震災から学んだこと
A-forum始動以来コアメンバーの先生方が十数回にわたってこのメールマガジンを執筆されてきたが、これからはフレンドも分担せよとのことで、なぜか私が先頭バッターのご指名を受けた。
さて実務一筋の私としては少し古い話ではあるが、1.17の震災において調査者や観察者ではなく当事者として巻き込まれた体験と教訓について述べてみたい。この国は生じた現象を必要以上に関係者内で囲い込む傾向があるが感心しない。神戸では高層ホテルに携わっていた。そこに別棟の大宴会場があったが、翌日現地に入って驚いたことは数百のワイングラスが何事もなかったかのように整然とテーブルセッティングされたままだったことだ。何が起こったのか?埋立層は礫やガラの混じった不均質な砂質土で設計当時は液状化しないと言われていた。しかし数日後に基礎下を掘削してみると、埋立層は液状化により20cm以上も沈下し既製杭頭は完全にクラッシュして基礎は杭より北側に20cmジャンプして砂地に着地していた。想定外の液状化と意図しない杭頭免震現象により、大変乱暴な形ではあるが、地上躯体が亀裂一本もなく備品一つ落下することなく守られた稀有な例である。むろん免震対応などしていないので、建物外とのインフラ接続部はこっぴどく痛めつけられたが。ちなみに周辺地盤も建物床レベルも被災前より20cm低くなったが、水締めされた埋立層に対し地耐力試験を行い、地震後は杭基礎を直接独立基礎として成立させた。埋立層の沈下量の差異等により建物の不同沈下は不可避であったが、幸い実用上問題ない範囲にとどまった。しかし当時クラッシュした杭頭を見た一部関係者は、他の者に見せないように埋め戻しを焦ったという事実も忘れてはならない。
なお高層棟は地下があったため杭頭は液状化層以深にあり想定通り耐震構造として地震動をまともに受け止めた。そこで観察された現象のうち、あまり他で報告されていない現象に触れておきたい。それは客室ドアがことごとく開かなくなって早朝の地震時避難の障害となったことである。これは低層建物で報告される層間変形によるドア枠塑性変形が原因ではない。その原因は1Gをはるかに超えたと類推させる上下動にあった。ドアをロックすると剛強なデッドボルトがドア枠内の穴に挿入される。ドアがジャンプした時このデッドボルトがしたたか頭を打ち付けて塑性変形しサムターンを回してもスライドしなかったのである。ジャンプ時に太いボルトが塑性変形するということは2G近い上下動だったのかもしれない。幸い、関西地区のホテルは火災時の避難のためバルコニーからの二方向避難を義務付けており、これが意図せず地震の際に役立った。杭頭クラッシュ免震といい地震時二方向避難と言い想定外のことが起こったにもかかわらず意図しないことで助けられた。このように実現象には人智及ばぬことが多く、このケースは結果オーライであったが、もちろんその逆もありうる。社会は安全性についてすぐに白黒をつけたがるが、我々エンジニアは、過度な悲観にも過度な楽観にも組みせず、実際に起こる現象を広くイメージするスタンスを持ちたい。
西尾啓一(西尾啓一構造コンサルティング)
第七回フォーラム詳細
テーマ:「構造工学の科学から社会の靱さと脆さ」
コーディネータ:
和田章(東京工業大学名誉教授)
パネリスト:
城戸隆宏(日本郵政株式会社不動産部門施設部建築計画グループ・グループリーダー、昨年まで山下設計)
山脇克彦(山脇克彦建築構造設計)本年4月に日建設計から独立
日時:2015年4月23日(木) 18:00-20:00
場所:A-Forum レモンパートⅡビル5階
フォーラム終了後に懇親会
会費:2000円
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『お問い合わせ内容』に必ず第7回フォーラム参加希望と明記してください。