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第7回
構造工学の科学から社会の靱さと脆さ
コーディネータ:
和田章(東京工業大学名誉教授)
パネリスト:
城戸隆宏(日本郵政株式会社不動産部門施設部建築計画グループ・グループリーダー、昨年まで山下設計)
山脇克彦(山脇克彦建築構造設計)本年4月に日建設計から独立
日時:2015年4月23日 18:00-20:00
場所:A-Forum お茶の水レモンⅡビル 5階
参加費:2000円 (懇親会、資料代)
長さ5mのH形鋼が建設現場に運ばれバタ角の上に置かれているとする。建築骨組の中の一部材として組み込まれる前であり、外力は作用しておらず、強さに比べ自重は十分軽く境界条件にも拘束のない、部材にとって最も自由な状態であり、このH形鋼のフランジやウエブにはほとんど応力は生じていない。ただ、本当にそうなのか。H形鋼が製鐵所で生産されるとき、フランジやウエブの断面は部分により冷える早さは一様ではなく、冷めたところから硬くなり、後で冷えて硬くなるところには材軸方向に引張りの残留応力、先に冷えたところには圧縮の残留応力が残る。降伏応力度に近い残留応力が生じていることもある。構造設計では、軸力を断面積で除し、曲げモーメントを断面係数で除し、これらの和として断面に生じる応力度を求める。ただ、内部にある残留応力が加算されていないから、真の応力度を求めていることにはならない。
このように考察すると、構造設計の中で普通にしていることは科学といえるのか、怪しくなってくる。実際の建築構造物は独立した一部材に比べはるかに複雑である。無重力の宇宙空間で寸分違わずの精度で構築し、完成後に地球上にそっと降ろしたわけではない。構造物は地盤の上に徐々に建設され、骨組が完成する前にコンクリートスラブは下層部から打設されていき、工事の過程では溶接も行われ、構造計算の前提条件とは別の流れで建てられていく。構造物の中には、構造計算の時には考えていなかった色々な応力が存在することになる。真の応力状態が分からないまま行われているのが、今の構造計算である。 構造設計、塑性理論、下界の定理、上界の定理、唯一解の定理などの構造の科学から、組織の靱さ、社会の靱さ脆さにまで議論を広げる。
日本建築構造技術者協会会誌(Structure)本年4月号に掲載予定の同名の記事を読んできてくださればと思います。
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