代々木


  1964年10月、国立競技場でのオリンピック開会式。秋晴れの空に描かれた大きな五輪の色彩は今でも鮮やかに思い出される。そして「代々木」の評判は素晴らしかった。世界新記録を連発した舞台にいた選手・観客だけではなく、日本国民に「建築」のもつ力が理解されたように感じられた。
  オリンピック終了後、IOCは東京都、組織委員会、丹下健三の3者にディプロマ・オブ・メリット(功労賞)を贈った。建築家として異例の表彰であり、ひとつの「代々木」が行政や組織と並ぶ力を評価されたのだ。丹下はこのことを心からの喜びとして表している。それは何故か。当時“空間と象徴”という問題に取り組いた丹下はこんな風に述懐している。「建築物が抱える大空間は、ただ単にそこに『広がりのある』というだけでなく、そこを使う人々の気持ちとぴったり結びついたものでなくてはならない。『建築空間と人間精神のふれあい』である。だがそれを可能にする建築デザインは何であろうか。私はこのころ、こうしたことをしきりに考え続けた。考えは必然に“象徴”という問題に発展した。振り返ってみれば、現代建築はいつの間にか、この象徴ということを忘れ去っているようにも思える」と。

  丹下が没した2005年以降、実に多くの著作・書籍・展覧会等が丹下の実像に迫り、「代々木」の軌跡を描き出そうとしてきた。
  私にとっての丹下健三は、坪井研究室から見ていた少し遠い建築家像であり、「代々木」は垣間体験し得た壮大なプロジェクトであった。たしかに「代々木」はひとつの時代における奇跡的な成功例といえるかも知れない。しかし今、最も感じることは、かつて実現した建築(家)と技術(者)の高い融合、あるいは思考の模索されていた社会・都市・建築の有様がいったいどのように議論され展開されて今日に至ったか、である。
  「新国立」を考えた場合、「代々木」の成果のゆくえを思わずにいられない。50年前に学んださまざまなことがらはどうつながれ、何が活かされているのか。もしも正しく継承されていないとすれば、それは何か。何故なのか。「代々木」からの50年間、“建築”が“拓いた世界”がいま問われていよう。

(建築ジャーナル 2015年6月号『戦後建築の70年』より抜粋)

(MS)


第8回フォーラム開催

テーマ:耐震偽装事件発覚から10年
-事件は日本の構造設計界に何をもたらしたのか-



コーディネータ:
金田勝徳(構造設計者 構造計画プラス・ワン代表)
パネリスト:
五條渉 (建築研究所 構造研究グループ長)
小駒勲 (ベターリビング 適判部長)
西尾啓一(西尾啓一構造コンサルタンティング代表、元構造計画研究所構造 設計部長)


日時:2015年6月26日(金) 17:00-19:00 ★開始時刻が前回までと異なります。ご注意ください。
場所:A-Forum レモンパートⅡビル5階
フォーラム終了後に懇親会
会費:2000円

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