A-Forum e-mail magazine no.37(13-03-2017)

ネット社会に生きる

人類はこれまで、あることを境にして情報量が急増するような体験を繰り返してきた。2000年ほど前の紙の発明から15世紀の活版印刷の発明、そして新聞、ラジオ、テレビの登場などがそのきっかけとなった。人々はそのたびに増える情報を前にして、戸惑いながらもそれ等を利用して新しい社会を築いてきた。しかし「情報爆発」とも言われるインターネットによる情報増大のスピードは、これまで人類が経験したそれとは比べものにならない。これからも止まることなく増え続ける過剰な情報が人々を疲弊させ、思考停止状態に陥らせているようにも見える。

こうした社会の中で、昨年来「ポスト真実(post truth)」という耳障りな言葉が瞬く間に世界を駆け巡った。この聞き慣れない言葉は、事実や真実より感情的な言辞や虚言、あるいは嘘の情報に民意が誘導されていく様を指しているとのことである。英国の国民投票で勝利したEU離脱派の公約が、虚言交じりだったことが投票の後で分かった。米大統領選では事実と反する煽情的なニュースが繰り返しネットに流れ、自らも多くの虚偽発言を発信し続けたトランプ氏が勝利した。「ポスト真実」は昨年、世界を驚かせたこれらの事象から生まれた言葉のようである。そして今大きな社会問題となっているネットの「炎上」も、この「ポスト真実」の延長線上にあると思える。

こうした状況は、インターネットの普及によって見知らぬ人同士のネット上だけでのコミュニケーションが容易になり、不特定多数に対して個人が情報を発信することが可能になったことによる副作用に他ならない。そこでは気の合う仲間同士ばかりが情報交換をし、受け入れられる情報だけを集め、本当のことを見ようとしない情報空間が醸成される。逆に情報発信者の言動に反応して、多数の閲覧者が虚実ないまぜの誹謗中傷コメントを集中的に寄せて激しく攻撃することも起こる。このことが「炎上」と呼ばれ、攻撃の対象となった若者が自殺に追い込まれてしまう痛ましい事件も起こった。その「炎上」の発生件数が2011年から急増して2014年には年間673件に及び(eltes社調べ)、我が建築界も炎上ネタに事欠かない。

かねてよりネットからの膨大な情報量が「やがて人間を自分で選択し判断できる『自律した人間』でいることを難しくしてしまう」との指摘があった。いよいよそれが現実味を帯びてきたかに見える昨今である。だからと言ってこれらに背を向けるなら、情報弱者としてたちまち社会の隅に追いやられてしまう。いま私たちはスマホひとつで知らない人や世界に発信できる時代に生きている。ネットやIT抜きにはもはや社会は成り立たないし、時代の潮流も見通せない。今、人々は時に失敗をしながらも世界と繋がるこれらの道具の力を前向きに使って、新しい文化を創り、豊かな社会を築くしたたかさを備えることが必要なのではないか。

(KK)


第17回AF-Forum
テーマ:ネットの「炎上」を考える

詳細はこちら

ある人物ないしは企業が発信した内容や行った行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象がネットの「炎上」と呼ばれています。その炎上の発生件数がこの5~6年の間に急激に増加しているとのことです。建築界でも「傾斜マンション事件」、「新国立競技場建設」、「杭打ち工事データ偽造」、「免震ゴム性能偽装」、「豊洲市場の安全性」をめぐって、たて続けに炎上被害に遭っています。そのたびに身近な人たちが懊悩する様を目の当たりにし、察するに余りある想いに息が詰まります。同時に炎上がいつ我が身に飛び火するか分からない恐怖も感じます。

厄介なことに、人々をより自由にするはずだったコミュニケーション技術の発達やネットの広がりが、逆に人の警戒心を強め、自由を束縛していると感じられます。その要因となるネットのマイナス面は、「炎上」だけではありません。しかし、私たちと常に隣り合わせにあって、ひとたび当事者になると直接的に最も大きな打撃を受けるのが「炎上」ではないかと思われます。そこで第17回A-Forumでは、ネットの「炎上」について、その実態を把握し、どのように対処すべきかを考え、話し合うことにしました。多くの皆様のご参加をお待ちしております。


コーディネーター:金田勝徳
パネリスト:佐々木大輔(日経アーキテクチュア 副編集長)、日置雅晴(神楽坂キーストーン法律事務所 弁護士)

日時:2017年4月21日(金)17:30〜19:30
場所:A-Forum
参加費:2000円 (懇親会、資料代)

参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「17回参加希望」とご明記ください。
*第17回AFフォーラム動画は非公開となります。ご了承ください。

A-Forum アーキテクト/ビルダー(「建築の設計と生産」)研究会

第5回 建築家の終焉!?―「箱」の産業から「場」の産業へ 詳細はこちら

日時:2017年4月3日(月)17:30〜19:00、/場所:A-Forum/会費:2000円/共催:日本建築学会『建築討論』
参加申し込み *受付終了しました


防災学術連携体

熊本地震 追悼・復興祈念行事 日本学術会議公開シンポジウム/第3回防災学術連携シンポジウム
熊本地震・1周年報告会のお知らせご案内PDF

平成28年4月14日、16日に発生した熊本地震から1年目にあたる平成29年4月15日に、地震・災害・救援・復興等に関わる各学会の調査状況を地元の方々に伝えると共に、熊本県・熊本市からも復旧・復興に関わる情報を発信し、関係者間で更なる情報共有をはかり、今後の防災減災・災害復興に役立てるために、一周年報告会を開催する。

日 時:平成29年4月15日(土曜日)11:00~18:20
会 場:熊本県庁本館 地下大会議室(熊本市中央区水前寺6-18-1)
主 催:内閣府 日本学術会議 防災減災・災害復興に関する学術連携委員会、熊本県、 防災学術連携体(防災に関わる55学会のネットワーク)
問合せ先:防災学術連携体 菅原健介(土木学会) sugawara<at>jsce.or.jp 03-3355-3443/小野口弘美 info<at>janet-dr.com

参加申込はこちら *A-Forumでは申し込み受付を行っておりませんのでご注意ください。