第20回
大震災の起きない都市を目指して


コーディネーター:和田 章
パネリスト:田村和夫(千葉工業大学教授)、南 一誠(芝浦工業大学教授)
日時:2017年11月30日(木)17:30~19:30
場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)

参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「20回フォーラム参加希望」とご明記ください。


日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。職務は、●科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。●科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。の二つです。日本学術会議は、我が国の人文・社会科学、生命科学、理学・工学の全分野の約84万人の科学者を内外に代表する機関であり、210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われています。日本学術会議の役割は、主にⅠ政府に対する政策提言、Ⅱ国際的な活動、Ⅲ科学者間ネットワークの構築、Ⅳ科学の役割についての世論啓発です。

日本学術会議の委員会の中の一つの分科会活動の成果として、日本学術会議提言「大震災の起きない都市を目指して」を纏めました。11月30日のフォーラムでは、この提言の執筆に関わった3名から、提言のご説明を行い、これをもとに皆様と議論したいと思います。
多くの方々のご参集を期待いたします。

参考資料: 日本学術会議提言 「大震災の起きない都市を目指して」(全文)


日本学術会議提言「大震災の起きない都市を目指して」 要旨

1 作成の背景
 わが国は首都をはじめとする大きな都市に極端に人、財産、および機能が集中し、近い将来の大地震発生が予測されている中で、震災の危険性はますます高まっている。例えば、中央防災会議の報告によれば、マグニチュード7クラスの首都直下地震が起きると、揺れと火災により2万人を超える人々が亡くなり、帰宅困難者は800万人、61万棟の建物が倒壊・延焼し、被害金額は直接被害と生産・サービス低下被害を合わせて、わが国の一般会計予算に匹敵する95兆円に上ると言われている。
 このように、巨大にふくれあがった都市で大災害が発生すると、周辺の都市からの支援能力だけでなくわが国の対応能力を超えてしまう可能性があり、事前の対策が必須である。営々と築かれてきた都市と社会を一朝一夕に変えることはできず、すべての対策について行動を起こすのは容易ではないが、震災を受けてからの対応だけでなく、将来の都市構成を見通した中で災害を極力減じるための抜本的で具体的な活動を、個人・家族・企業・自治体・国は、それぞれ推進し、さらに協力して推進すべきと考え、ここに提言をまとめた。

2 現状及び問題点
 わが国では、経済的な効率や豊かな生活を求めて、都市に多くの人々や組織が集まってきている。大きな都市には、非常に高密度に建物や機能が集中し、これらが複雑に相互に関係し合い、効率の高い社会システムをつくりあげている。現状の都市は、大地震などの大きな外乱に対する抵抗力は十分でなく、大地震を受けるとこれらの社会システムは一気に崩れ、悲惨かつ甚大な震災が起こりうる。例えば、地震後の火災から複数の箇所で車が燃え、大渋滞の車に次々に燃え移り、都市全体の大火災に広がるなど、これまでの経験にない異なる様相の震災にいたる可能性もある。
   自然現象をすべて人間の力で抑えることは不可能であるから震災後の対策も必要である。しかし、大地震時の人々の安全確保に加え、地震後の人々の生活や社会の活動の低下を防ぎ、維持するためには、ハード的対策とソフト的対策を組み合わせた事前の対策を着実に進めることが必要である。

3 提言
(1) 最新の科学的知見にもとづき、想像力を広げた熟考
発生頻度は低いが甚大な被害を及ぼす地震を対象に、津波・高潮・火災・豪雨などとの複合災害も含め、最新の科学的知見にもとづき想像力を広げて熟考し、可能性のある事象を想定して大震災の起きない都市の構築を目指すべきである。さらに、これらの想定は完全とは言えず、自然への畏怖の念を忘れず、繰返して見直すことが重要である。

(2) 居住、活動のための適地の選択
人々の居住、活動の場所は、地域における地震動の増幅性や過去の災害履歴などを踏まえて災害脆弱性を正しく認識し、より安全な場所を選択すべきであり、被災ポテンシャルの高い地域から低い地域へと居住地・活動域を移すことも考えるべきである。

(3) 都市地震係数の採用
大震災発生時の社会的影響度が高いわが国の大きな都市では、建物やインフラの耐震性を他の一般地域のものより高めるために「都市地震係数」を導入すべきである。

(4) 土木構造物・建築物の耐震性確保策の推進
現存する耐震性の劣る土木構造物・ライフライン・建築物・古い木造住宅などの耐震性の向上を図るべきである。新築でも特に木造住宅については、個々の設計・施工に最新の知識が生かされる確かな仕組みをつくる必要がある。

(5) 人口集中、機能集中の緩和
災害リスクの分散により日本の持続可能性を高めるとともに、東京一極集中による過密の不経済や地方の活性化に対処していくために、大きな都市への過度な人口集中・機能集中を是正するための国土計画をたて、これを実現していくべきである。

(6) 留まれる社会、逃げ込めるまちの構築
地盤・構造物の耐震化対策を進め、災害時に建物の中に留まることができ、人々が生き続けられるまちを構築すべきである。このようなまちはすぐには構築できないが、救命・緊急輸送道路や避難場所を確保し、命を守るライフラインを災害時に確保するため平常時から整備を進めることも必要である。

(7) 情報通信技術の強靭化と有効な利活用
通信・情報システムを災害時に発信規制を起こさせず有効に機能させるために、通信容量の拡大、バッテリーの長時間化、機器の平常時の利用が連続して被災時にも利用可能とするなど、非常時の対応力を強化するとともに、データ処理技術を進展させ、災害発生直後の迅速な対処のための準備を進めるべきである。

(8) 大地震後への準備と行動
震災時の社会経済的な損失軽減を目的とした自助・共助・公助による対策を実効あるものにするために、地域特性に即した防災教育を学校や社会に取り入れ、公的な主体と民間企業、地域住民が平時から適切な協力関係を確立できるような活動を行うべきである。このとき、震災を知らず言葉も通じにくい外国人への準備と対応も必要である。

(9) 耐震構造の進展と適用
わが国の耐震技術をさらに進展させつつ、これを適切に適用するとともに、従来の設計では想定していなかった事象に対しても、構造物あるいはそれを含む全体システムが破滅的な状況に陥らないような方法と仕組の研究開発と実用化を進めるべきである。

(10) 国内外の震災から学ぶ、国際協力、知見や行動の共有
都市の構成、構造物のつくり方、交通網や通信網の構築など、世界各国に共通点のある防災に関する知見を活かして、国内外の災害を無くす努力を続けるべきである。

(11) 専門を超える視野を持って行動する努力
都市の防災・減災対策に向け、理工系だけでなく、人文・社会・経済・医療なども含めた多くの分野が、それぞれの専門分野の枠をこえて総合的かつ持続的に取り組むべきである。またこのために、異なる分野間の平常時における情報共有や交流を活発化させるべきである。