A-Forum e-mail magazine no.30 (04-08-2016)

地震のリスクのこと

リスクというと、誰しも確率で考えるのに、耐震の問題になると、なぜか、確率に対する拒否反応のようなものが現れる。特に、建物は設計した時点で、リスクを背負うとわかっていながら、設計地震動については、多くの人が自分で考えようとしない。  

確率は、便利な指標であるが、誤解も招きやすく注意は必要だ。時間的に稀な事象も、空間的に稀な事象も、同じように数字で扱うことができる。熊本の地震で、壊滅的な被害のあった地区を2㎞x2㎞と考えると、日本全国の38万㎞2に対して、10万分の1である。その中のすべての家が倒壊するわけでない。確率的に小さな値である。 しかし現実に震災が起きると、壊れたか、壊れないかが問われ、揺れの強さの評価との関係を、あまり問題にしない。もっと大きな揺れに対して設計しておけば、倒壊しなかったであろうことは、誰でもわかるが、では、どの程度の揺れを考えておくべきかという議論になると、「日本は地震国だから、最大の地震動を決めて、それで設計すればよい」というような声すら出てくる。

防災科学技術研究所のホームページには、確率論的地震動予測地図が見られるようになっており、国の地震防災のための統一見解であるはずなのに、国土交通省管轄の建築基準法には反映されていない。被害を起こす地震の揺れは、震度7と呼び、建築基準法は、震度6強で壊れないことを国の基準としている。それでも、ひとたび被害が発生すると、どのような揺れであったかの議論よりは、設計や施工上の不備を探し出して、規制強化を議論している状態だ。

活断層の情報は格段に増えており、1000年に一度程度の活動度の高い地震断層は特定されているし、もちろん、プレート境界の地震は、数十から数百年に1度と、さらに大きな確率である。活断層の見えないところにも地震を想定している。それらを、それぞれの地点において、確率ということで、総合的に数値化したものが、年超過確率と地震動強さの関係である。 確率は、ばらつきを伴う。そのばらつきの大きさが確率の実感につながらないと、敬遠される。材料強度などは、工業製品だと10%、自然素材だと30%程度、一方、荷重側で見ると、雪や風は、50年最大値を予測して、30%-40%程度なのに対して、地震の場合は60%-100%というあたりが代表的数値である。大きなばらつきが理解することへの抵抗を生んでいるようにも思われる。30%ばらつくと、100回に1回は、大きさが1桁違ってくる。

2つの場所での、これから50年の間に生じる最大の地震動の揺れが、期待値(平均)で30ガルと300ガル、ばらつきがともに80%だったとする。「大きなばらつきはいい加減だ」と言って、一律に400ガルで設計するとなるだろうか。平均30ガルでも300ガルまでは、考えておこう、平均300ガルだったら、ばらつきも多いことだし、600ガルくらいは、考えておこう、くらいの差をつけての対応になるのではないか。

確率論的モデルに基づき、設計への反映を一つの枠組みで規定するのは、法律や学会規準に任せるとしても、現実の場面において、専門家や建築主が、どの程度の地震動を想定することでよしとするか、自分の問題として考えると、確率論的評価を基にする以外にないと思うのであるが、いかがであろうか。

(JK)


第14回フォーラム
テーマ:わかりやすい木構造の魅力

コーディネーター: 神田順(日本大学)
パネリスト:山辺豊彦(構造設計事務所)、山田憲明(構造設計事務所)

日時:2016年8月30日(火) 17:00-19:00
場所:A-Forum お茶の水レモンⅡビル 5階
参加費:2000円 (懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第14回フォーラム参加希望」とご明記ください。
詳細はこちら

A-Forum アーキテクト/ビルダー(「建築の設計と生産」)研究会
第3回「日本の住宅生産と建築家 」

日時:2016年9月29日(木)17:30〜19:00 (終了後会場にて懇親会を行います)
場所:A-forum
共催:日本建築学会『建築討論』


本シリーズ第1回目、2回目では、新国立競技場建築プロジェクト、そして東京オリンピック関連施設を例にとり、デザインビルドあるいは設計施工一括方式を巡る諸問題について議論した。本シリーズを通じた目的は、建築生産方式(=プロジェクト方式=発注方式)の多様化の必要性と課題を確認し、デザイン、エンジニアリング、コンストラクションの創造的協働の未来像を展望することにあるが、コスト高騰、入札不調といった現今の景況下、設計と施工の分離を前提とした伝統的な専業の枠組みが侵されていることがまず議論されてきている。

シリーズ第3回は、「日本の住宅設計生産と建築家」をタイトルに、町場における建築家の役割をめぐって議論したい。戦後まもなく住宅設計をめぐる問題は、すなわちどのような住宅をどのように設計し、どのような体制によって建設していくかは、多くの建築家にとって主要な関心事であった。そして、日本住宅公団が設立され、プレファブ住宅メーカーが成立していくと、建築家の住宅の設計に関する建築家の役割は相対的に低下していったように思われる。その後、住宅芸術論、「最後の砦としての住宅設計」論、アーキテクト・ビルダー論、地域住宅工房論などによって議論が提起されてきたが、その帰趨を確認しながら、日本の住宅設計生産と建築家の未来を展望したい。

コーディネーター:布野修司+斎藤公男

(a) 日本の住宅建設と供給主体の歴史的変遷:権藤智之(首都大学東京)
(b) 家づくりの会と設計施工 松澤静男(KINOIESEVENリーダー・マツザワ設計)
(c) 建築家と工務店の関わり 泉幸甫(泉幸甫建築研究所)
(d) アーキテクト・ビルダーの実践:八巻秀房((株)山の木)

参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「AB研究会参加希望」とご明記ください。


第1回防災推進国民大会 
8/27~8/28 東京大学本郷キャンパス

大規模災害への備え~過去に学び未来を拓く」 いざ災害が発生したときにどうすれば、自分やお子さんを守れるのか?災害や災害への備えについて、楽しく学ぶイベントです。


   は第1回防災推進国民大会に参加します。

2016年8月28日(日)10:00-12:00 「52学会の結集による防災への挑戦—熊本地震における取組み」(東京大学安田講堂) 開催
2016年8月28日(日)12:30-16:30 ワークショップ 1「火山災害にどう備えるか」、2「東京圏の大地震にどう備えるか」