A-Forum e-mail magazine no.46(19-12-2017)

設計、監理報酬の不思議

現在、国交省が平成21年施行の「設計、工事監理等に係る業務報酬基準(告示第15号)」改正の検討を進めている。その目的は、業務の多様化、複雑化や発注者からの要求水準の高まりに伴い、業務量が増えたことに対応するためとのことである。もとより、この告示が社会状況の変化に応じて、定期的に見直すべき、とされていることからも改正の検討は当然のことと思われる。しかしそれ以前に解決すべき、いくつかの問題がある。

第一に、施行から8年を経過した現在も、この告示が有効に機能していないことが挙げられる。

私の所属する構造設計事務所を例にとると、発注者である元請意匠事務所から設計案件の依頼があると、まずは告示第15号から算出される報酬額に何割かの低減率を掛けた見積書を提出する。それを受けた意匠事務所からの反応の多くは、既に決まっている報酬総額に見合わないことを理由とした、見積額の値引き要請である。このあたりの経緯は、他の構造事務所も同様と聞く。

つまり構造、設備設計事務所からの見積書は、施主と元請事務所との設計、監理報酬額交渉の際に、なんら参考にされていない。ならば報酬額がどのように決定されているかを聞けば、いまだに実際より低めに想定された工事予算額に、数%の料率を掛けた額で決められるという。そうして決定された報酬額の大方は、当方からの見積額通りの外注費が支払われると、元請事務所の運営が成り立たないほどの低額である。結果的には告示に示されている「標準業務」の相当部分を削減するか、経費を切り詰めて凌ぐことになる。

告示第15号を改正するだけでなく、告示そのものが社会一般に認知されるための、官民一体となったキャンペーンが必要ではないか。

もう一つの問題は、プロポーザルと称する無償設計業務の増加が、設計者(事務所)に大きな負担を強いていることにある。

プロポーザルの応募要項には、確かに応募者の負担を軽減するために、提出資料に対するなにがしかの制限が設定されている。しかしそのほとんどが実質的に無視され、応募者は基本計画図書を超える内容を盛り込んだ立派な提案資料を提出し、発注者はその応募案のまま設計に移行できることを前提にしているかのような審査をする。

近年、このことが官公庁施設に対してだけでなく民間施設にも広がりつつあることが、問題をさらに大きくしている。無償で複数の計画案を集めて、それらの「いいとこどり」で実施設計を仕上げることも可能になってしまう。その一方で、設計事務所は繰り返し強いられるこの無償業務に、疲弊の度合いを深めている。

最近、欧州の設計事務所で設計経験を積んで帰国した複数の若手建築家から、このことに関する話を聞く機会があった。彼等によると、欧州ではプロポーザル応募者にはどんな場合でも発注者から応分の参加報酬が支払われているという。若手建築家がその報酬だけで生活することができているのに比べて、日本の現状が信じられないと口を揃える。働き手を酷使する企業を「ブラック企業」と呼ぶなら、こうした社会も「ブラック社会」に他ならない。発注者が設計者に提案を求める場合には、それに応じた報酬が支払われる枠組が、告示第15号の中に創られるべきではないか。

工事費に料率を掛けるというどんぶり勘定の低額報酬も、プロポーザルと称して横行する無償設計業務も、日本社会の知的成果に対する低い評価と、ルールのないまま行われる乱暴な過当競争の結果と考えられる。もしこれ等を看過するなら、日本の建築の質的低下は避けられない。また告示を順守するシステムを置き去りにした改正に、どれほどの意味があるのかも疑わしい。

 

建築設計界が設計入札に強く反発する一方で、こうした実態を唯々諾々と受け入れているように見える現状が不思議でならない。

(K.K)


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