年代を経ても市民に活用されているさまざまな建物を見てみると、「解体」か「保存・再生」かという今日的課題についての議論の大切さをあらためて考えさせられる。老朽化、強度や機能の低下といった物理的問題よりも、「壊すこと」や「残すこと」に対する人間や社会の認識・評価に多くが託されているということだ。まずは建築界の人々がそれを自らに問い、答えねばならないだろう。「建築」にとって難しい命題である。
今年も建築会館ギャラリーにおいて「AND展2022」(11/2-9)が開催された。昨年と同様、「構造デザインフォーラム」と連携する企画とした。展示内容はAND賞2021の受賞作品を主としたが、特別展示として「レガシー4作品」のコーナーを設けた。国立代々木競技場「代々木」(1964)に次ぐ1960年代の空間構造の代表作として、下関市体育館(「下関」1963)、香川県立体育館(「香川」1964)、岩手県立体育館(「岩手」1967)に「秋田」(1968)を加えることとした。展示パネルと並んだ構造模型(1/200)はいずれも学生たち(武蔵野大学と日本大学)が制作してくれた。
すでに「下関」は解体が決まり、「岩手」は耐震・内装改修後に現役続行(2020年Docomomo登録)、「香川」の先行きは不透明だが風前の灯、「秋田」は改修中だが先行きは不安、となっている。ところで「1960年代のレガシー展」の企画のヒントは2つ。ひとつは小澤雄樹のエッセイ―「構造に夢を見た時代―代々木だけではない」(a+u、2019.10)。いまひとつはTMIBを愛する会の書籍―「えっ!ホントに壊す!?東京海上ビルディング」(建築ジャーナル、2021)。「東京海上」(1974)の建築計画のスタートは1965年頃。超高層の曙「霞が関ビル」とほとんど同じである。今回、A-Forum/KD研究会Part1でも「さらば”東・海”1974」と題して、都市・建築・技術をめぐるフォーラム(第45回AFフォーラム)を企画した。「築くこと、残すこと、壊すこと」といった様々なテーマについて議論を深めたい。