A-Forum e-mail magazine no.81 (12-02-2021)

数字で表現することの意味

春を迎えるこの頃、朝の室内が10℃を超えていると暖かいと思う。ただ寒いとか暖かいという表現よりも、今朝は3℃だとか、15℃だとか言う方が、よく伝わるように思う。これは工学に関わっているせいかもしれない。本当は、少し寒いとか、とても寒いという感覚の方が大切で、3℃であるか5℃であるか8℃であるかはどうでもよいことかもしれない。

数字を語る者は、なんとなく優位に立っているようであったりするのかと思うことがある。コンクリート強度だとか、鋼材の降伏点だとか、かぶり寸法だとか、床面積当たりのコンクリート量、鉄骨量など、現役を離れて久しいが、数字で語れることがプロとしての資格であるようにも感じる。

確率的な評価となると、信頼性指標が3を超えるからかなり安全だとか、PML値が10%だから投資物件として良いとか、すべて相対的な値である。その意味では世間一般と比べて大きいか小さいかが、意味をもってくるがゆえに、多くの事例の経験をもつプロの言葉に説得力がある。

しかし、科学的な厳密さの話をすると、数値を計算するときの条件や状況が、客観的に適切でないと、数字は意味をなさない。PML値の場合などでは、地震ハザードの評価にしても、被害統計にしても、どの情報を用いたかが共有されていないと、数値の意味は変わってしまう。

昨今のコロナ感染に関して、さまざまな数値が報じられている。感染者数、PCR陽性率、重症患者数、死者数など。それをどのように解釈して、自分なりの判断をすれば良いのか、なかなか難しい。新聞でも、それぞれの数字の意味を報じるよりは、単に数字のみを更新しているだけで、意味のある情報がなにか、わかりにくい。むしろ、数字の無いほうが、適切な言葉で伝えられるのかもしれない。その時も、やはり、国全体の状況ではなく、その地域での情報が肝心である。

専門家が一般の人に分かりやすく語るというときに、正確に質(アナログ)で語れるか、量(デジタル)で語って通じるか、これは専門家にとっての課題のようにも思う。

(JK)


オンライン・トークイベント「一人ひとりの生活と歴史に根ざすまちづくり――イタリア、東京、釜石を巡って」

「小さな声から始まる建築思想」(神田順・現代書館)刊行記念オンライントークイベントです。
講師:神田順、陣内秀信
日時:2021年2月24日(水)19:00~20:30
方法:Zoomウェビナーにてオンライン開催
申込み:現代書館ウェブショップにてチケット発売中

第35回AF-Forum

「日本の木造建築と林業」

コーディネーター:金田勝徳
パネリスト:大橋好光、稲山正弘、榎本長治

日時:2021年2月18日(木)18:00
会場:オンライン(Zoom)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第35回AFフォーラム参加希望」と明記ください。


日本における近年の木造建築の隆盛ぶりは、まさに爆発的と言えそうです。建築関係の月刊誌には毎号多くの木造建築が掲載され、各種の建築賞受賞作品の中に、必ずと言ってよいほど木造建築が含まれています。しかしその木造建築の歴史は決して平坦な道ではなく、木材供給事情や社会情勢の波に翻弄され、波乱万丈の様相を呈しています。

近現代における木造建築は、先の大戦の戦中・戦後に渡って繰り返された都市部の大火によって甚大な被害を受けました。このことから1950年に衆議院で「都市建築物の不燃化促進に関する決議」がなされ、同じ年に制定された日本初の建築基準法では、高さ13m、軒高9mを超える木造建築が実質的に禁止されました。それに追い打ちをかけるように、1959年の伊勢湾台風による木造建築の甚大な被災体験から、日本建築学会が「建築防災に関する決議」の中で火災、風水害の危険が著しい地域での木造禁止を提起しました。こうしたことを背景にして、日本国内では戸建て住宅以外の中・大規模木造建築が激減した時代が続きました。

一方で、森林資源が第二次大戦中は軍需用に、戦後には復興住宅用に大量消費され、森林の乱伐が繰り返えされて山林の荒廃が日本中に広がりました。そして甚大な水害・土砂災害が各地で頻繁に発生し、木材の不足も顕著となりました。そうした事態を改善すべく、国は様々な名目の補助金を支給し、伐採跡地への大規模な植林政策を推進しました。その結果、1946年当時4万haだった全国の人工造林が、8年後の1954年には43万haと約10倍の広さになりました*1)

ところがその時期に植林された森林資源が、木材として市場に出回り始めた1980年代には、木造建築の激減や、円高による外材と国産材との価格逆転などで国内の林業が衰退し、日本経済の足を引っ張る存在になってしまいました*2)。その対策のため、国は木造建築に関する法整備を進めると共に、2007年から国産材の「木づかい運動」を推進しています。さらに2010年には、「低層の公共建築物は原則全て木造化」を基本方針とした、「公共建築物等における木材促進に関する法律」を制定しました。この法施行を機に、公共に限らず、民間の木造建築が一気に増えることになりました。

しかし日本の林業の衰退に歯止めがかかり、成長産業になるにはまだ数々の問題があるようです。一つには国や自治体による各種の補助金で木材の生産は拡大しているが、その利益が生産コスト分に達せず、国の地方交付税や補助金体質がますます強くなっていると聞きます。また林業技術の水準が国際的に高いとは言えず、外国産木材との競争に勝てないのでは、と危惧されていると聞きます。 この様に、現在の木造建築が爆発的とも言えるブームとなっている反面、それを支える木材資源の供給の問題がしばしば言われています。そこで今回のフォーラムでは、日本の林業の健全な発展と、現在隆盛を極めている木造建築が一時的なブームに終わらせないために、私達建築関係者に何ができるのか、また何をすべきなのかを考えることにします。

皆様のふるってのご参加をお待ちしております。

*1)「木材利用の促進に向けて」 林野庁林政部木材利用課 ㏋

*2)「絶望の林業」 田中淳夫 2019年 新泉社刊


第19回 AB(アーキテクト/ビルダー「建築の設計と生産」)研究会
建築生産を支える専門職(サブコントラクター)の世界

コーディネーター:布野修司+安藤正雄+斎藤公男

日時:2021年3月27日(土)15:00〜18:30(予定)
会場:オンライン(Zoom)
概要・趣旨説明:中村良和
プレゼンテーション:
1.「瓦職人(屋根仕上業者)の世界」:(株)坪井利三郎商店 代表取締役社長 坪井 進悟
2.「鉄加工建材メーカーの世界」:カツデンアーキテック(株)  代表取締役社長 坂田 清茂

参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第19回AB研究会参加希望」とご明記ください。

戦後、日本の建築・住宅の供給構造は部品化を中心とした工法革新が進展し、住宅生産の性能向上と生産効率向上を両立させてきた。

現在その供給構造は既存の量産部品化がベースとなっており、一般の建築設計や生産現場に対して、構造、デザイン、デティール等の自由度喪失や技術能力低下といった影響が顕在化している。また、前回(第18回)のAB研究会では蟹沢先生から改めて職人不足を中心とした問題の現状と深刻さが報告された。

このままだと、行き止まりの袋小路に行き詰った状態のまま、建築・住宅の供給構造は停滞して行き、顧客も含めた全てのプレイヤーに未来が無いように思われる。

設計・部品生産・建築現場・品質保証といった一貫・連続していながら、それぞれがもっと顧客・地場に近く、自由度が高く且つ経済合理性が高いサスティナブルな供給構造に変革させて行く可能性はあるのだろうか。 そこで今回は、建築設計者があまり直接接触していない協力事業者(専門工事店や建材メーカー)に注目したい。

専門職(サブコントラクター)はBtoBということもあり、建築規模的にもエリア的にも小から大まで比較的に広範囲な事業展開をされています。その中でも専門職人・技術者の育成等も含めて事業継続性を克服されている事業者トップに現状と課題や取組み等をお聞きして、専門職(サブコントラクター)の世界を垣間見ながら、代替わりの秘訣や新しい職能ネットワークの可能性等について議論を展開したい。


第1回 アーキニアリング・デザイン・アワード 2020
最終審査結果発表

2021年2月6日最終審査会でプレゼン(プレゼン時間4分程度+質疑応答6分程度、プレゼン⽅法は⾃由)を⾏い、公開審査(Youtubeライブ配信)により最優秀賞、優秀賞を決定しました。

最優秀賞:32    LUCERNE FESTIVAL ARK NOVA  東日本大震災の被災地を巡回する移動式仮設空気膜構造
優秀賞    :05    スケールの異なる複層空間とハイブリッドな屋根構造 <福井県年縞博物館>
優秀賞    :24    TBM PROJECT - CLTを用いた折板構造V字梁 -
優秀賞    :44    細く短い木材を シンプルにつないで スパン70mを実現する 大空間屋根構造  昭和電工(大分県立)武道スポーツセンターの屋根構造における「構造形態」-「部材構成」-「接合ディテール」のトータルデザイン

概要欄に各発表へのショートカットがあります

第1回 アーキニアリング・デザイン・アワード 2020
表彰式・受賞記念講演会

2021年2月27日(土)14:00~
オンラインで開催いたします。


神田 順  まちの中の建築スケッチ 「日光東照宮—装飾された建築—」/住まいマガジンびお