日本は島国、イタリアは細長い半島の国だが、海に囲まれ、新鮮な魚介類に恵まれ、地形の変化や森が豊かさなど互いに似ているところが多い。70年以上前には、しないほうが良かったのだろうが、ドイツ・日本と一緒に戦争したほど仲の良い国である。そして両国とも地震の多い国である。北部はスイスやドイツに近く工業やファッションが世界的な強さを持ちきちんとした人が多く、南部はオレンジやレモン、オリーブが育つ明るい地域で、楽観的な人々が多い。
この中でも日本の誰でも憧れる地中海のシシリー島は、その通り天国のようなところである。島の西北のパレルモはマフィアで有名だが今では安全なまちであり、島の東には北からメッシーナ、タオルミーナ、カターニャ、シラクーサなど楽しいまちが並ぶ、シシリー島にも大きな地震は何度も起きていて、1908年のメッシーナ地震では数万人を超える人が亡くなったと言われている。
この地震のあと、ローマの物理学者が構造物の耐震設計に層せん断力係数の考えを発表したことで有名であり、今でも設計例を含めた論文が残っている。ガリレオ・ガリレイを生んだ国なので、世界の力学を率いていることは確かである。
2016年8月24日にイタリア中部で地震があった。3週間後の報告では298人の方が亡くなられ、深刻である。熊本地震でも同じことが起きているが、ある地区に大きな地震が襲うのは百年に一度、数百年に一度のように長い年月が開く。結果として、地震を受けずに残っていた耐震的でない建物が崩壊してしまい、人々の命を奪う。日本では1978年の宮城県沖地震の頃から研究が進み、実施されている耐震診断と耐震改修があるが、熊本地震災害を見て、学校・病院や市役所のような公共建築だけでなく木造住宅まで、すべての建築について実施する必要があると強く思う。
先に書いたようにイタリアは技術や芸術の進んだ国であり、耐震工学、地震後の対策や活動も進んでいる。9月18日に被災地近くのRietiにある対策本部を訪ねて、地震学者で本部長の Mauro Dolce 教授の説明を聞いたが、やはりイタリアは素晴らしい。10年ごとの国勢調査の時に、人々の暮らす家々の調査も行い、イタリアの「何処の」、「どのような家に」、「どんな人」が住んでいるというデータベースが作られており、ある地点で地震が起こると各地の揺れの強さを即座に求め、亡くなる人の数、家を失う人の数などを色つきの地図で表すシステムを動かしていた。倒壊したかもしれない建物の中にいる人の数の予測は38人から1724人であり、即座に出した予測値として十分価値があると思う。この他にも、 被災地を完全にロックアウトして、住民が安心して避難できるようにしていることは日本では行われていない。そして、我々のような調査チームには警察官が付き添ってくれる。
石積みの建築を耐震的にする取り組みも進められている。もっとも有効な補強法は建物の両側面の壁から壁に鋼棒を通して、両側面で定着する方法である。石積みの壁構造は面内のせん断力を受けて斜めにひび割れが生じるが、これだけでは壊れない。これらの壁が面外方向の振動を受けて安定性を失い、バラバラになると鉛直荷重の支持力も失って、建築物は瓦礫になってしまう。
地球上ではいろいろな自然災害が起こる。町や村の作り方、建築や土木構造物の作り方、社会の仕組みの方が自然の猛威に適っていないことが原因である。しかし、このような自然災害は特定の地点に注目していると滅多に起こることではない。だからこそ、世界で起こることをきちんと見て、世界の人々が行っていることを知り、我々のことを考える必要があり、常時の国際交流も進める必要があると思う。
(AW)
左から、イタリア中部の震災、ロックアウトされた被災地、石積造の耐震補強、地震後の被害予測システム。 ◎クリックで拡大できます。
今回のフォーラムのタイトル、「空間 素材 構造」にはさまざまなテーマが詰まっている。
工学と美学双方を支える直感や感性。イメージ(想像力)とテクノロジー(実現力)の融合・触発・統合。2つの双対的ベクトルの有り様といったアーキニアリング・デザイン(AND)のコンセプトにも議論が深まればと楽しみである。