A-Forum e-mail magazine no.137
(10-10-2025)
環境学始動から四半世紀
神田 順
今年の夏は、全国各地で、高温記録が更新される酷暑が続いた。地球温暖化から気候危機と呼ばれるようになり、未来の暮しが気になる。東京を捨てて、簡単に涼しいところへ引っ越すわけにもいかない。いままでも、環境問題について触れては来たが、東京大学で新領域創成科学研究科が発足したときの一つの領域、環境学について、直接に紹介していなかったように思う。1999年に、基盤科学研究系4専攻、先端生命科学研究系1専攻、環境学研究系1専攻の3系6専攻の新しい研究科が柏キャンパスに誕生した。環境学が新しい学問領域として、他大学でも組織替えなどで、生まれた時期である。
東京大学の中でも、環境学は大学院組織の一部であり、学部はまだ無い。当初、研究科長は社会学の似田貝香門(1943-2023)、環境学専攻長は海岸工学の磯部雅彦、社会文化環境学大講座主任(後に専攻)には筆者が任に着いた。3人とも、社会文化環境学大講座所属である。学問領域の進化として、神学から哲学、そこから理学そして工学、今や、工学から環境学の誕生と位置付けて、発足したのである。
工学出身が多いこともあり、環境工学と環境学の違いを、視点や動機から論ずるも、あまり意識されないことも少なくなかった。構造安全の問題を、水や空気の安全と同様に捉え、自然災害の対応なども社会制度と一体化して論ずる必要性から、工学の一分野でなく、環境学の一分野として考えることを主張した。産業振興の基盤となった工学にかわり、持続可能の基盤としての環境学の役割を期待するのである。
2001年に社会文化環境から環境学修士1期生を送り出し、筆者は2012年には定年となり退職した。その後は、2011年の東日本大震災を機に、岩手県釜石市唐丹町において震災復興まちづくりの活動を展開しているのも、環境学の実践という思いである。
その1期生が、我々の描いた新しい環境学をどのように展開しているか紹介したい。
一人は、岐阜出身で、コンサル業務などに従事した後、2008年に岐阜県にUターン。今日まで、郡上市石徹白でまちづくりを展開している平野彰秀。80世帯、200人弱の小さな山間集落で、住民主体の小水力発電事業を立ち上げ、石徹白洋品店という屋号で端切れの出ない服作りの事業を展開し、NPO地域再生機構の副理事長として活躍している。釜石市唐丹町のまちづくりにかかわろうという筆者にとって、手本のような存在である。
もう一人は、大阪大学の原圭史郎。一時、経産省の専門官も務め、大学教授ということから、平野とは全く別の形で、環境学の実践の取り組みが見られる。フューチャー・デザイン研究の対象として、2015年から岩手県矢巾町の公共政策にかかわっている。人口26,000人は、釜石市に近い数で、けっこう大きな自治体である。岩手医科大のキャンパスがあるとはいえ、特段の産業構造があるとも思えないが、持続可能社会が見えるようである。2060年の町民を想像して、どのようなことが町としてすべきことかを論ずる中から、政策が生まれ、意思決定がなされるという。町のHPによると、そもそものまちの将来を考えるきっかけは、水道事業のあり方の議論からで、大阪大の原研究室とつながったのだという。
農業や漁業といった食の生産を基本としたまちの持続可能性は、まさに、自然とどのようにかかわりながら、社会を構成して行くかという問題である。石徹白も矢巾町も唐丹町も、縄文遺跡のあるということから、住みやすい自然環境なのであることは間違えない。
すでに四半世紀を経たものの、まだ学問領域として社会に認められているかこころもとない。もちろん環境学が、新しい研究教育領域として意味あると今も思う。その成果が社会にどのように展開するかである。東大環境学1期生たちの活躍に、この先、50年、100年を想像し、さらには気候危機への対応を期待する。
第41回AB研「象徴・装飾・風景」向山裕二
日時:2025年10月25日(土)14:00~
コーディネータ:布野修司+安藤正雄+斎藤公男
司会 山本至(
itaru/taku/COL. )
「象徴・装飾・風景」向山裕二(
ULTRA STUDIO )
討論
コメンテーター:畠山鉄生(
アーキペラゴアーキテクツスタジオ )
お申込み(リンク先にて会場参加orZoom参加を選択してください。):
https://ws.formzu.net/dist/S42040957/
YouTube:
https://youtu.be/43tcY48-fFg
VIDEO
<主旨>
町並みと建築、地形と生活が一体となった新たな風景を生み出すことができないでしょうか。場所のコンテクストを拡大解釈、変形することで、それを新たな「自然」として風景を更新し、生活に発見をもたらすことを試みたいと思います。
私たちは活動の当初より「象徴的なもの」と「装飾的なもの」を追い求めてきました。ここでいう象徴的なものとは、シンプルな幾何学からなる空間やかたちで、抽象的な空間の骨格をつくり出す存在です。一方で装飾的なものとは、色やディテール、付加的なパターンなどで、人々の感情を刺激したり、愛着を生むきっかけになる存在です。
私たちはいま、東京の集合住宅のプロジェクトをとおして、都市と建築の新たな関係を探っています。地形や町並みを取り込んだ全体の構成に対して、象徴的な円筒=螺旋階段を挿入することで、フロアどうしに新たな関係が生まれます。外壁には都市の言語の再解釈として、装飾的な要素を取り付けています。このような複合体が、その都市の特徴を引き継ぎながら、新たな風景を生み出すのではないかと考えています。
(向山裕二)
向山 裕二(むかいやま ゆうじ)
1985年広島県生まれ。2008年に東京大学工学部建築学科卒後、渡邉健介建築設計事務所に勤務。2011年、スイス連邦工科大学チューリッヒ校交換留学。2012年、クリスチャン・ケレツにてインターンシップ。2013年に東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。2015年、ドレル・ゴットメ・タネ・アーキテクツ勤務。2020年より上野有里紗、笹田侑志とウルトラスタジオを共同主宰。
Frame Awards 2021: Set Design of the Year、iF Design Award 2022: window display部門、東京建築士会・住宅建築賞2024入賞、第51回東京建築賞・新人賞など。
アーキニアリング・デザイン展2025「『建築とエンジニアリングの融合』を再考する」
日時:2025年11月6日(木)~11月14日(金)
会場:建築博物館ギャラリー
第5回AND賞入選作品の模型やパネルの展示を中心とし、それに併せて今年4月から開催されている2025年大阪・関西万博のパビリオンなどの作品を紹介することで、我々が目指すべき建築とエンジニアリングの融合の諸相について再考する契機としたい。
構造デザインフォーラム2025(第30回) 大阪・関西万博2025をめぐって
日時:2025年11月12日(水)15:00~18:00
会場:建築会館会議室
講演者:喜多村淳(太陽工業)/萩生田秀之(KAP)/鷹羽直樹(清水建設)/金子寛明(鹿島建設)/染谷健太(太陽工業)/高橋寛和(コウゾウケイカクロナンナン)
モデレーター:斎藤公男(日本大学名誉教授)
司会・主旨説明:小倉史崇(竹中工務店/設計WG主査)
第59回AFフォーラム「止まらない建設工事費の高騰 ―今建築界に何が起こっているのか」
日時:2025年11月27日(木)18:00~
コーディネータ:金田勝徳
パネリスト:山田泰成(石本建築事務所)、齋藤誠(日本積算事務所協会)、高木健二(東京製鐵)
お申込み(リンク先にて参加方法を選択してください。):
https://ws.formzu.net/fgen/S72982294/
Youtube:
https://youtu.be/6JPFHtBlC00
VIDEO
近年の建設工事費の高騰によって、多くの建設計画が延期や大幅な変更を余儀なくされています。建設物価調査会のデータによると、建設物価は2021年ごろから急騰して、今年8月には2015年当時の1.4倍になっているとのことです。公共施設において知る限りの例をとると、中野サンプラザ・旧中野区役所跡地の再開発、国立劇場の再整備、練馬区立美術館・貫井図書館の建て替えなどの着工に目途が立っていないと聞きます。いずれも主な要因は、建設費高騰によるものされています。
また不動産経済研究所がまとめによると、都区内の新築マンションでは、2014年の平均分譲価格が6000万円であったのに対して、10年後の2024年には、約2倍近い1億1000万円を超えていると報告されています。こうしたマンションの分譲価格の異常な上昇の要因には、建設コストの高騰だけでなく、国内外からの投機目的の取引もあるとみた千代田区が、今年の7月、不動産協会に対して分譲の条件として「5年以内の転売禁止」の特約を付すことを要請しています。さらに、私達の身近な問題として、重要な設計業務の一環である工事予算の作成が非常に困難な状況にあります。
第59回A-Forumフォーラムでは、今、なぜこうした異常事態になっているのかを考え、併せてそれを解決するため対応策を考えることをテーマとして開催します。当日はパネリストに山田泰成氏(石本建築事務所)、齋藤誠氏(日本積算事務所協会)、高木健二氏(東京製鐵)お招きして、切迫した現状のお話を聞き、意見交換を行う予定です。多くの皆様のご参加をお待ちしております。
左:建設物価の動向(建設物価調査会)/右:10年で2倍近い分譲価格(不動産経済研究所)
Archi-Neering Design AWARD 2025 (第6回AND賞)
選考委員
福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)
日程
2025年10月10日(金) 募集開始
2025年12月10日(水) 23:00 応募締め切り
2025年12月20日(土) 一次選考会(非公開)
2025年12月24日(水) 一次選考通過者発表(A-Forumホームページ上にて公開)
2026年2月7日(土)14:00~ 最終選考会 ※Youtubeライブ配信およびアーカイブ配信あり/会場(予定):日本大学御茶ノ水校舎1号館CSTホール
2026年2月下旬(予定) 表彰式及び受賞講演会 ※Youtubeライブ配信およびアーカイブ配信あり/会場:A-Forum
応募作品の対象
2020年1月1日より2025年9月末日までに完成した国内作品、あるいは国内在住の設計者等による海外作品 とする。
応募資格
・個人(複数名も可)による応募とし、重賞も可とする。複数名で応募の場合は、それぞれの応募者が応募業績にどう関与したかを応募シートに明記する。
・一次選考を通過した場合、最終選考会(2026年2月7日(土))に参加し、プレゼンテーションを行う。
募集要項 応募シート
SNS
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