A-Forum e-mail magazine no.104 (13-12-2022)

宮沢賢治の思い

神田順

三陸岩手での震災復興にかかわるようになって、このところ宮沢賢治(1896年―1933年)が気になる存在になってきている。明治三陸津波の年に生まれ、37年後の昭和三陸津波の年に没しているのが不思議な巡りあわせだ。2018年の1月に、宮沢家ゆかりの花巻の大沢温泉を訪れたときに、たまたま直木賞に門井慶喜の「銀河鉄道の父」が選ばれたというニュースに接したのも偶然のタイミングだ。早速に読んだことを覚えている。そして、父親の目からみた賢治の評価を確かめたくて、筑摩書房の全集とちくま文庫の全集を買って、じっくり読み始めた次第である。

童話にしても、ちゃんと読んでいなかったので、読むほどに何が起きたのかと立ち止まると、自然とどうつきあうか、さまざまに語りかけてくれる。空想の世界が心地良く広がった。さらに書簡というものは、特定の個人とのコミュニケーションなので、作品とはまた別の形で賢治の思いが伝わる。

弟の清六氏の書、今福龍太の書、中村稔の書など、いずれも興味深い。そして最近になって、谷川徹三の「宮沢賢治の世界」を読んで、草野心平が「宮沢賢治は天才だ」と言っていた意味がわかるような気がした。単に詩人というのでなく、自然科学についても実体験と結び付けた理解をしている人であり、気持ちよく暮らすことに向けて体を動かした人である。詩を読むなどということは、普段はしないのであるが、中村稔が何を言いたいか、谷川徹三が何を言いたいかを考えると、全集を引っ張り出して、どちらの言っていることに共感できるか詩を何度も読んで確かめてみる。こんな読書も楽しめた。

谷川徹三が頻繁に引用する「農民芸術概論要綱」というのがある。農民の間に入って、科学的知識を応用し肥料のやり方を指導したり、東北砕石工場にかかわって、石灰肥料の販売の宣伝文句を考える。そんな自分の行動の原点といった感じのものでもある。

知識の豊かさをもとにして、農業の生産者が協働して働くことの意味を語るのは当然としても、そしてそこに芸術が入り込んでいるのが新鮮である。そこに技術と芸術の融合がある。働くことの中に創造性を持ってくることで喜びが生まれる。まさにアーキニアリングにも通じる精神ではないか。構造設計がいつの間にか、マニュアルに沿った構造計算に終わっていたりする現実があると、形を生むための技術の部分と芸術の部分の融合こそが大切だ、と声を上げたくなる。そしてなによりも芸術の部分があることで喜びが生まれる。これはあらゆる生産的活動において言えることかも知れない。

「雨ニモマケズ」手帳への書付の中に、賢治はすでに死の近づいていることを感じ、できなかった多くのことを思い返す。生きるとは、働くとはどういうことかを、やさしい言葉にして連ねている。宮沢賢治を読み返すことから、まだまだ学ぶものを見つけられるように思うのだ。


第45回AFフォーラム+KD研1-8「さらば”東・海”1974」—東京海上日動ビルディングの都市・建築・技術をめぐって

コーディネーター:斎藤公男
パネリスト:橋本 功(前川事務所)、岩井光男(元三菱地所設計)、小西義昭(小西建築構造設計)
日時:2022年12月24日(土)14:00~
お申込み→https://ws.formzu.net/dist/S72982294/
Youtube(お申し込みは不要です):https://youtu.be/ihg0xpLVYk0

年代を経ても市民に活用されているさまざまな建物を見てみると、「解体」か「保存・再生」かという今日的課題についての議論の大切さをあらためて考えさせられる。老朽化、強度や機能の低下といった物理的問題よりも、「壊すこと」や「残すこと」に対する人間や社会の認識・評価に多くが託されているということだ。まずは建築界の人々がそれを自らに問い、答えねばならないだろう。「建築」にとって難しい命題である。

今年も建築会館ギャラリーにおいて「AND展2022」(11/2-9)が開催された。昨年と同様、「構造デザインフォーラム」と連携する企画とした。展示内容はAND賞2021の受賞作品を主としたが、特別展示として「レガシー4作品」のコーナーを設けた。国立代々木競技場「代々木」(1964)に次ぐ1960年代の空間構造の代表作として、下関市体育館(「下関」1963)、香川県立体育館(「香川」1964)、岩手県立体育館(「岩手」1967)に「秋田」(1968)を加えることとした。展示パネルと並んだ構造模型(1/200)はいずれも学生たち(武蔵野大学と日本大学)が制作してくれた。
すでに「下関」は解体が決まり、「岩手」は耐震・内装改修後に現役続行(2020年Docomomo登録)、「香川」の先行きは不透明だが風前の灯、「秋田」は改修中だが先行きは不安、となっている。ところで「1960年代のレガシー展」の企画のヒントは2つ。ひとつは小澤雄樹のエッセイ―「構造に夢を見た時代―代々木だけではない」(a+u、2019.10)。いまひとつはTMIBを愛する会の書籍―「えっ!ホントに壊す!?東京海上ビルディング」(建築ジャーナル、2021)。「東京海上」(1974)の建築計画のスタートは1965年頃。超高層の曙「霞が関ビル」とほとんど同じである。今回、A-Forum/KD研究会Part1でも「さらば”東・海”1974」と題して、都市・建築・技術をめぐるフォーラム(第45回AFフォーラム)を企画した。「築くこと、残すこと、壊すこと」といった様々なテーマについて議論を深めたい。


Archi-Neering Design AWARD 2022 (第3回AND賞)★応募締切ました

2022年12月23日(金) 一次選考通過者発表(A-Forumホームページ上にて公開)
選考委員
福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)
詳細はこちら
神田 順 まちの中の建築スケッチ 「花の家—里山の古民家—」/住まいマガジンびお

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