今回のフォーラムのタイトル、「空間 素材 構造」にはさまざまなテーマが詰まっている。
工学と美学双方を支える直感や感性。イメージ(想像力)とテクノロジー(実現力)の融合・触発・統合。2つの双対的ベクトルの有り様といったアーキニアリング・デザイン(AND)のコンセプトにも議論が深まればと楽しみである。
「JSCA賞」と「日本構造デザイン賞」とは、共に構造設計者の優れた業績に対する社会的評価の舞台であり、我が国では数少ない貴重な表彰である。各々は日本建築技術者協会と日本構造家倶楽部という全く体質の異なる組織体の主宰であるが、後者の創立の原点を「松井源吾賞」(1990)とするならば、27回目を迎えた前者共々そのスタートはほぼ同時期とみることができよう。偶然にも、今年度の表彰委員長は各々和田先生と私であった。
今年度の「日本構造デザイン賞」(表彰式9/2)には「このはなアリーナ」と「三角港キャノピー」が選ばれた。(詳細はA-Forum e-mail magazine no.31、冒頭エッセイ)両者を比べると実に興味深い。すなわち機能・形態・規模・設計体制等が全く異なる2つの作品にはいくつかの共通点が見いだせることである。第一に設計のめざすべきコンセプトが当初から明快でブレのないこと、第二にそのイメージの実現に向かって最新のテクノロジーが駆使され統合されていること、第三に構造システム・ディテール・工法にわたるホリスティックなデザインを実践させていること、そして第四に素材の巧みな生かし方である。前者では鉄と木のハイブリッド構造が免震やPSによって実現され、後者ではサンドイッチパネルと鋳鋼、LEDの活用により鮮やかな構造空間が誕生した。いずれもコンピューターの能力ではなし得ない知力と情熱の結晶といえよう。
今回のAF-Forumではこうした視点からテーマを「空間 素材 構造」とし、優れた建築家と構造家を招いた。建築家の加藤詞史氏は「唐戸市場」(2001)でPCaPCやケーブルによる張弦梁、近作の「梅郷礼拝堂」(2016)では木質集積構造を発案し、意匠と構造の高い融合に挑戦している。力の可視化、素材を中心にした装飾と合理の論点も期待できそうである。一方、構造家の木下洋介氏には今年度のJSCA賞作品「オガールベース」を注目したい。集成材とRCの一体化による「櫛型耐震壁」の考案をはじめ、ローコストで効果的かつ美しい木造架構の構築は普遍性をもつ構造デザインとしても高く評価されよう。
(斎藤公男)