第12回
長周期かつ長時間続く設計用地震動の議論


コーディネータ:
和田章
パネリスト:

神田 順、伊藤 優(JSCA)、篠崎洋三(日建連)、久田嘉章(JSSI)、加藤研一(小堀鐸二研究所)


日時:2016年4月21日 17:00-19:00
場所:A-Forum お茶の水レモンⅡビル 5階
参加費:2000円 (懇親会、資料代)

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 1964年に東京オリンピックが開かれたが、この年の6月に新潟地震が起きてい る。大学に入学したばかりだったが東京も揺れた。昭和石油の石油タンクが配管の損 傷とスロッシングで油が溢れ大火災になった。2003年の十勝沖地震で起きたこと と類似であるが、このとき既に周期6秒の長く繰り返す地震動が発生している。その 後の研究では「やや長周期」と言われていたが、長周期地震動のことは2003年か ら始まった議論ではない。
 東京オリンピックに間に合うように竣工したホテルニューオータニ(17階建)を きっかけに、超高層ビルは日本でも建てられるようになった。長周期成分が正しく観測 できていない加速度記録(エルセントロ、タフトなど)を用いて応答解析が行われ、 構造物の安全性の確認が行われていた。このころの検証は、最大変形、最大応力、最 大塑性率など、最大値にしか注目していなかった。初めの数秒で最大値が起こるよう な地震動では、長い継続時間の計算をする必要もなかった。
 それから50年近くが過ぎ、世界では精度の高い地震動が記録されるようになり、 プレートテクトニクス理論などの地震学も進んだ。考えるべき設計用の地震動も変 わってきた。ただ、地球の歴史からみれば、ほんの一瞬を捕まえて議論しているよう にも思う。構造物の設計について注目すべきは、最大値だけではなく、繰り返し回 数、エネルギー吸収量など積分値として評価すべきことがはっきりしてきた。
 今までの設計目標にはなかったが、超高層ビルにとって構造物が倒壊しなければ良 いということで十分かも疑われている、中に暮らしている多くの人々のことを考える べきであり、海が見えたり雲が見えたりしてぐるぐる揺れる建物を建築と言えるか、 水や電気が止まり下水処理もできなくなった建物で地震後の生活は可能か、ウォータ フロンとでは高層ビルの周辺は津波で人の行き来が遮断されるかも知れない。塑性変 形を起こした建物は周辺から安全性が指摘され取り壊すことになる。誰の費用でどの ようにして取り壊し、更地に戻すのか。最も深刻なことは、取り壊すべき建物が墓石 のように林立する大都市に次の命は残るのかなど悩みは多い。
 最近の話題として、長周期(長時間)地震動に関するパブリックコメントの募集が あった。地震動として、単純形状のスペクトルにフィットさせた入力地震動は便利で あるが、このような地震動は絶対に襲ってこない。だからと言って、起こるまで確か でない山谷のある設計用地震動を用いたとき、設計する構造物の動的性質をスペクト ルの谷を狙って調節し、入力地震力を減らそうとすることも問題である。基本的に自 然の神さが起こすことで、まだ分からないことが多いと考える必要がある。研究はま だ続けるべきである。このフォーラムでは、パブリックコメントに応えたパネリスト の方々と積極的な議論を行いたい。

 (和田章)