神田順
建築の耐震安全性に対して、機械に頼ることには何となくためらいがある。いざというときに予定通り動いてくれなかったら大変なことになるからであるが、そのリスクがどの程度か評価できれば実現性についての判断が可能になるとは思う。宇宙空間や月世界に居住するなどというときは、そもそも機械に頼らざるを得ないし、極寒気候の中では暖房なしに生活できないわけで、機械に頼ることがだんだん当たり前な社会になっていることも現実としてある。
免震装置は、剛性や減衰を調整することで、地震動に対して建築側のパッシブな対応である。制振装置は、現状は減衰を付加するパッシブなものも多いが、アクティブ制御も可能である。ただし大量生産品ではないので、建築に使ってその信頼性を実証することはなかなか難しい。エレベータやエスカレータは当たり前の建築の構成要素になっているが、機械制御ということになると、最近は電子制御ということでもあり、そういったものに身を任せるという感覚に抵抗があるのかもしれない。福島の原発事故も、津波に対しては、電源喪失という意味で、パッシブ防御もアクティブ防御も十分でなかった。
自動車の自動運転化が進んでいる。運転席に座ってハンドルに手を置いているだけで、電源を積んだ車という機械が、車線や前方視野を認識し、アクセルとブレーキを自動的に制御してくれる。そんな機械に身を任せるのは、ある種の快感でもあったりするが、ストレスも同時に感じている。建築や住宅の中でそのようなストレスを感じたくないが、飛行機の中では人任せ機械任せの安全性を受け入れているわけである。これからも、生活する中で、機械に安全性を委ねる時間が延びて行くことになるだろう。
自然が建築の能力を超えた力を発揮すると建築は倒壊する。そのようにして災害が生まれる。12年前の東日本の津波被害でも、28年前の神戸の地震被害でも、あるいは、火災や戦災でも、同じような悲しい光景を呈する。自然の発生する力を適切に評価できれば対応は可能となるが、アクティブ防御のリスクが十分に小さいことを、社会としてどう納得するか、もう少し時間がかかるのかも知れない。あるいは、パッシブを旨とすべしとわきまえることを選択すべきなのだろうか。
仮に戦争というような事態が起きれば、地下室やヘルメットなどパッシブな防御するしかないと思っていたところが、今の政府から、アクティブな敵基地攻撃能力というような言葉が飛び出した。思わず、耐震安全性をどう担保するかの連想に広がってしまった。
新型コロナウィルスは、人の移動を束縛し、人々が集うことを阻み、容赦なく人間関係を分断してきました。人間は、社会を脅かす災害に直面した時、それが地震などの自然災害ならば、災害を契機として絆を深め、寄り添いながら立ち向かうこともできます。ところが新型コロナ禍では、医療や社会的なインフラなどに関わる人々の献身的な行為に感謝をしながらも、自らはなすすべもなくひたすら感染拡大を恐れ、断絶を強いられるばかりでした。
一方、それまで政府によって唱えられていた「働き方改革」推進のための「働き方改革関連法」が、新型コロナウィルス感染の報に初めて接した2019年12月と同じ年の4月から、順次施行されました。厚労省は、この法制定の目的を「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現」としています*)。これらの法施行後間もなく、新型コロナウィルスのパンデミックが、在宅勤務、リモートワーク、テレワークなどの働き方を生み出しました。はからずも「働き方改革」が推進されたように見えます。
その新型コロナも、今年(2023年)5月の連休明けには感染の危険度が、5類に引き下げられるとのことです。大丈夫か?と疑いながらも、コロナ禍がやっと沈静化に向かうことが期待されます。これまで3年余りの間、私たちは感染者数の増減が繰り返される度にピークが高くなるグラフに驚き、医療機関や保健所機能崩壊の警鐘に脅え、馴染みのお店のシャッターに貼られた「閉店のお知らせ」に胸を痛めてきました。こうして何度もパニックの瀬戸際に追い込まれながら、社会情勢や生活環境も多くの変化を遂げてきました。
コロナ禍の中から生み出された多様な生活様式の中で何が残り、何が消えていくのだろうか。歴史家が指摘する通り、かつてないほど多くの難題を抱え、的外れの情報に溢れる今を正確に見通し、未来を予測することはほとんど不可能なのかもしれません。とはいえ、次世代を担う若者たちの思考の変化や、仕事環境の変化を読み取り、それらがどのような意味を持つのかを理解することが、今後を見通す上で大切な課題であることに変わりはないはずです。
今回のフォーラムではこうした課題に焦点を当てて、コロナ後に何を期待し、どのように備えるべきかを皆様と共に考えたいと思います。多くの皆様のご参加を心よりお待ちしています。
*:厚生労働省HP 「働き方改革」の実現に向けて
日本経済が停滞する中、若手建築家たちは従来「設計」と見なされてきた業務範囲を超え、自分たちの領域を拡張している。中でも工藤浩平建築設計事務所は「造り方」を積極的にマネジメントすることによって、限定された予算のもと社会に問いかける建築を試行している。
緊張感と抽象性の高い空間が印象に残る工藤らの作品が、実はシビアなコストコントロールのもと実現していることはあまり知られていない。建設会社を営む実家のリソースを活用しつつ、時には自身で分離発注を行うなど発注方法を工夫し、コストとスケジュールの厳格なコントロールのもとプロジェクトを実現させる。
工藤らが試みる「造り方」のマネジメントとは何か。設計と施工の境界を行き来することから生まれる可能性とは何か。2022年日本建築学会作品選集新人賞に輝いた作品「プラス薬局みさと店」を含む数々の実践の解説を踏まえながら、大いに議論を交換したい。
詳細はこちら
シンポジウムでは、防災に関わる学協会の専門家が集い、気候変動がもたらす災害リスク、避難・救命救助・復旧活動などの防災対応、国土利用・まちづくりなど災害対策についての最新の研究・取組を共有し、今後の災害対策・防災研究のあり方を議論・展望する有意義な機会としたい。
ご案内PDF