木造建築は、古くから我が国の戸建て住宅や寺社建築の主流を占めてきている。しかし、戦後の建築基準法の仕様規定と伝統木構造とのなじみがよくないこと、国内産の木材のコスト高、集成材の普及などの問題が、木造建築の中で伝統技術の見通しをみえにくいものにしている。一方で、近年になって公共建築木材利用促進法や、国産材の集成材の振興、新しい木質構造設計への試みなど、少しずつ木構造の新たな展開も始まっている。
我が国の木造建築の、さらなる今後の展開について、複数の視点の取り組みを肯定した上で、これからの「伝統木構造を生かす道」について議論したい。以下のテーマは、伝統木構造を考える上で、避けて通れないものと思われるが、直ちに結論の得られるものではなく、木構造へのかかわりの程度によりさまざまな意見が示されることを期待するとともに、さらなる議論の深化のためのステップを残すことを目的とする。パネリストのお二人は、伝統木構造に関わりをお持ちの構造技術者で、必ずしも個々のテーマにお答えいただくというよりは、これまでのご経験を踏まえて、自由に話題提供いただく予定である。
|
1 |
- 伝統木構造の魅力:マス・プロダクションに対して、職人による技の見える仕事の価値評価が、どの程度の一般性を有するか。伝統木構造の魅力が、建築主にとってどこにあると考えられるか。
|
|
2 |
安全性確認と構造計算法:許容応力度計算、壁量計算の仕様規定が構造部材の伝統工法の利点を反映したものになっていない。詳細な構造計算無しでも、棟梁技能の認定と簡単な仕様規定の組み合わせによる安全性確認や実験結果を直接生かした評価は可能か。 |
|
3 |
継手・仕口の評価:特に、構造計算上の具体的な課題の1つとして、貫構造仕口、格子壁、落とし板壁の剛性・強度の評価法の確立が挙げられるが、限界変形角としてどの程度まで許容できると考えるか。 |
|
4 |
自然材と集成材の使い分け:集成材は、強度・剛性についてのばらつきを抑えて工業製品としての安定品質が保証できる。自然材は逆にその強度・剛性に応じた利用をすることで趣のある表情が表現できる。 |
|
5 |
- プレカットの将来と限界:プレカットにおける工作精度向上や効率化によりすでに90%を超えるまでになっている。集成材との相性が良いこと、大量化によるコスト減など、手刻みを残す必然性が見えにくくなっている。
|
|
6 |
- 利用者から見た林産業:林業政策のかじ取りによる面が多いので、利用者側からの問題点指摘は、希望や要求にしかならないかもしれないが、国内産材のコストが下がり供給の安定が図られれば、50%程度までの回復は可能か。
|