A-Forum e-mail magazine no.100 (10-08-2022)

お陰様で100号です


ものづくりと言葉

神田順

今までも、仲間との議論とかコミュニケーションとかについて、何度か書かせてもらっているが、もう少し考えてみたい。

構造家とか建築家とかは、ものづくりの専門家である。材料のことも設計のこと施工のことにも配慮しなければ実現しない。一方で、ものづくりを上手く進めるためには、関係者が十分に議論して、問題を解決しながら進むことが必要だ。そのときには、コミュニケーション、すなわちお互いが共通の言葉で議論しなければ議論にならない。もちろん、スケッチや模型が言葉以上に語ることもあるが、お互いに何か違うという時には、言葉が必要になる。

例えば、法律は法律の中では一貫した定義のもとで使われているが、学術用語としても、ものづくりのためとしても、的確性が確認されているとは言えない。構造性能に関わる言葉にしても、設計段階での議論を考えると、法律の言葉は法律の言葉でしかないことを誰しも感ずる。経済性が求められると言われても、初期コストを考えているか、ライフサイクルを考えているかで、条件が全く異なる。

ものづくりにおいてもいろいろ制約があり、専門家にすべてお任せ、という時代では無くなったようだ。一方で、専門家に委ねないと良いものができないのも事実である。

その点、わが国の大学では、建築を学ぶとなると、4年間にわたり意匠も構造も設備も一通りのことを学ぶということになっていて、それは、専門家間で共通の言葉で議論ができるということにつながっている面はある。

今の社会でよい建築とは何かとなれば、当然、空間が心地よいこと、安全性が十分なこと、機能に便利なこと、長く使えること、などの言葉が出てくるが、それを実現させるためには、やはり、言葉で建築主にそのことを説明できることが求められるし、行政には法律的に問題ないことを説明できなければいけない。

最近、イタリアン・セオリーの延長で「アセンブリ」(アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート著、岩波書店2022年)を読んだ。かつて、同じ著者の「帝国」で20年前に論じられたように、国際規模での金融市場経済の行き過ぎが21世紀になっても止まらない問題をあぶり出しているのであるが、その中から「個々の生産者は、みずからネットワークを構成し、生産のための機械を、資本家から奪取して自らのものとせよ」という呼びかけとして理解した。資本家により貨幣を増やすことが自己目的化することで格差が生まれ争いが生じている社会を、生産者個々に敬意を払ってその生産物の価値をお互いに享受できる社会に変革せよ、ということであろうか。

構造家とか建築家とかの場合は、もっとも紙と鉛筆だけからとは言わないが、別に資本家から与えられているわけでない手段で設計をしていると思う。そこでは生産者集団としてのネットワークがポイントでもある。社会にとって、このことはとても基本的なことで、かつよいものができる必須条件でもある。現実には、経済力イコール権力の下で、それが今までにない建築を生むというようなこともあるが、その場合でも、ものづくりの人間がものづくりの仲間の間で十分な意思疎通のネットワークがあって初めて実現する。

このような思考に基づくと、建築のものづくりが新しい社会が生まれることにつながる。A-Forumでの議論が、フォーラムでの言葉の蓄積が、これからも生きたものになることを夢見つつ、貴重な第100号の紙面を埋めさせていただいた。


第43回AF-フォーラム「建築士制度を問う」

コーディネーター:金田勝徳
パネリスト:三井所清典(芝浦工業大学名誉教授)、仙田満(東京工業大学名誉教授)、今村雅樹(日本大学特任教授)

日時:2022年8月27日(土)14:00~16:00
お申込み→https://ws.formzu.net/dist/S72982294/
Youtube(お申し込みは不要です):https://youtu.be/XZ1hT6xMVvo

1950年に建築士法が建築基準法と同時に制定されました。当時は戦災によって壊滅状態にあった都市の復興のため、短期間に大量の建築物の建設が迫られていました。そのことに沿って生まれた建築士制度が、70年以上に渡って大きな改正がないまま、現在までに38万人を超える一級建築士が誕生しています。
その中で、現在建築士として実務に就いている建築士の人数を知ることは容易ではありません。試みに、現行の建築士法によって建築士事務所に所属する建築士に義務付けられている、3年ごとの定期講習修了者の数から推定してみると、推定可能な2010年から2021年の12年間に渡って一級、二級、木造建築士のいずれもが漸減し続け、その間の減少率は70%を上回っています。
こうした現象に対する危機感からか、建築士の人材を継続的かつ安定的に確保することを目的とした建築士法改正が、令和2年度に施行されました。その改正では一級建築士試験の受験資格の見直しと、受験機会の拡大が行われています。
具体的には、第一に一級建築士の受験資格であった大学卒業後2年の実務経験が必要なくなり、大学卒業後直ちに一級建築士試験を受験できるようになりました。第二は建築士登録までに必要な2年間の実務経験の適用範囲が大幅に拡大されました。第三に、学科試験合格の有効期限が3年から5年に延長され、その5年の間の3回までは学科試験が免除されることになりました。
一方、この改正の副作用として、大学の受験予備校化、受験塾のさらなる肥大化などが考えられ、結果的に、建築設計のプロを目指す若者の生活や大学教育の在り方が、歪められるのではと危惧されます。こうした一連のことは建築士制度の在り方にかかわる問題であり、放置すれば日本の建築界に大きな禍根を残すことになりかねません。
そこで8月のA-Forumでは、長年建築設計事務所を主宰しながら大学教育とを両立されてきた3人先生をパネリストにお招きして、建築士制度の現状と、今後のあるべき姿を皆様と共に自由に話し合うことを企画しました。多くの皆様のご参加と、活発な意見交換を期待しております。


第27回AB研究会 建築生産を支える専門職(サブコントラクター)の世界4
「BIMは部品・建材の流通/設計施工プロセスをどのように変えるか」
その2 建材供給BIM化の最先端

コーディネーター:田澤周平(東洋大学)
シリーズ企画解説:安藤正雄
プレゼンテーション
  1)プレゼンテーション:「BIMに立脚した建材設計施工のDX化」
山崎芳治(野原HD CDO)、後藤庸幸(野原HD、建設DX推進統括部)
・野原HDにおける建築DX化の見通しと戦略
・BIMObjectとBIMObject Japanの活動
・BuildApp(BIM設計・生産・施工支援プラットフォーム)
・BIMデータを用いた乾式壁工事の精密プレカット施工とその効果
2)討論
日時:2022年9月10日 14時~17時
お申込み→https://ws.formzu.net/fgen/S42040957/
Youtube(お申し込みは不要です):https://youtu.be/fQVyJ8-pMmU

《シリーズ企画にあたって》

BIMは既往の建築生産に大きな変化をもたらす。キーワードはフロントローディングとデザインチームの協働である。これにより、設計の初期段階で、部品・建材の選択、他の部位・部材とのインターフェイスに関わる擦り合わせ、コストの詳細な検討が可能になるばかりではなく、発注者/設計者サイドの参画・インプットが一気に増大する。
「部品」はオープンに存在する専門技術を用いたプレファブ技術とみなすことができる。BIMが促すのは、DfMA(Design for Manufacture and Assembly)であり、部品はさらに複合化・大型化してゆく。一方、「建材」は建築の部位を完成させるための素材であるが、BIMは建材事業を単なる建築資材の販売ではなく、建材の割り付け・加工・下地の詳細設計を含めたメーカー/流通サイドによる総合サービスへと変貌させてゆく可能性がある。
建築のサプライチェインは、端的に言えば、仕様書の構成に反映されているパッケージ(=工種=trades)にあらわされている。BIMが促す部品化とは「工種」、「パッケージ」のプロダクト化である。ゆえに、部品には大型化、複合化が求められ、BIMはそれを可能にする。一方、建材はそれ自体で建築の機能的部分(部位)を構成するとは言えないが、設計・施工行為を伴って実体のある「工種」となり、部位となる。すなわち、建材を情報モデル(BIM)としての建築とそのサプライチェインに位置付けるには、建材(product、parts)供給のサービス化が必須である。
その結果、概略設計、基本設計、実施設計という従来のフェイズの理解は変わってゆく。設計者とメーカー/商社はダイレクトに結びついてゆく。この動きは、発注者、設計者、施工者、メーカー/サプライヤーの関係の再編を促すばかりではなく、ICTによる革新をもたらすソフトウェア・ベンダーという新しいプレイヤーの参入を促している。
もちろん、課題はある。発注者要求、設計者の意図、要求性能はどのように担保されるのか。また、発注者、設計者、メーカー/商社、施工者間の意思疎通を実現する共通言語とは何か。完成建物の品質に関わる瑕疵はどのように対処されるのか(設計責任、請負責任)。価格はどのように開示・決定されるのか等。
BIMは部品・建材の流通(調達・供給)にかかわる従来の慣行を一変させるばかりではなく、部品・建材の姿や部品・建材産業の姿を大きく変えつつある。世界を見渡すと多くの興味深い開発が続々と現れている。本シリーズは、その初弾として下記1~3を紹介することを企画した。第27回AB研究会においては、他に先行して2に焦点を当てる。

シリーズ予定
1. 建築情報モデル(BIM)における部品、建材の位置づけ
コーディネーター:志手一哉(芝浦工業大学)、開催日未定
2. 建材供給BIM化の最先端
コーディネーター:田澤周平(東洋大学)、2022年9月10日
3. BIMと部品化・ユニット化(DfMA・PPVC等)
コーディネーター:小笠原正豊(東京電機大学)、開催日未定


Part2 第8回「手さぐりの空間構造(その2)」

トーク:斎藤公男(A-Forum代表/日本大学名誉教授)
日時:2022年09月17日(土)14:00~
お申込み→https://ws.formzu.net/dist/S895819741/
Youtube(お申し込みは不要です): https://youtu.be/_Ai70_si8u0

Part1 第7回「3Dプリンタによる建築空間の可能性」

日時:2022年10月22日(土)14:00~(予定)
パネリスト:調整中
お申込み→https://ws.formzu.net/dist/S56224667/
Youtube(お申し込みは不要です):https://youtu.be/y_y1QnQJ29w

KD研ミニ

KD研で行った空間構造の歴史を紙芝居でお届けします。毎週水曜日12:00更新です。
001~014 石の時代
015~木の時代

再生リスト

第8回SEWCのご案内


2023年公式ウェブサイト(www.sewc2023.or.kr) / SEWCウェブサイト

SEWCが、2023年10月18~21日に韓国のソウル市の江南エリアの中心地のKSTCで開催されます。SEWCは以下に示すように、第一回はサンフランシスコ、第二回は横浜で開かれ、ほぼ2年ごとに構造工学の芸術、科学、実践を基本テーマとして、世界の構造設計者・研究者が世界的な都市に順に集まって開催されます。
皆様の奮ってのご参加を期待いたします。
和田 章(President, Structural Engineers Word Congress)

第1回 1998 July, San Francisco, USA
第2回 2002 July, Yokohama, Japan
第3回 2007 November, Bangalore, India
第4回 2011 April, Como, Italy
第5回 2015 October, Singapore, Singapore
第6回 2017 November, Cancun, Mexico
第7回 2019 April, Istanbul, Turkey


神田 順 まちの中の建築スケッチ 「夢の島体育 —公園の中のドーム建築—」/住まいマガジンびお
★2022/8/11~8/17まで夏季休館になります★
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