14年ほど前の2002年7月、堺屋太一の執筆による近未来予測小説「平成30年」が出版された。その中で著者は平成30年の時点で「最もあって欲しくない日本」は「何もしなかった日本」であり、そうなる可能性が高いと予測している。そこでは「何もしなかった」ために、国際競争力の低下で円安と国際収支の赤字化が進み、不況と物価の上昇とが同時進行するスタフグレーションに陥っている平成30年の日本の姿が描かれている。
この小説が発行された当時の日本は、既に少子高齢化、地方の過疎化、知価社会化が確実に進み、早急に対策を立てるべきとの危機感が広まっていた。そこで最も必要なのは「改革」であると筆者は言っている。またバブル崩壊後の14年間に誕生した11人の総理大臣のすべてが「改革」を言っていたが、このことは本当の改革が行われていなかった証拠であると堺屋は断じる。そして、真の改革に必要なのは倫理と美意識の変更であるとし、それだけに「改革はそれを推進する改革者にとっても、受ける側にとっても緊張を孕んだ過程になるに違いない」と論じている。
それから14年後の今年の8月に「近未来シミュレーション 2050年 日本復活」が出版された。著者は1980年代に泥沼化していた日米貿易摩擦に関わる日米交渉の際に、米国側の辣腕対日交渉担当官として活躍したクライド・プレストウィッツである。この中でプレストウィッツは、バブル崩壊後なすすべもなく立ちすくんだままでいる現代の日本が、どうしたら復活し、かつての栄光を取り戻すことができるかを詳述している。
ここでもその方策として第一に挙げられていることは、世界の最先端技術から取り残された現状を挽回するためのイノベーション(技術革新)であり、OECD加盟35か国中、20番目までに後退した日本の生産性(2012年統計による)の向上であるとしている。そしてそれ等を達成するために必要なことには、適切なセーフティーネットの用意を前提とした日本的経営や労使関係の根本的な改革であるとしている。
著者はこの本の中で、明治維新と戦後の復興という2度の大改革を遂げてきた日本に、3度目の大改革と遂げる力があることは間違いがないとして、問題はどうやって実行するかであり、実行に移すまでの時間の余裕はないと指摘している。
日米両国の経済問題に関する論客によるこれら二冊の著作を読み比べると、それぞれの本が出版された14年の時間差の間に改善された問題より、深刻度を増した問題の方が圧倒的に多いことが感じられる。国家の存亡にかかわる明治維新の混乱や大戦後の荒廃からの復活の時に比べれば、格段に複雑化した現代社会が抱える危機を克服し、復活することの困難さは想像に難くない。
また堺屋太一の予測通り、平成30年までの日本に大きな革命や戦争はなさそうであるが、それに匹敵するような人的、経済的被害をもたらした自然災害が起きている。同時に日本の将来に永く大きな負担としてのしかかる原発廃炉問題も追加されている。さらには将来起きると予測されている巨大地震への備えも忘れることはできない。一方で近隣諸国との外交関係がより一層難しさを増し、米国大統領選挙結果もこれまでの外交上の蓄積を突き崩すような事態を招きかねない状況にある。
2016年現在、日本の姿は堺屋太一が危惧していた「最もあって欲しくない日本」に近く、プレスウィッツはそれを「惨憺たる状況」と表現している。しかしその間、日本が「何もしなかった」訳ではなく、様々な改革案が考えられ実行されようとした。残念なことにそれらの多くが、中途半端のまま今日に至っているようにみえる。その原因の多くは、改革を阻み、既得権益を守ろうとする官民を含めた数々の強大な団体の存在にあるように思われる。だからと言って、日本が衰退するまま見過ごす訳にはいかない。国民一人一人、何ができるかを真剣に考えるべきことと思われる。
組織としてごく小さな任意団体であるA-Forumが、皆様のご協力を得ながら、間もなく設立以来満3年を迎えようとしている。このForumが少しでも建築構造界の将来にとって魅力あるイノベーションにつながるような活動の場となることを願っている。
(K.K)
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