“ブラジル~ペルーの建築・都市と自然を訪ねて”
<おわりに>
10回にわたる研修レポートも今回(鉄構技術2016.1)が最終回となる。
あらためて読み返してみると、わずか10日余りの旅程の中に、いかに欲張った視察が詰めこまれていたか、その数の多さと内容の濃さに驚かされる。
旅行社から無理といわれたスケジュールも提案・工夫を重ねてベストなものになった。朝食のレストランの代わりに数回を弁当としたのも正解。おかげで幸運なスタジアムの現場視察も実現し、コパカバーナ海岸散策、イズアス滝とイタイプダムの見学、サスカイオアマン遺跡等で印象深い時間を過ごすことができた。そして全員が気持ちをひとつとして遅滞なく行動を共にしてくれたことが今回の研修旅行の成功の全てと思っている。
研修で見聞した知見が共有できたと同時に、各自が体験し感じたものは実にさまざまであることがレポートを通じて知ることができた。ともあれ、団員全員が健康で、無事に研修が終了することができとことに心より安堵し、多くの皆さんに感謝する次第です。
今回の研修旅行を企画した主な目的は<はじめに>で述べたように次の4点であった。
1) 世界遺産・ブラジリアを考え、コスタ&ニーマイヤーの世界にひたる
2) IASS参加を通じ、国際交流を図る。
3) 東京オリンピック2020にむけて
4) ブラジル~ペルーの建築・都市と自然・歴史に触れる
上記1)、2)、4)については各々のレポートにおいて、研修の成果と所感が詳しく述べられている。ここでは3)について触れたい。
特に(旧)「新国立競技場」である。研修時の2014年秋頃のことを思いおこせば「旧国立競技場」の解体工事が再入札で決定(8.27)後、JSCは公募型プロポーザルの競争参加資格確認の申請期限を9月8日「技術提案書」の提出期限を10月10日と発表している。
まさに今回の研修期間と合致しており、その為に何名かの参加予定者が急遽、研修取消しとなったのは残念であった。
10月、ECI(施工予定者技術協議)方式で選ばれた大成建設(スタンド工区)と、竹中工務店(屋根工区)は基本設計を行ってきたSJV(日建設計等4社)と協力して実施設計を行い、1年後の2015年10月に本工事に着手。しかしこの予定に大きな狂いが出てくる。実施設計終了時の設計と施工の両者が見積もる施工コストの乖離は埋まらず、コスト・ダウンの努力が続いた。そして7月17日、安倍首相により突然、計画は“白紙撤回”となった。
この時、まっ白になった私の脳裏に真先に浮かんだのは「ブラジリア」と「マチュピチュ」であった。時代の背景、技術力の違いこそあるが、共に壮大なナショナル・プロジェクトである。人間の知力と情念が未知なるカタチを可能にするという課題。いずれも「新国立」に通じるものと感じられる。過去の遺産に負けない今日の遺産は何故実現しなかったのか。「新国立」の敗因とは何だったのか。一つの失敗は百の成功よりも教訓に富む、とは昔からいわれる諺である。「新国立問題」を風化させてはならない、というミッションが「今回の研修」に対する最後にして最大のメッセージかも知れない。
この原稿を書いている明日は11月16日(月)。第2ステップともなる(新)「新国立競技場」技術提案書の締切日である。はたしてどの様な内容が提案され、その後どう進展するのか。日本のみならず世界中が注目していよう。
そして同じこの日、「アーキニアリング・デザイン凱旋展」(11/16-1/27)が日本大学・お茶の水校舎でオープン、初日を迎える。中国5都市を巡回した古今東西の約100点の模型に加え、(旧)「新国立競技場」も展示される予定である。今回の研修旅行と同様に、過去をみつめ、未来を語るフォーラムの輪が広がることが期待される。
(MS)(鉄構技術2016.1より)
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