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  1. A-Forum 第6回フォーラム総括
    テーマ:伝統木構造を生かす道


    コーディネータ:
    神田順(日本大学特任教授、東京大学名誉教授)
    パネリスト:
    北茂紀(北茂紀建築構造事務所)
    玉腰徹(司構造計画)

    日時:2015年2月25日(水)18:00 – 20:00
    場所:A-Forum お茶の水レモンⅡビル 5階

    写真左より、玉腰徹、北茂紀、神田順



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    A-Forum 第6回フォーラム総括    神田 順

      我が国の木造建築の今後の展開において、伝統技術をどのようにして生かすことができるかを考えるために、「伝統木構造を生かす道」と題して、まず、コーディネータの神田から、6つのサブテーマが提示した。そもそも伝統木造とのかかわりは、2009年12月から、建築基本法制定準備会の活動に対して、伝統木構造の会としても協力して運動できるのではないかということで、何度かシンポジウムや勉強会に参加する機会をもったことである。

      「イタリア現代思想への招待」(岡田温司著)から、紀元1世紀のロンギノスの言葉を引用して、財産(富)への執着が、現代社会の混乱の元になっている視点を入り口として、建築基準法が市場原理への対抗手段でありながら、同時に効率性を追求することで、建築を最低基準に引き下げてしまう作用があること、そして法律以前から存在する伝統木構造を受け入れない状況を作ってしまっていることの問題が、伝統木構造を考えるきっかけであることを紹介した。サブテーマとしてあげたのは、1.伝統木構造の魅力、2.安全性確認と構造計算法、3.継手・仕口の評価、4.自然材と集成材、5.プレカットの将来と限界、6.利用者から見た林産業の6つである。

      問題は、職人技がどのようにして魅力(価値)を生み出し、それが一般の人から理解され支持されるものになるかを、われわれがどう語ることができるかということでもある。徳川時代に、林産管理から住宅生産までを持続可能な形で制御していた様子が、「Collapse」(ジャレッド・ダイヤモンド著)に記されていることを思い起こし、その中で語られている社会を滅ぼす要因の1つに、「意味のないルールに固執すること」があることを警鐘として指摘し、パネリストの話題提供に移った。

      北(北茂紀建築構造事務所)からは、「生かす」とはどういうことかの考察から、継承と才能の軸、技術と暮らしの軸を設定して、具体的にかかわった実例を通して、大工さんの存在意義が語られた。守山市の大森寺(だいしんじ)における大仏様の再現、2007年能登半島地震時の輪島の蔵の被害の考察から「修復の道しるべ」(長谷川順一著)の紹介、東日本大震災後、女川における避難所のパーティション、赤浜の集会所の建設、さらに2008年四川地震における自力再生の例などから、技術の意味を訴えた。構造的合理性と美の調和は、まさに伝統の魅力のひとつであろう。

      玉腰(司構造計画)からは、伝統木構造が適法建築として実現できないことに対して、伝統工法の木造建築物における位置づけや大工就業者数の減少傾向からの危機感が示したうえで、国会請願などの過去の取り組みも紹介された。昨年6月の建築基準法改正における付帯決議で、伝統的工法による木造建築物の建築が可能になるような基準の策定を検討することが示され、鈴木委員会における構造計算法の整備の実施に向けての動きが期待されている現状も示された。伝統は新たな未来を拓くという意気込みが欠かせない。

      意見交換も活発に行われた。そもそも伝統木造とは何かを論ずると、「伝統」と言う言葉自体への疑問や、こだわることの問題点なども指摘された。自然材の良さを感じるということは、感性をどのようにあぶりだすかにかかっている。現実には、①職人不足、②木材不足、③コストが高い、④工期が長い、⑤性能が証明しにくい、⑥法規に適合しにくいなどの問題(山田憲明氏のコメント)を、何らかのかたちで解決することが求められるわけである。社会は、少しずつではあるが、自然の味わいを求める方向に動きつつあることもあり、子供の教育の中にも反映させられると良い。

        懇談会の場においても、それぞれの立場から、さまざまな経験からの貴重なご意見を伺うことができた。技術が社会に貢献することは、その技術の生んだものが、人々から価値あるものとして評価されて可能となる。大量生産品と比べて職人の作ったものは、地球環境的にも、教育の視点からも、意味を持つと言えるが、それを人間の感性と結びつけて社会の一角を占めるものにするには、さまざまな工夫が必要である。今回のフォーラムもその模索の第1回であり、引き続き考察を深めていきたい。いただいたコメントについて十分に整理できていないが、課題はこれからも継続して議論する意味もあることから、本総括についても、ご意見をお寄せいただけると幸いである。