも使われるようになった。
1990年8月日米構造設計者会議がハワイで開かれ、小生も同種の考えを纏めて発表した。同じレポートを2025年9月29日のA-Forumの会で発表させていただいた。若干大胆な仮定を設けているが面白くとても便利な方法なので、是非活用していただきたい。
1990年の論文、A-Forumの会に用いたパワーポイントと当日のYouTube動画、皆様に配布したエクセルの2つの例を載せる。2つのエクセルシートの基本は同じであり、多くの部材の骨組みにも拡張して使える。是非確かめて使って欲しい。

A-Forumのフレンドの皆様、防災学術連携体の発足から10年になります。 明治の初期に欧米の学問が次々に日本に導入され、それから160年近くが過ぎました。明治12年に土木、電信、機械、造家、化学、鉱山、冶金の分野を含んで工学会が設立されました。ここから初めに飛び出したのは造家学会であり、今では日本建築学会として140年の歴史を誇っています。同じようにほとんどの学会や協会が飛び出し、小さな学会も設立され、今に至っています。現在の社会は多くの学問や科学・技術に複雑に支えられているにもかかわらず、大事な議論はそれぞれの分野の中で深められがちです。これが、2011年の東日本大震災の被害を大きくした一つの原因だと言えると思います。東日本大震災後に、理学・工学以外の分野も含み63学協会が協力して一般社団法人防災学術連携体の活動が続けられています。10周年を迎えるにあたり、次のようなシンポジウムを開催いたします。参加費無料ですので、ぜひお申し込みの上ご参加ください。(和田 章)
主催:一般社団法人 防災学術連携体
日時:2026年1月9日(金) 10:30~18:30
開催:Zoom WebinarとYouTube配信の併用
Zoom参加申込:https://ws.formzu.net/fgen/S59071761/
YouTube:URLは1月に公開予定(YouTubeでのご視聴は申し込み不要です)
ご案内PDF
防災学術連携体は、2016年1月9日に「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会」を母体にして設立され、防災に関する63学協会のネットワークとして、日本学術会議と連携して活動し、10年目を迎えます。
10年の節目にあたり、学協会の連携活動の成果と課題を振り返るとともに、設立の基本に立ち返って、地球環境や人間社会の変容とともに自然災害が変化する中で、防災研究はどうあるべきか、今後の学協会の連携に期待される役割は何かを議論したいと思います。