神田順
「ゲーテはすべてを言った」という本が芥川賞というので、多くの新聞に書評が取り上げられている。鈴木結生という若干23歳の青年が、ゲーテについての博識ぶりを発揮する物語だ。
実は、その前に坂本貴志の「ドイツ文化読本」を読んおり、その中で語られるゲーテが、ベートーベンやカントと同時代ということもあるし、今われわれの知るドイツの、あるいはヨーロッパの瑞々しさとか、エネルギーとかの源を感じさせて、気になっていたので、「ゲーテがすべてを言った」という表題に、惹かれてしまった。 主人公はゲーテ研究の第一人者の大学教授である。家族で食事に出たイタリアレストランで、妻が手に取った、ティーバッグのタグに書かれた言葉「Love does not confuse everything but mixes. Goethe」が気になり、ゲーテが言いそうな言葉だが、どこで言ったものか思い浮かばず、探し求めるというストーリである。
ゲーテのいろいろな言葉が、随所に登場し、また、大学教授の行動パターンや同僚とのやりとりも面白く楽しく読める。「ドイツ文化読本」でも紹介されているが、戯曲、小説、詩とあらゆる文芸に秀で、ワイマールでは大臣も務めたゲーテ。日本でも江戸の文化が花を開いていた時期に、戦争や革命でドラマチックに展開するヨーロッパ世界の、今も土台となっている文化のまさに中心に存在したことを思う。
多く書いているから、当然いろいろなことを言っており、「すべてを言った」ということも頷ける。ゲーテの頭の中には、すべてが詰まっていて、膨大な著作はAIそのものようにも想像する。
「すべてを言った」の中では、無断引用や曲解、捏造・盗用などで同僚教授が糾弾される場面も登場する。タグの言葉が、本当にゲーテの言った言葉との確証を得ないままに、公の場で、大学教授として、ゲーテの言葉だと言い切ること自体、倫理的に躊躇があったりもして、言葉を扱うことを業とするものにとっての本質的なところにも触れているのは、「若い著者なのに、そこまでわかるのか」と思わざるをえない。
大学院に入ったすぐくらいで、こんなにもゲーテについて、博識であることに読むほどに驚かされるのではあるが、今はAIの時代である。AIに検索を頼めば、何でも出てくる。博識を誇ることは意味がなくなってきているのかもしれない。もっともそれをどのように構成し、そこから何を生むのかということは人でなければできないということなのだろうが。フェイク情報が蔓延すると、AIも、何がフェイクで何が真実か見分けることが難しくなってくることを心配する。この本のように、引用を探して彷徨うのが多くの人間だ。しかも、その間に、ドイツ語が英語になり、日本語になると、意味が厳密に伝達されないが故に捏造に近づいたり、あるいは、場所や時間において、より相応しい表現になったりする。何やら、聖書や仏典にも通じる感想になってきた。ゲーテの頭脳はAIだという思いがする。
このようなことを頭の中で巡らしているときりがないので、「ドイツ文化読本」の中のゲーテの言葉を引用して、結びとする。
大聖堂の前に立ってこれを眺めた時、予期せぬ何という感情に私は襲われたことだろうか。安全かつ偉大なる印象によって私の心は充たされたが、しかし、この印象は、千の調和する部位から成り立つゆえに、味わい享受することはできても、決して認識し説明することはできないのだった。――ゲーテ「ドイツの建築芸術について(1772年)より
福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)
地球儀を見なくても分かるように中国は日本の隣の大きな国です。小生は数えきれない回数、多くの都市を訪れましたが、一度も行ったことがないという方もおられます。中国は日本の文化や文明のルーツですし、都市計画や建築の作り方を学んだ国でもあります。ぜひこの機会に元気な中国の元気な都市「上海」にいらしてください。
SEWC(Structural Engineers World Congress)は、第一回が1998年にサンフランシスコで開催され、第二回は2002年に横浜で開かれました。2023年には韓国のソウルで盛大に開かれ、コロナ騒ぎで滞っていた国際交流が元気に復活し、斎藤公男先生が素晴らしい基調講演をされました。
第9回は中国で最も魅力的な都市「上海」で開かれます。上海には、数年前に竣工した超高層建築「上海センター」があり、高さが632mです。中国に学ぶことは多くあります。
会議登録費は国際会議としては安価ですし、エコノミークラスなら、上海への往復は高くありません。是非、SEWC上海へのご参加をお待ちいたします。
日本からの基調講演は、川口健一先生とJSCA副会長の中塚光一様が行います。(和田 章)