神田順
辰年を迎えるにあたって、干支の龍(竜)のことを考えていた。12年周期は、木星の公転周期から来ているらしいが、その各年に動物をあてるのも良いとして、なぜ架空の龍が、しかも目立たない場所に置かれたのか、未だ謎は解けないままである。
中国には古来、四霊として麟鳳亀龍という言葉があるが、架空の動物なら麒麟や鳳凰でもよかったかもしれない。強い者を並べて龍虎という言葉もある。しかし、龍の持つ勢いやパワーは、虎を圧倒する。将棋で飛車が成った龍は、角の成った馬を圧倒する。力強いキール・アーチのキールは竜骨であり、登竜門という言葉もある。竜王は海神の意で、竜神は水の神の意と言う。あるいは、恐竜の化石は古くから見つかっていたので、龍は実在の動物と思われていたとの話もある。そんな辰の年が力強い年になるかと夢見ているうちに正月を迎えたところ、元旦の午後4時過ぎ、夢を覚まされた。
能登半島地震が発生し、津波警報が発出された。すぐ暗くなり被害の様子はわからないまま、翌日も新聞は休刊で、全体像が把握しづらい状況が長く続いた。JSCAの機関誌Structureが、この正月号で地震を特集し、中島淳一氏が「能登半島の群発地震」について書いている。かつて、松代の群発地震や伊豆の群発地震を経験しており、大地震の前兆とみなせるかどうかについては、全くわかっていないと解釈されている。能登半島の人びとも、地震の多いことに気にはなっていたであろうが、切迫性を感じていた人は多くなかったろう。
直下にマグニチュード7.6の地震が発生し、最大震度7となると、兵庫県南部地震並みの被害は避けられない。犠牲者の数は、不明者数が日々増加しており、500人になるかという状況である。なによりも、インフラの被害が激しく、救援活動は、過去の災害経験を積んできたとはいえ、困難を極めている様子が伝えられている。
建築物の倒壊を見せられて、専門家として突き付けられた問題への対応は、頭を悩ませる。耐震診断、耐震補強という工学的手段を持ってはいるものの、自分の住む家の耐震性がどの程度であるかを考えて、それに対して誰もがアクションを取る判断をするかどうかという問題である。地盤の評価も含めて、専門家の知識をもっと活用できるはずであるし、自治体としても、建築や家屋は社会資産であるとの認識にたって、必要な措置を講ずることを考えるということに尽きる。
そして、翌2日の午後5時過ぎには、羽田空港において着陸する日航機のエアバスが、滑走路上に居た海上保安庁の航空機ボンバルディアに衝突炎上という事故が発生した。幸い、日航機の乗員乗客は全員脱出できたというものの、震災につぐ人災で、亡くなった方々への哀悼に始まる、大変な年明けとなった。
地震については、いままでこうだったからというのが当てはまらない一方で、過去の経験をもとに知識が集約され、ある程度の予想はできるようになっている。人災についても、いままで事故がなかったから、このままで良いと言う「やりとりの不備」がシステムとしての不全を起こす。「慣れ」は、楽にすごすために必要な人間の行動パターンであるが、同時に「見落とし」による重大な過失を生じるもとにもなっている。膨大なエネルギーを使うことに慣れた社会、誰もが地球のどこにでも簡単に行けることに慣れた社会の人間どもを、龍はどんな思いで見ていることだろう。
福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)
受付NO 応募作品名
03 Hair room TOARU 建物の活動要素や今昔の風景、素材構法、環境性能、モノコトを建築的に組替え、多層的に混成する
05 一本足の家
07 TAC.Tの輪
09 SHIMZ CYCLE UNIT(シミズ サイクル ユニット)
10 ラジアルアンプハウス「空間に寄与する工芸的架構」
12 学ぶ、学び舎
19 警固竹友寮〜立体的にまちと繋がる「通り土間」のある住まいを実現するハイブリッド木造~
21 Iさんの避難観測所―危機への備えと遊びのための鋼製小規模人工土地―
28 木と鉄骨のレシプロカル格子梁と円環状縁梁による屋外回廊「わっか」
32 環境を制御するコンクリートダブルスキン-早稲田大学本庄高等学院体育館-