第14回
わかりやすい木構造の魅力


コーディネータ:神田順
パネリスト:山辺豊彦(構造設計事務所)、山田憲明(構造設計事務所)

日時:2016年8月30日(火) 17:00-19:00
場所:A-Forum お茶の水レモンⅡビル 5階
参加費:2000円 (懇親会、資料代)
 第6回フォーラムで「伝統木構造を生かす道」と題して、いくつか気になるテーマを掲げて議論した。社会制度上の問題点も多く、簡単に答えがみつからないことは、予想していた通りであり、やや理念的な議論に偏した。我が国が多くの森林を抱えていることを思うと、いろいろな意味で、わかりやすさが普及にとって必要ではないかと考え、今回は、より具体的な形で議論が交わされることを企画した。
 木の家に住もうと思う人に対して、どこが魅力と考えるか。その魅力に、職人が答えるための動機づけは何か。構造的な利点をどのように語ることができるか。金物を用いないことが、どう良いのか。自然素材へのこだわり、集成材でなく自然の木を使うことが、どう良いのか。などについて、具体的にわかりやすく語れることは、専門家にとっても大切な視点である。
 話題のきっかけとして、釜石市唐丹小白浜における具体的なプロジェクト、120㎡2階建ての木造、事務所兼住宅を紹介する。設計は、(株)唐丹小白浜まちづくりセンターの神田順+西一治+鈴木久子、施工は、鶴岡市の棟梁、剱持猛雄が担当しており、6月に着工し、まもなく現地において建て方に入る。耐震の主要素としては、板倉工法(落とし板壁)を、また室内に見えるように格子壁を設置している。柱梁の組み方は、基本的に棟梁の判断によっているが、貫構造としての水平抵抗力もある程度は期待できると考えている。
 パネリストとしては、長年 にわたり木構造の設計に従事されてきたお二人に、「魅力」と「わかりやすさ」を木構造建築のキーワードとして話題提供いただく。持続可能性という意味での利点はあげられるが、一方で、地域の木の活用、自然乾燥、大工による仕口加工、コストなど現実の問題点も少なくなく、需要の減少は、すでに深刻な状況にある。これからも、自然な形で、大工職人による、大量生産品でない木の架構が、ある程度の供給を確保できるようにするための共通の知見とそれに基づく戦略を、見出すことをねらいとしたい。
(神田順)

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第14回フォーラムのまとめ (神田 順)

第6回フォーラムに引き続き、木構造をテーマとし「わかりやすい木構造の魅力」と題して、まず、コーディネータの神田から趣旨説明と、進行中の木造のプロジェクトの紹介を行った。木の建築の魅力を設計者、施工者、居住者からみてみようということであるが、今回は、設計者の視点が語られることとなる。構造と仕上げの一体性、自然素材としての心地よさは、魅力としてわかりやすい部分である。
神田らの進めている唐丹小白浜のプロジェクトは、三陸の漁村集落に計画された、伝統木構造で延べ床面積120㎡の2階建てであり、建設地区にある杉を伐採、製材の上、山形県鶴岡に移送し、剱持棟梁のもとで加工中であり、その仕口などの一部が紹介された。壁量計算は、大臣認定された落とし板壁を配置することで、確認してあるが、柱梁による木軸架構、格子壁についても、それぞれの水平加力試験をもとに、1/200、1/100、1/20のときの水平力を足し合わせることで、耐力の想定が許容応力度レベル、保有耐力レベルということで検討可能ではないかと、具体的な数値を上げて示した。また雇い竿シャチ止めと長ほぞ込み栓と2種の柱梁仕口を図示して、曲げ応力の伝達メカニズムを示した。一般的なキーワードとして、伝統技術を生かす、地域特性を生かす、地球環境・省資源、現代化の工夫、心地よさ・美しさを挙げて、パネリストの話題提供に移った。

山田憲明からは、「木構造のコンセプトとデザイン」と題した14ページに及ぶ作品の紹介資料をもとに、それぞれの作品における構造設計上の工夫が解説された。大洲城天守では、太い柱に梁を嵌合接合し、その仕口の曲げ抵抗を稲山理論をもとに計算に反映、実験による確認も行っている。屋根付き木橋では、曲げを伝える力板の紹介。国際教養大学図書館棟では、秋田の県産材を組み立て梁として伝統的継手・仕口を応用する形で、またハイサイドライト部分は、鉄骨フィーレンディールを回すことと300㎜φの杉柱の配置で放射状の架構を構成している。
素材としての木材の特徴、多様な接合、そして形の構成への基本的な取り組み方を解説した後に、地域性、つくり方、大空間をテーマとしているとした。南小国町役場では地域の杉素材の活用を、構想段階から生産環境を把握した上で、執務棟と議場棟それぞれに相応しい形の多様性として実現している。さらに「つくり方」を考える例では、クロス梁による立体合掌屋根の仕口の工夫に加え、尾道市のリゾートホテルのレストラン屋根を、45㎜角やその反割材を精度良くプレカットしてのトラスの構成を紹介した。そして「大空間」への挑戦としては、須賀川市立中学校体育館を小規模な定尺の製材でも可能なトラスアーチを組んで必要空間を構成している。大分県のアリーナではさらに新しい挑戦が実現する。
実に多様な構成を解説していただいた。いずれの作品にも、過去に学び、現代の知恵を生かし、地域の特性を反映した木構造の追求の姿勢が漲っている。

引き続き、山辺豊彦からは、「地域材を活用した木構造の設計」と題して、26枚のスライドを資料に大工塾の実績をご説明頂いた。木造の図面が描けないという大工の相談から始まり、全国からの大工の参加により、見学や実験を盛り込んでの12回の講義を実施されている。
軸組が全ての始まりであり、水平構面の役割を把握したうえで鉛直構面の力の分担を考えることが基本である。乾燥材は含水率20%以下のものであるが、加工しやすさから25%くらいのものを好んで使うとのことである。乾燥は、特に高温乾燥では、内部割れの原因となりうるので、注意すべきであること、筋交いは、座屈時に、節部分で折れやすいこと、長ほぞ込み栓仕口の特徴や、渡り腮構法の力の伝達、また、変形については、クリープが3倍強になることも勘案して1/450をめやすとするが長期たわみは1/600とするなど、具体的な注意項目を示していただいた。
さらには、実験住宅を実際に加力試験しての知見も示された。浮き上がりへの配慮や、解体の容易さなどにも触れられた。構造要素の特性と性能把握、造る技術と解体技術、長寿命化、自然素材、地域材活用などを基本に、古材屋の存在も示唆された。

質疑討論に移り、さまざまな話題にも触れることができた。柱梁仕口について、雇い竿仕口のときは、通常15㎜くらいの梁の掛りが30㎜くらいはほしいが、柱が大断面でないと、難しいと実物で補足された。計算の可能性については、接合部のモデル化が重要であり、ある程度は実験を拠り所にすることは欠かせない。込み栓の材料については、楢材が良いとされることもあるが、品質管理は容易とはいえないので、檜、あるいは同材の方がめり込みがあって良いという考えもある。小径材で大空間を架ける部材を構成するにあたり、安全余裕をどの程度見るかは、地域の大工の質も考えた上で、実大モデルでの検討や経験を元に判断することとなる。構造美と形式美との融合の妙が感じられた。含水率の判断についても、一律に決められるわけでなく、工法や仕上げにもより、プロジェクトごとに変えているとのことである。最後に斉藤先生からは、テーマが欲張りで、木構造はわかりやすいものではないことがわかったが、ただ木を使えばよいと言うものでもなく、適材適所を考えようと結ばれた。接合部の力学特性など、過去の歴史には、それなりの理由があるが、それをうまく展開して行くことが必要である。木構造をわかりやすくすることは、設計者の役割とも言えるかもしれないが、フォーラムではさらに継続して取り上げたいテーマである。