金田勝徳
一昨(2020)年の3月に改正建築士法が施行された。この法律は、1950年に制定されて以来70余年に渡って基本的な見直しもないまま現在に至っている。このことは建築士に対する社会的な関心の薄さを象徴しているように思われる。「建築士」という職業を具体的に知ったのは、2005年に発覚した姉歯元一級建築士による構造計算書偽装事件の時が初めて、という人も少なくない。
国交省の調査によれば、昨(2021)年4月時点で、資格を持って建築士事務所に所属している建築士(所属建築士)の総数は約14万人とのことである。その年齢構成を見ると、20~30歳代の合計が11%程度に対して、60歳代以上が43%を占めているという。建築士の高齢化現象も、多くの他分野に劣らない。
今回の士法改正は、こうした現実に強い危機感を持った建築士会連合会、建築家協会、建築士事務所協会の3団体の働きかけによるものだった。したがって主な改正点は、「建築士の人材を継続的かつ安定的に確保する」ことを目的とした建築士試験制度にあった。
それを機に、A-Forumでは先月末に「建築士制度を問う」をテーマとしてフォーラムを開催した。当日は三井所清典、仙田満、今村雅樹の各先生をパネリストにお招きして、それぞれの立場からの話題提供をして頂き、その後の討論が活発に行われた。その様子は現在もYouTubeで配信されているので、視聴して頂くことができる。
フォーラムでは話題が多岐に及ぶ中で、一級建築士試験の受験要件であった2年間の実務経験が、一級建築士登録要件に変更されたことに関心が集まった。この改正によって、大学で一定の単位を取得していれば、実務経験がなくても一級建築士試験を受験できることになった。「若くて頭のさえている時に試験に合格しておいて、その後の2年間は仕事に専念しながら仕事を憶える時間に割いてほしい(三井所先生)」という想いがあったとのことである。言い方を変えれば、大学生や大学院生が大学での講義受講や研究活動の合間に、受験勉強を「することができる」、ないしは「しなければならない」ということになる。これらのことが次世代を担う若者にどのような影響を与えるのだろうか。
受験塾の経営者が「今回の法改正は私たちにとって追い風」と言い切るのを聞いている。一方これまで通り働きながら受験塾に通う若者からは、「早く合格しないと現役大学生ばかりが合格して、君たちが合格できなくなる」と講師から煽られているという話も聞く。さらに「建築家を目指して尊敬する建築家に師事したい学生・院生が、在学中に積もった多額の奨学金返済のために、卒業後の安定収入を求めて大きな組織の一員として働かざるを得ない傾向にある(今村先生)」という。
そして「(建築士)の量的な確保だけでなく、美しくて強靭な建築造り、国造りをするための質的な変革を遂げるために、建築士制度そのものを見直す必要がある(仙田先生)」との意見があった。この通りになれば街並みが整い、建築がより人々に親しまれて建築士に対する社会的な関心も高まるに違いないのだが・・・。
震災復興まちづくりには、さまざまな視点からの議論が必要であり、わが国でも神戸の震災を機に多くの試みがされ経験を積んでいるものの、十分な検証がされているか気になるところである。
まちづくりという視点からは、当然その地域性をどう反映するかということが大きな課題であることは、神戸、山古志、三陸、熊本などまちの性格、地震の規模が異なることなどからも明らかである。東日本震災から11年を経て、インフラの整備がまちと無関係に先行したことが否めないが、それは都市計画の役割、建築制度の課題なども関係している。
震災を防ぐとなると、建築物の構造的な安全性が第1の課題に挙げられるが、今回のフォーラムでは、少し幅を広げて考えたい。現実に、これまでどのように震災復興まちづくりが行われつつあり、これからどのように進められることが望ましいか、震災復興を見て来られた専門家として3名のパネリストに、それぞれの立場でご発表いただき、自由に議論いただく場としたい。
SEWCが、2023年10月18~21日に韓国のソウル市の江南エリアの中心地のKSTCで開催されます。SEWCは以下に示すように、第一回はサンフランシスコ、第二回は横浜で開かれ、ほぼ2年ごとに構造工学の芸術、科学、実践を基本テーマとして、世界の構造設計者・研究者が世界的な都市に順に集まって開催されます。
皆様の奮ってのご参加を期待いたします。
和田 章(President, Structural Engineers Word Congress)